第24話 幸せなホワイトデー
「というわけでこれホワイトデーの贈り物。喜んでもらえると嬉しいんだけど」
「嬉しい! 開けてみてもいい?」
「もちろん」
ホワイトデー当日。
理奈は俺の家でくつろいでいた。
理由は簡単でホワイトデーは俺の家でデートをする約束だったからだ。
「マグカップとマフラー! しかもメチャクチャ可愛い!」
理奈は袋から取り出したプレゼントを見て喜んでいた。
こんなにも喜んでいる理奈を見るのは凄く久しぶりだったから、かなりドキドキした。
今までも可愛い笑顔を見せてくれてはいたけど、今回のは今までと比べ物にならないくらいには可愛かったのだ。
正直結婚したい。
「結構悩んだんだけど、良かったか? 今後の参考までに感想を教えて欲しい」
無論、これからはしっかりと事前にリサーチをする気ではあるけどそれはそうとして理奈の趣味嗜好をもっと知っておく必要がある。
「凄く嬉しいよ! マグカップは普段使いできるしなんならアキの家に置いといてもらえばアキの淹れてくれるコーヒーがそのマグカップで飲めるし。マフラーは長い時間使えるし」
「喜んでもらえたようでよかった。ちなみにどっちのほうが理奈の好み的に良かった?」
マフラーとマグカップ。
デザインはどちらも似たようなものだけど、物としてどちらが嬉しいかを聞いておきたかった。
ちなみに言うと、マグカップは春をモチーフにした桜柄のマグカップでマフラー赤を基調としていて緑色と黒色の線が入っているチェック柄だ。
どちらも理奈が持っていたら似合うと思って選んだのだが。
「う~ん、どっちも凄く嬉しいから優劣はつけたくないな。どっちも大切にしたいし」
「それもそうか。すまん。変な事を聞いた」
「ううん。全然いいよ~気にしないで! それよりも早速だけどこのマグカップ使ってコーヒー淹れてよ!」
「ん。いつもはカフェオレにしてるけど、今日もそれでいいか?」
「ん~じゃあ、今日はブラックにしてみようかな。アキがくれたチョコを食べるならコーヒーは苦い方がいいからね!」
確かに。
贈り物は二つ贈ったけど、しっかりとチョコも渡しているのだ。
だって、一応はホワイトデーの贈り物ってことだしね。
チョコを入れておかないとホワイトデーの贈り物って感じがしないし。
「わかった。淹れてくるからちょっと待っててくれな」
いつもの手つきでコーヒーを淹れる。
理奈と付き合い始めてからずっと淹れてるから流石に慣れてくる。
俺自身コーヒーは嫌いじゃないし、コーヒーを淹れて理奈が喜ぶ顔を見るのは大好きだった。
「そう言えば、傷は完全に塞がったか?」
腹をさすってみると痛むことなく普通にさすることができた。
全治は三か月ほどと言われたが一か月ほど早く治ったらしい。
案外、俺の再生速度は速いらしい。
今となっては走っても傷が開くという事もなく普通に動くことができる。
「流石にあの時は死んだかと思ったな。生きてるのが奇跡みたいだ」
運が悪ければ、俺はあの時ポックリ死んでいる。
そうでなくても、なんの障害も残っていないのは奇跡といっても過言ではないのだろう。
全く、俺も悪運が良いらしい。
「っと、そろそろか」
沸騰を始めたやかんの日を止めてマグカップにセットしたドリップコーヒーの上から熱湯を注ぐ。
喫茶店で嗅ぐようなコーヒーの良い匂いが漂ってくる。
俺はこの匂いが好きだ。
嗅いでいると心が落ち着くし、なんだか幸せな気分になる。
まあ、昔からコーヒーの匂いが好きなのは変わっていないのだけど。
「できたぞ~」
二人分のマグカップを持って俺はリビングの炬燵に向かう。
理奈はいつものように炬燵に入ってくつろいでいた。
すっかりうちにいるのが馴染んでしまっている。
ちなみに両親はデートに行き、春香は友達と遊びに行ったらしい。
半端なく空気を読まれているような気がする。
感謝しておこう。
