第6話 寝落ち電話? (違う)

 私にはとてもカッコいい幼馴染がいる。

 名前は南 秋ト。

 性格も容姿も凄くカッコよくて自慢の幼馴染。

 でも、中学を卒業してからは音信不通になってしまってどれだけ連絡しても連絡が帰ってくることはなくて。

 会いに行こうかと考えたけど、私が何かしちゃって嫌われてらたらどうしようって思うと会いに行くことはできなかった。

 そんなモヤモヤを抱えながらクリスマスに気分転換で出歩いていたら、彼を見かけた。


「やっぱり、カッコよかったな。いや、中学の頃もカッコよかったけど磨きがかかったっていうか。ちょっと大人っぽくなったというか」


 綺麗な黒の短髪に透き通るような蒼の瞳。

 釣り目でクールな印象を受けることもあるけど、話すとちょっとお茶目で笑顔が似合う男の子。

 そして、ずっと前から一緒に居た気の合う幼馴染。

 それが私にとってのアキだった。


「あの傷……痛そうだったな」


 思い出すのは今日、アキの家で見たお腹の傷。

 細かい傷がいっぱいあったり、深そうな傷があったりとても痛々しかった。

 それに、今日出血していた傷はかなり深かったみたいでアキはずっと顔を歪めていた。

 なのに、私の前だからって強がって笑顔を保とうとしてて。


「アキって昔から変なところで気を使うんだから」


 昔からアキは私や春香ちゃんに心配をかけさせないために嘘をついたり、我慢したり。

 そう言うことをする節があった。

 でも、今回の件に関しては度が過ぎると思う。

 あそこまで傷をつけられたらそれはもう束縛とかそんな次元じゃない。

 ただの傷害事件だ。


「もうアキに関わるような事はないと思うけど、私がしっかりアキを見ていないと」


 そうじゃないとアキはまた誰にも何も言わずに無理をする。

 あんな風に傷つくアキは見たくない。

 恐怖で震えるアキなんて本当に初めて見た。


「なんか……アキの事考えてたら声聞きたくなってきた」


 迷惑かもしれないと思いながらも私はアキに電話をかける。


 ◇


「ん? 電話?」


 部屋でくつろいでるといきなり電話がかかってきた。

 正直、この時間にかかってくる電話には嫌な思いでしかないけど、すでに狂歌の連絡先は消えてるのであいつからの電話という事はないだろう。

 そう、思ってはいるのだがスマホを取る手が少しだけ震える。

 これも一種のトラウマか。

 深呼吸をしてスマホの画面をのぞき込む。


「なんだ、理奈か。びっくりした」


 クリスマスに会った時に連絡先の交換を済ませていたので、かかってくるのは何ら不思議な事ではない。

 でも、こうやって誰かから電話がかかってくるのが少なかったから何か緊急事態が起きたのかと不安になる。


「もしもし? 理奈」


「あっ、いきなりごめんねアキ。忙しかった?」


「いや、部屋で寝ころんでただけだから全然忙しいってことは無いぞ」


 理奈の声を聴いて凄く安心した。

 これが、クリスマス以前なら狂歌がすぐに来てほしいといって俺は今すぐに着替えて電車に乗って家に行かないといけない所だった。


「そうなの? ならよかったけど」


「それよりいきなり電話なんて何かあったのか?」


「あっいや、全然そう言うわけじゃなくて。ちょっと声を聴きたくなっちゃっただけというか……えへへ」


「……そか。俺も理奈と話すの好きだから良いけどさ」


 いきなりそんなことを言われてドキッとする。

 理奈は昔からこんな風にドキッとすることを言うから心臓に悪い。


「ならよかった。今日の学校はどうだった? 馴染めそう?」


「うん。クラスの人たちは良い人そうだったし、さっそく話しかけてくれた礼二とはこれから仲良くやっていけそうだ」


「藤田君は明るくていい人だからね。成績も良いし運動もできるすごい人だよ」


「そうなのか。まあ、いい奴そうってことはわかったんだが」


 転校してきた俺にすぐに話しかけてきてくれたし、フレンドリーに接してくれたおかげでクラスにかなり馴染めた。

 本当にありがたい。

 というか、同性の友達なんて中学生以来できたことが無かったからかなり嬉しい。

 それに、中学時代の男友達の連絡先なんて全部消されてるから俺の中学以前の交友関係は全てリセットされてるわけだし。


「えへへ。アキなんだか生き生きしてるね?」


「そうかもな。クリスマスに解放されて理奈と出会ってからは良い事しかないような気がする。なんかありがとな」


「私は何もしてないけどね。それに私はアキと一緒に居るのが大好きだから、むしろお礼を言いたいのは私の方かもしれない」


「なんだよそれ」


 俺の方こそお礼を言われる覚えがない。

 理奈にとっては、今まで連絡してたのに全部無視されてたみたいな感じなのに。

 そんなことがあっても仲良くしてくれている理奈には本当に感謝しかない。


「なんでもなの。じゃ、もう切るね。時間も遅いし明日からは通常授業だしね」


「そか。遅いって言ってもまだ八時だけどな。まあ、寝る前に理奈と話せてよかったよ。明日は理奈の家に迎えに行けばいいか?」


「ううん。私がアキの家に迎えに行くよ。その方が駅近いしね」


「わかった。待ってる」


 家から最寄駅までは確かに俺の家の方が近いか。

 理奈を待たせないように早めに用意しないといけないな。


「うん! じゃあ、おやすみアキ」


「ああ。おやすみ理奈」


 電話を切った後、俺は枕を抱えてのたうち回った。

 心臓の鼓動が速い。

 めちゃくちゃドキドキしてる。

 でも、これは心地が良くて幸せな気分になるドキドキだ。

 冷や汗が止まらなくなるような嫌なドキドキじゃない。


「流石に可愛すぎだろ」


 女の子から声が聴きたいからって理由で電話をかけられた経験なんてない俺はずっと心臓がドキドキしっぱなしだった。

 理奈に動揺がバレないようにするので精いっぱいだった。


「はぁ、なんか今幸せだな」


 切実にそう思った。

 少し前まではこんな日常を送ることができるなんて思いもしなかっただろう。

 というか、そんなことを考える余裕なんてなかったし。


「準備して寝ようかな。明日は理奈が迎えに来てくれるって言ってたし。下手に待たせるわけにはいかないしな」


 明日の準備だけして、俺はそのままベッドに入った。

 少し早い時間だったので眠れるかどうか不安だったけど、心地いい眠気が訪れてきて、逆らう必要もないので俺はそのまま意識を手放した。


 ◇


「秋くんが転校した……?」


 今日、先生に秋くんのことを聞いたら転校したことを伝えられた。

 理由は家庭の事情って言ってたけど、なんで私に何の連絡もしてこなかったの?


「……私が連絡先を消しちゃったからか」


 しまったなぁ~

 こんなことになるならすぐに秋くんの連絡先を消すんじゃなかった。

 今からでも復元……はできそうにないし~


「家に行こうにも私、秋くんの家知らないんだよね~」


 じゃあ、秋くんの家を突き止めて復縁するしかないよね~

 やっぱり、秋くんしか私のことを受け止めてくれる人いないし。

 秋くんの事を考えたら会いたくなってきたな~

 いつもなら電話をすればすぐに来てくれたのに。

 電話できないからな~


「早く秋くんの事を探さなくちゃね♪」


 秋くんの事を考えながら私は眠りにつく。

 明日からの学校なんかより、今は一刻も早く秋くんを見つけないとね!

 あはは~



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