第7話 人気者と胸のモヤモヤ
「アキおはよ! 春香ちゃんも」
「おはよう理奈」
「おはようございます! 理奈ちゃん」
翌日の朝、昨日の宣言通りに理奈が迎えに来てくれた。
今日も今日とて外の気温は低く、玄関から一歩外に出るとあまりの寒さに目が冴えわたる。
「じゃあ、行こう! 今から遅刻するわけじゃないけど、寒いからね」
「だな。春香もボサッとしてないで速く行くぞ~」
「あ、うん!」
昨日のように会話をしながら俺たちは最寄り駅まで向かう。
こうやって三人で話すことが今まで少なかったため、会話も途切れることなく駅に着く。
「秋兄は学校馴染めそう?」
「ああ。理奈のおかげですんなり馴染ことが出来そうだよ」
「私のおかげって事はないと思うけど、そう言われると嬉しいな」
「良かったぁ~秋兄は本当に理奈ちゃんに感謝しないとね!」
「マジでずっと感謝してる」
最近は理奈に感謝しっぱなしだ。
ここまで今が楽しいと思えるのはどう考えても理奈の存在が大きい。
もちろん、春香にも助けられている。
「ちょ、そんな真正面から言われると照れるんだけど……」
「理奈ちゃん可愛い!」
「あんまし理奈を揶揄うなよ?」
こんな感じで俺たちは和気あいあいと話しながら電車に乗ってそれぞれの学校に行く。
春香は俺たちよりも先に降りて自分の通う学校に。
俺と理奈はその少し後に電車を降りて学校へと向かう。
「なんか、めっちゃ見られてないか?」
「そうかな? まあ、確かに視線は感じるけど」
電車を降りて学校に向かう道中、なぜか同じ制服を着た生徒にめちゃくちゃ見られている気がする。
というか、気がするどころではなくガン見されてる。
どうして?
俺にはまったく心当たりがない。
昨日転校してきたからってここまで注目を集めるものだろうか?
「いや、絶対見られてるでしょ。自意識過剰とかそういう次元じゃないよ」
「ん~わかんないけど、ちょっと急ぎ目に教室行く?」
「そうしよう。なんだか、ものすごく居心地が悪い」
理奈にお願いして俺たちは小走りで教室まで急いだ。
どうしてだか、視線を集めてたけど本当に何だったんだ?
「おはよ~さん。お二人とも」
「ああ、おはよう礼二」
「おはよ。藤田君」
教室に着けば真っ先に礼二が挨拶をしてくれた。
彼に挨拶を交わした後に自分の机に荷物を置く。
「じゃあ、私はあっちでみんなと話してくるから。またあとでね! アキ」
「またあとで」
理奈はそう言って自分の席に荷物を置いてすぐに教室の前の方で話していた女子グループに合流しに行った。
理奈のことだから、男女ともに人気があるんだろうなと勝手に思う。
「昨日から聞きたかったんだけどよ、秋トと
「いや、そういうわけじゃないけど。俺と理奈は幼馴染なんだよ。幼稚園の頃からの知り合いだ。高校に上がってからは疎遠になってたんだけど、偶然こっちの高校に転校してきたときに会ってな」
昨日一緒に居た件に関しては偶然駅で一緒になったという事にしてある。
この高校で狂歌の事を話すつもりが無いし、もし話して狂歌にここのことを嗅ぎつけられたくなかった。
「なるほどな~俺もあんな美人な幼馴染が欲しかったぜ」
「礼二なら幼馴染とか関係なくモテるんじゃないのか?」
「それが、そうもいかないんだよ。俺、今彼女いないしな」
礼二はうなだれながらそう言ってる。
ここまでイケメンなのだから、彼女もいるもんだと思うがそういうわけでもないらしい。
性格も悪くないように思うんだけど、他に何か要因があるのだろうか?
「一つ聞いてもいいか?」
「ん? なんだ? 俺に答えられることなら答えるぞ」
「なんか、今日学校に来る最中メチャクチャ見られてた気がするんだけど何か理由とかあったりするのか?」
「ん~思いつく節は……」
礼二は腕を組んでうなりながら考えている。
やはり、俺の自意識過剰だったのだろうか?
でも、あそこまで見られるというのは経験がないのでわからない。
「一つしかないだろうな」
少し考えた後に、礼二は顔を上げる。
どうやら、心当たりがあるようだ。
「どんな心当たりだ!? 俺、もしかしてなんか変な事してたか?」
「変な事って言うか……清水さんと一緒に歩いてただろ? だからじゃねぇか?」
「……どういうこと?」
「いや、清水さんってメチャクチャ可愛いだろ? だから学校中の男子が声かけてたんだけど、全員撃沈されててな。普通に話してくれるんだけど、登下校を一緒にしたことある男子とかいないんだよ。だからじゃねぇか?」
礼二曰く、今まで理奈は男性関係の噂が全く立っておらず何度も告白されているのにそのすべてを撃沈しているらしい。
そう言うこともあって、理奈と二人で歩いてる俺に視線が集まったらしい。
「なるほど、そんなことがあったのか」
「聞いてなかったのか? 幼馴染なんだからそんくらいは話してると思ったんだが……」
「言ったろ? 高校に上がってから疎遠だったんだよ。ろくに連絡とってなかったし」
「ああ、そう言えばそう言ってたな。ま、そういうわけだから注目を集めてたんじゃないか? 清水さんって男子から凄く人気だからな」
確かに……理奈って凄く可愛いし、性格も良いから男子にモテそうだよなぁ。
なんか、そう考えるとモヤモヤするな。
って、彼氏でもない俺がこんなこと考えてるってキモいよな。
……俺ってこんなにキモい奴だったっけ?