「ありがと! やっぱりアキが淹れてくれるコーヒーっていいね!」
「市販のドリップコーヒーだから誰が入れても同じ味だと思うぞ?」
「む~そういう事じゃないんだよな~」
どうやら違うらしい。
まあ、見知らぬ他人が入れるよりは知っている人間に淹れてもらった方がいいって言うのはあるかもしれないな。
などと、俺は勝手に自分で納得した。
「やっぱりこのマグカップ凄く可愛い! アキって前から思ってたけど凄くセンスいいよね!」
「そんなことない。これは俺のセンスというよりも直観みたいなものだよ。このマグカップ見た瞬間理奈が持ってる光景が思い浮かんでさ」
「そう言うのをセンスって言うんだと思うんだけどな。本当にありがとうねアキ」
「どういたしまして。そこまで喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
まさか、ここまで純粋に喜んでもらえるなんて思いもしなかった。
あれだけ苦労して悩みに悩んで選んだ甲斐があったというものである。
「大好きだよアキ。えへへ」
マグカップを受け取ってにへへっと理奈が笑う。
こんな風な彼女の笑顔が見れるのなら何度でもプレゼントを贈りたいと思える。
というか、ことあるごとにプレゼントを贈ることにしよ。
理奈の笑顔見たいし。
可愛いし。
「俺も理奈のこと大好きだよ」
炬燵に入りなおして左にいる理奈と向き合って笑顔を向ける。
今すぐにでも抱きしめたかったけど、2人ともマグカップを持っていたから流石に自重した。
ここでコーヒーをこぼしたら大惨事だ。
炬燵がおじゃんになるのもそうだし、2人してやけどを負ってしまう。
理奈の綺麗な白い肌にやけどができるのは何としても避けなければなるまい。
「えへへ~」
二人でまったりと炬燵に入りながらコーヒーを飲む。
理奈と二人で過ごしてるからか、そうでないのかは知らないけど今日のコーヒーはブラックなのになんだか甘く感じた。
◇
「そろそろ春休みだけど、何かする?」
「そうだな~そこら辺はゆっくり決めればいいんじゃないか?」
今日はホワイトデー。
つまりは3月14日だ。
俺達高校生が春休みに突入するのはそろそろなわけで予定を考えておいた方がいい。
それはわかっているつもりではあるのだが、今はそんなことよりも理奈とイチャついていたい。
「ま、そうだよね。そこまで急ぎで決めるような事でもないし」
言いながら理奈は俺の左肩に頭をのせてきた。
シャンプーの花のような匂いがするし。左腕に当たる理奈の体温にどうしても意識が持っていかれてしまう。
どうして女の子はこんなにもいい匂いがするのだろうか?
なんてキモいことを考えていると更に体の左側にかけられる重さが増した。
「眠いのか?」
「うん。ちょっとね。こうやってアキの肩に寄りかかって寝てもいい?」
「別に良いけどその態勢だときつくないか?」
「いいの。今はこんな風にアキに寄りかかりたい気分だから」
「わかった。好きにしてくれ」
そう言うと理奈は目を瞑って寝息をたて始める。
最近疲れている様子だったしこういう時くらいは休ませてあげたい。
……理奈は何で最近疲れてたんだろうか?
とくにテストがあったとかそう言った事はなかったはずだけどな。
まあ、本当に困ったことがあるのなら理奈は素直に相談してくれるだろうし頼られるまでは俺が勝手に何か行動を起こさない方がいいだろうな。
「にしても、最近そんなに忙しい事とかあったか?」
テストはもう終わってるはずだし。
後は春休みを待つだけじゃないのか?
個人的に何かをしているのかな。
「ま、そんなことは考えなくてもいいか。今はこうして寝てる理奈に寄り添うことが俺の仕事だからな」
そうして俺たちのホワイトデーは穏やかな時間を過ごして終わった。
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