第25話 共依存

 ホワイトデーが一日過ぎ去った月曜日。

 今日はついに終業式でこの式典が終われば俺たち学生は晴れて春休みを迎えることになる。

 そのせいだろうか、今日は寝起きから体が軽い。

 まあ、昨日理奈と楽しいホワイトデーを過ごしたからその余韻を引き継いでいるのかもしれないけどさ。


「ふぅ」


 朝起きてから自分でパンを用意してコーヒーを飲みながら朝のゆったりとした時間を過ごす。

 普段よりも眠気は控えめで気分はよかった。

 ふいについているテレビが目に入る。

 何かがどこからか脱走したというニュースが流れていたけど、そこまで興味もなかった俺は適当にテレビを消して学校に向かう準備を始めた。


「にしても動物園からライオンでも脱走したのか? いや、そんなわけないか。そうだったらもっと大層なニュースになっているはずだし」


 今どき動物園から動物が脱走するなんて不手際があるなんてあるとは思えない。

 適当に用意を済ませた俺は理奈の家に春香と共に向かう。


「昨日は楽しかった? 秋兄」


「凄く楽しかったぞ。チョコのような甘いひと時を過ごさせてもらった」


「なんか生々しいね。でも、秋兄が凄く幸せそうで私は嬉しいよ」


「心配かけたな」


「ほんとだよ。もうあんなに心配かけさせないでよね」


 春香は俺が入院してからかなり心配をかけてしまった。

 それに加えて、最近は春香にあんまり構ってやることが出来ていなかったから心苦しくはあったのだ。


「気を付けるけど断言はできないぞ? そう言った事件に巻き込まれたくなくても事件に巻き込まれることはままあるんだからな」


「それはそうなんだけど、自分から飛び込みに行っちゃダメだよ?」


「わかってるよ。春香や理奈に心配をかけるような事を積極的にすることは無い」


 まあ、そう何回もあんな事件に巻き込まれるなんて思いたくはないけど。

 というかないだろ。

 俺は生きてるのは小説の世界でもなければアニメの世界でもない。

 れっきとした現実なのだ。


「ならいいけどね。はい指きりしよ!」


 春香は俺の少し前まで早歩きして俺の前に立つ。

 そうして小指を突き出してくる。


「ん。わかった」


 指きりなんていつぶりにしたんだろうか。

 本当に小学生とかそこまで遡ることになりそうだ。


「これで良し! 破ったら本当に許さないからね!」


「わかってるって。春香を怒らせると怖いのは俺が一番知ってるからな」


 春香は普段活発で明るくて優しい性格をしているけど本気で怒ったら手を付けられなくなる。

 子供の頃に数回本気で怒った春香が怒ったのを見たことがあるけど、あの矛先だけは自分に向けられたくない。

 さすがの俺も高校二年生にしてちびってしまうかもしれない。

 いや、マジで。


「あれ? アキ春香ちゃんと何してるの? 浮気?」


「妹と浮気する兄がいてたまるか」


「おはようございます理奈ちゃん」


「おはよう春香ちゃん」


 一瞬ハイライトのない目で睨まれた。

 冗談だとわかっていても美人のこういう顔は凄く迫力がある。

 理奈に怒られるのは勘弁願いたい。

 というか、理奈とは喧嘩したくないしな。


「今日でやっと二年生も終わりだね~」


「だな。理奈は春休み何かやる事って決まってるのか?」


「ううん。春休みは特に予定とかはないよ! アキとどこかに遊びに行きたいな~くらいだね」


「その時は私も一緒に行ってもいいですか? たまには二人と遊びたいんで!」


 春香はぱぁっと太陽みたいな笑みを向けてくる。

 最近春香とどこかに遊びに行くことが全くなかったからたまにはいいのかもしれない。

 そう思ってチラッと理奈にアイコンタクトを送る。

 すると、理奈はコクコクと頷いてくれた。


「もちろん! じゃあ、今日の帰りにでも三人でどこに行くか決めるか?」


「いいね! 理奈ちゃんはそれでもいい?」


「ごめん。今日はちょっと予定があって一緒に帰れないんだ」


「そうなのか。じゃあ、また明日にでも話し合うか。どうせ春休みはそれなりにあるわけだし」


「宿題もないしね」


 俺たちは呑気にそんな話をしながら二年生最後の学校に向かう。

 意外と感慨深くなったりするのかと思ったけど、よくよく考えてみれば転校してきたのもつい最近だったし、なんならそこから入院して一か月ほど休んでたからそこまで感慨深くもならなかった。


 ◇


「秋兄は理奈ちゃんが今日何の予定があるのか聞いた?」


「いんや。そこまで聞くのなんかキモくないか? 束縛してるみたいで」


 家に帰ったら春香が炬燵でくつろいでいたため俺も炬燵に入ってまったりする。

 三月もそろそろ終わりだというのに外はまだそれなりに寒い。

 4月になれば、炬燵を必要としないくらいに暖かくなるのだろうか。


「それは確かにそうかも。秋兄は束縛とか嫌いな感じ?」


「当たり前だろ。束縛なんてするのもされるのも二度とごめんだ」


「それもそっか」


 狂歌にえぐい束縛をされてたのに俺が誰かを束縛しようと考えるわけもない。

 あんな思いをするのは本当に二度とごめんだ。


「春香はもうちょいで二年生になるけど思う事はあるのか?」


「ないね! 勉強がめんどくさくなることくらいかな? クラス替えの結果が気になるくらいじゃない?」


「それは俺も気になるな。だって理奈とクラスが離れたら頭がおかしくなるかもしれないしな」


「ちゃんと依存してるじゃん」


 確かに俺が理奈に依存してるのは否めない事実かもしれない。

 理奈のことは大好きだし、別れるなんて考えられない。

 でも、もし仮に理奈に別れようと言われたら受け入れる気がする。

 理奈には幸せになってほしいから。


「だな。秘密だぞ?」


 ちょっと茶化してそう言うけど、春香は呆れたようにジト目で俺を見つめてくる。


「大丈夫でしょ。わざわざ秘密になんかしなくても理奈ちゃんは気が付いてるだろうし。なんなら理奈ちゃんも秋兄に依存してるよ。共依存ってやつだね」


「共依存……か」


 それがいい事なのかどうかはわからないけど、悪い響きじゃないなと。

 そう思った。



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