「ん? どした? いきなり変な顔して」
「いや、何でもない。それより礼二は彼女作んないのか?」
「いきなり話題変えてきたな……ま、作りてぇけどよ。なかなかいい出会いがなくてだな」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ。誰しもがお前みたいに可愛い幼馴染がいるわけじゃねぇんだぞ?」
礼二は俺を睨みながら呪詛を吐いてくる。
……なんか悪い事したな。
「なんか……ごめんな?」
「謝んなよ。なんか惨めになるだろ! 俺が」
「……ごめん」
そんな会話をしてるとチャイムが鳴り響き、朝のホームルームが始まるのだった。
◇
「秋ト、お前昼飯はどうすんだ? 学食か?」
「いや、弁当持ってきてる。礼二はどうなんだよ」
「俺は学食派なんだが、一緒に行かないか? 席に座るのは自由だし」
「なら、行ってみようかな。一緒に行っても良いか?」
「当たり前だろ。案内するから行こうぜ」
礼二に誘われて俺たちは二人で学食に向かう。
「これは……かなり広いな」
「だろ? ここの学食は結構広いしバリエーションが豊富なんだよ。値段も安いしな」
橘高校の食堂は本当に広くて、体感で体育館くらいの広さがあるような気がする。
まあ、気がするだけで実際は体育館の半分くらいの広さなんだろうけど。
流石は私立校といった感じか。
「そうなのか?」
「ああ。あそこにある券売機で券を買ってカウンターに持っていけばすぐに料理が出てくるんだぜ」
「本当にすごいな」
昼休みが始まって数分なのに食堂内は既に賑わっており、学年問わず生徒が券売機に並んでいる。
席も大半が埋まっていたが、まだいくつか空きがあった。
「先に席取ろうぜ。じゃないと、おちおち飯も食えないからな」
「わかった。そこら辺はよくわかんないから礼二に任せる」
「おけ。じゃあ、とっとと行くか」
礼二に先導されながら俺たちは空いている席に座る。
そのころにはすでに券売機付近にいた生徒たちもある程度佩けていて次はカウンターに行列が出来ていた。
「俺は券売機行くけど、秋トは待ってるか?」
「ああ。弁当だしな」
「わかった。じゃあ、速めに注文済まして戻ってくるな」
「そこまで気にしなくてもいいぞ。ゆっくり選んできてくれ」
礼二を送り出して、俺は周囲を見渡す。
やっぱり人が多くて、学食ってこんな感じなんだなと感心する。
前の学校は公立なこともあって学食なんて存在しなかったし。
「というか、めっちゃいいにおいするな。今度食べてみよ」
周りの生徒が持っているトレイには美味しそうに湯気を立てている学食を見ると食欲がわいてくる。
弁当も良いけど、学食で食べれば出来立ての物が食べられるのか。
「そう考えると学食もかなりいいな」
今日一日で発見ばかりだ。
今度は学食で食べてみることにしよう。
◇
「じゃ、帰ろっか」
「ああ」
帰りのホームルームが終わり、理奈と一緒に帰路に就く。
礼二に聞いた通り、理奈は学校で人気のようで理奈の隣を歩いてるとやはり注目を集めている気がする。
……心なしかその視線に悪意が含まれているような気がするが。
「今日は藤田君と学食に行ってたね。どうだった?」
「なんか広かったな。前の高校は食堂とかが無かったから新鮮だった」
「そう言えばアキの前の高校は公立だったね。ここの食堂は良い感じだった?」
「結構使ってみたくはあったな。今度は学食でしっかり注文して食べてみるよ」
かなり気になる料理があったし、出来立てを食べられるのも嬉しい。
絶対に今度使おう。
「いいね! その時は私も誘ってよ」
「理奈が良いならもちろん」
「じゃあ決まりね! あと、今日もアキの家に行ってもいい?」
「もちろん。理奈が良いのであれば好きなだけ家でくつろいでいってくれ」
嬉しいな。
理奈と一緒に居られるの。
「やった! 今日もコーヒーを入れてもらってもいい?」
「任せてくれ。俺もコーヒーを飲みたいしな」
既に日が沈みかけている道を理奈と並んでゆっくりと歩く。
隣で機嫌良さそうに歩く理奈の横顔は見ていて飽きない。
「アキって週末何か予定あったりする?」
「いや、無いと思うけど。なんでだ?」
「予定ないなら一緒にどこか行かない? 久しぶりにアキと二人で遊びに行きたい!」
ニコッと満面の笑みでそう言ってくる理奈があまりにも可愛すぎてすぐにでも抱きしめたくなる。
まあ、そんなことをしたら普通に嫌われかねないので絶対にやらないが。
「俺も理奈と遊びに行きたいな。じゃあ、予定は俺の家でゆっくりコーヒーを飲みながら決めるか」
「いいねそれ! じゃあ、速くアキの家に行こう!」
「わかったから手引っ張るなって」
いきなりギュッと理奈に手を握られてドキドキする。
自分よりも小さくて柔らかい手が俺のことを引っ張っていく。
そう言えば、昔から俺が迷っている時とか困っている時はこんな風に理奈が手を引いてくれたっけな。
「ふっ」
「ん? アキどうして笑ってるの?」
「いや、なんだか懐かしいと思ってな」
「何が?」
理奈は少し困惑した様子で聞いてきたけど、なんだか正直に話すのが恥ずかしかったからごまかすことにした。
「なんでもない」
俺は理奈に微笑みかけて二人で走る。
先ほどまで俺たちを照らしていた夕陽はいつの間にか沈んでいた。
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