第23話 理奈のことを想ったプレゼント

「そんで、秋トは清水さんに何を贈るのか考えてるのか?」


「それが、まだ考えてないんだよな」


「何を欲しがってるのかとかそう言うのは調べてるんだろ?」


 礼二は屈託のない笑みを浮かべてそう言うけど、実は全く聞いてない。

 調べてもいない。

 何という事だろう。


「……」


「お前……マジかよ」


「俺も流石にやらかしたなと思ってる。次からはこういうのをしっかり調べないといけないなと深く反省してる」


「ま、反省はしっかりしたほうがいいだろうな。でも、まずは反省することよりも何を贈るかを考えるところから始めねぇとな。その様子なら午前も何かを見てたんだろ?」


「まあな。アクセサリー類を見てたんだが、ピンとくるものが無くてな」


 二時間の時間をかけてアクセサリー類を売っている店を見たが、良い物が無かった。

 厳密に言えばいい物がないわけではなかったんだけど、理奈に似合うかどうかとという観点から買うのはやめておいた。


「そもそも清水さんはアクセサリー類を欲しがってるのか?」


「いや、それはわからないけど」


「じゃあ、なんで秋トはアクセサリー類を贈ろうとしてるんだ?」


「それは、ネットでホワイトデーでの贈り物の定番を調べて」


「そこから間違ってんじゃねぇのか? 贈る物は相手によって変わるしお前が一番に考えないといけないのは何を贈ったら清水さんを喜ばせることができるかじゃないのか?」


 礼二にそう言われてはっとなった。

 確かに俺はホワイトデーでの定番の贈り物とかそんなことを考え過ぎていた。

 礼二の言う通り、理奈に何を贈れば喜ぶのかを真剣に考えていなかったかもしれない。


「確かに……そうだな。ホワイトデーに何かを贈ることを考えるあまり、失念していた」


「じゃあ、考えてみればいいんじゃね~の? 俺は清水さんが受け取って喜ぶような物が何かわかんないけど、お前がちゃんと考えればわかるんじゃないか?」


 理奈が受け取って喜ぶようなものか。

 一体なんだろう?

 ここ最近の理奈のことを思い出しながら何を贈れば彼女が喜びそうか考える。

 それでハッキリしたことはアクセサリー類ではないような気がする。

 いや、正確には喜ぶだろうけど心の底からというわけではなさそうだ。


「う~ん」


「悩んでるな。なんか青春だなぁ」


 感慨深そうに礼二は呟いていた。

 まだ、十代だっていうのになんでこんなにもおっさん臭く見えるのか。

 同い年のはずなんだがな。


「どうしたもんかね」


「予算的にはどうなんだ?」


「別に予算を低く設定するつもりはないな。というか、それなりに金は持ってるから3万くらいなら普通に出せるな」


「……お前高校生だよな? 何者だよ。家が凄い金持ちとかか?」


「そういうわけじゃない。ちょっと前にやめたけどバイトをメチャクチャしてたってだけだ」


 俺は高校で狂歌と付き合ってあいつの異常に気が付いてからあいつといる時間をなるべく減らすためにバイトを入れまくっていた。

 そのことを狂歌に話して怒られたこともあったけど、最終的には狂歌のためにお金を使いたいといってなんとか了承を貰った。

 その時に溜めていた金が大量に余ってるんだ。

 貯金額だけで言えば、そこら辺の高校生の数倍はあるはずだ。


「なるほどな。でも、高すぎる物はあんまりよくないと思うぜ。高すぎると次に送る物のハードルがどんどん上がっていくことになるわけだからな」


「それは確かにそうかも。一番大切なのは金額じゃなくて何を思って相手に送るかを考えることってわけか。そんな良い事が言えるのになんでお前は彼女がいないんだ?」


「そんなの俺が一番知りてぇよ! いろんな人に顔は良いって言われるんだ! だけど、性格が良くないって言われるんだよな~」


 はて、礼二のどこに性格的な問題があるのだろうか?

 俺から見ればしっかりとした好青年だ。

 まあ、男子視点からではわからないような問題点を抱えているのかもしれないな。


「大体固まったな。場所移動してもいいか?」


「もちろん」


 礼二にそう言って俺は雑貨屋に向かう。

 ここなら理奈に贈って喜んでもらえそうなものが複数置いている気がしたからだ。


「雑貨屋か。何を贈るつもりなんだ?」


「日常で使えるものだな。理奈はそっちの方が喜んでくれそうな気がする」


「それは良いかもな。付き合ってるなら物系を贈るのも全然ありだと思うぜ」


「だよな。という事でちょっと見て回るわ」


「おうよ」


 こうして俺は雑貨屋を見て回った。

 本当に様々なものが置いてあって、実用的な物から可愛い置物。

 何故だか甲冑なんかも置いてあった。

 最近の雑貨屋ってこういうのが置いてあるものなのだろうか?


「で、30分くらい見て回ったわけだがいい物は見つかったか?」


「ああ。二択まで絞り込めたよ」


「ほう、何と何なんだ? その二択は」


「マグカップかマフラーだな。どっちも中々良くてかなり迷ってる」


 普段から家でコーヒーを飲む理奈にマグカップを渡したら喜んでくれると思うし、デザインも理奈が好きそうなものだった。

 マフラーはまだまだ寒い今の時期に贈ってミスることは無いだろうし、なによりあのマフラーをつけている理奈を見たかった。


「なるほどな。予算に余裕があるんなら二つ贈ればいいんじゃないか? めちゃくちゃ高いってわけでもないんだろ?」


「はっ……その手があったか」


 礼二は天才ではないだろうか?

 こんな妙案が思いつくなんて。


「いやいや、これくらい思いついて普通だからな? その天才だっ!? みたいな顔で見るのやめてくれ」


「でも、俺にが思いつかなかったから。ありがとう。今日礼二と見て回れてよかった。ありがとな」


「良いってことよ。俺達友達だからな」


 ニカッと太陽みたいな笑みを浮かべてサムズアップ礼二。

 やっぱり、礼二に恋人がいないのは周囲の見る目が無いんだと思う。

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