第4話 新生活と同じクラス

「今日は転校生の紹介があります。正直、私の教員人生でも数回くらいのイベントです。じゃあ、入ってきて」


 俺の担任になる女性の先生から教室に入るように促される。

 扉の前で一つ深呼吸をして扉をあける。

 先生の隣に立って後ろの黒板に自分の名前を書く。


「皆さん初めまして。臨海高校から転校してきました。南 秋トです。この学校では右も左もわからないので教えてくれるとありがたいです。よろしくお願いします」


 テンプレートのような挨拶をして、頭を下げる。

 クラス中からは拍手が巻き起こっていたけど、それよりも俺は教室の隅に見知った顔がいたことで俺はかなり安心していた。


「はい。そういうわけで今日から南くんがクラスに加わったので仲良くしてあげてくださいね。じゃあ、南くんはそこの空いてる席に座ってください」


「わかりました」


 俺は先生が指さした席に向かう。

 教卓から見て窓際の一番後ろ。

 所謂主人公席という奴だった。


「まさか、本当に同じクラスになるとは思ってなかったな……」


「それは俺もだな。でも、知ってる顔がいて俺は凄く安心した」


 隣の席にはさっきまで一緒に居た幼馴染である理奈が座っていたのだ。

 同じクラスになったのも驚きだし。隣の席になるというのも驚きだ。

 こればっかりは自分の幸運に感謝した。


「同じクラスになれて嬉しい。これからよろしくね! アキ」


「こちらこそ。この学校じゃわからないことも多いだろうから色々教えてくれると嬉しい」


「もちろん。そこら辺は私に任せといてよ」


 理奈はにこやかに笑いながら胸を張っていた。

 凄く可愛い仕草にやっぱり鼓動が速くなる。

 それをごまかすように「ありがとな」とだけ言って前を向いた。

 朝のホームルームが終わるまで理奈の顔をまともに見ることができなかった。


 ◇


「ねえねえ南くんはどうして転校してきたの?」


「この時期に転校なんて珍しいよね?」


「南くんは彼女とかいるの?」


 朝のホームルームが終わった瞬間、俺はクラスメイト達に囲まれていた。

 皆、転校生という存在に興味があるのだろう。

 俺に向けられる質問は様々あった。

 転校してきた理由や俺のプライベートについての質問。

 その他もろもろ。


「転校理由は家庭の都合だね。親の転勤でさ」


「へぇ~そうなんだ。大変だね」


「まあ、たまに転勤とかはあったからちょっと慣れてるよ。でも、新しい環境は戸惑っちゃから仲良くしてくれると嬉しい」


 流石に転校の本当の理由を馬鹿正直に話すことは憚られたため、予め用意しておいた言い訳を使うことにした。


「そりゃもちろん。よろしくな南」


「ああ、よろしく」


 気さくな男子生徒に話しかけてもらって周りが和む。

 こんな風に話しかけられることも前の高校ではなかったことだからとても新鮮な感覚だった。


「ま、困ったことがあったら何でも言ってくれよな。相談くらいなら乗るしよ」


 そう言って気さくな男子生徒は右手を差し出して来た。

 すぐに意図を察して、握手した。


「改めて、俺の名前は藤田ふじた 礼二れいじだ。よろしくな南」


「ああよろしく。藤田」


「別に礼二でいい。俺も秋トって呼んでもいいか?」


「もちろん。じゃ、改めてよろしく礼二」


「おうよ!」


 そう言って礼二は気さくに笑っていた。

 髪色は金髪で少しチャラけた雰囲気を感じたから少し警戒していたんだけど、そんなことは無く、かなり友好的に接してくれていて助かった。


 ◇


「じゃあ、帰ろうかアキ」


「今行くよ」


 転校先で少し気疲れはしたものの今日のスケジュールは始業式だけだったので体力的にはまだまだ残っていたりする。


「帰りにアキの家行ってもいい?」


「もちろん。といっても、家には誰もいないぞ? いて春香くらいか」


「別にいいよ~久しぶりにアキとこうやって二人で居れるのが嬉しいから、もうちょっと一緒に居たいの。ダメ?」


「ダメってことは無いけどさ。することも特にないだろ?」


 昔から俺は家で何かするという事が無かったため、家にゲームとかは無いし特に遊べるような物もない。

 ハッキリ言って高校生が来て楽しめるとは思えない。


「それはそうかもしれないけどね。今まで話せなかった分たくさん話したいだけだよ」


「ならいいけど。俺の家なら落ち着いて話せるしな」


 という事で、俺の家に向かうことになった。

 今まで会えなかった期間の話については俺に話せることはあまりないな。

 大体束縛されてたし。

 でも、理奈と話せるのは嬉しいから素直に家に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る