DVメンヘラ彼女を寝取られた俺は幼馴染と楽しい生活を謳歌します

夜空 叶ト

プロローグ 俺の記念日

『彼氏君見てる~? 君の大切な彼女ちゃんは今こうして俺の腕の中にいま~す。そういうわけでもう関わんないでねぇ~』


 クリスマスにいきなり彼女とのメッセージアプリに送られてきた動画。

 画面の中では金髪の男が彼女と肩を組んでいる。

 そう、腕を組んでいたのだ。

 俺が高校一年の時から付き合ってる彼女。

 金島かなしま 狂歌きょうか

 ピンク色の髪をショートカットにしており、俺といる時のように楽し気に笑っている。

 彼女の綺麗な琥珀色の瞳はすっかり金髪の男に向けられていて、おっとりしていた。

 そんな動画を目にした俺は自室で膝から崩れ落ちる。


「……」


 そして、もう一度スマホの画面を確認する。

 何度も何度も。

 目をこすって幻ではないことを確認する。

 やはり、幻ではない。


「春香! ちょっと来てくれ」


 俺が声を張り上げると、すぐに扉が開かれて妹のみなみ 春香はるかがやってくる。

 一つ年下の妹で桜色の髪を腰の上まで伸ばしていて人懐っこい笑みを浮かべている。

 赤色のタレ目は普段のようにおっとりとしていて見ていて落ち着く。

 身内びいきかもしれないけど、とても可愛い我が自慢の妹だ。


「どしたの秋兄? 何か大切な用事?」


「いや、そういうわけでもないんだが……俺の頬をつねってみてくれないか?」


「え……? いきなりどうしたの? まあ、いいけどさ」


 少し困惑気味に春香は俺の頬をつねってくれる。

 鈍い痛みが右頬を襲う。

 痛いという事は夢ではないという事だ。


「痛いな。つまり……夢ではない?」


「? 本当に大丈夫? なんだか様子がおかしいよ」


「いや、すまない。まだちょっと寝ぼけてるのかもしれないな」


 春香に変な心配をかけないために俺はごまかしながら考える。

 夢でも幻でもない?

 ということは、つまりこの動画が本当に俺……みなみ 秋ト《あきと》に送られたものという事だ。


「もぉ~クリスマスに家でいるからってだらけすぎじゃない? 彼女さんとは遊びに行かないの?」


「……どうやら、俺は振られたみたいだ。ちょっとこれ見てみてくれ」


 最終手段だ。

 春香が見てくれたらこの動画が俺の妄想か、それとも現実かがわかるはずだ。

 そう思ってスマホを春香に差し出す。


「え? なにこれ。何の動画?」


「ちょっと見てみてくれないか?」


 それだけ言ってスマホを渡すと春香はやっぱり困惑気味に動画を再生していた。

 そして、見終わってすぐに。


「なにこれ酷い! 秋兄可哀そう……」


「どんな動画が見えた?」


「どんなって、秋兄の彼女さんが知らない男の人と肩を組んでるところだけど」


 つまり、夢でも幻でも妄想でもないと……


「そうか」


「だ、大丈夫? 秋兄」


「ああ。大丈夫だ。大丈夫どころか……最高だぁぁぁぁ~!」


「……え?」


 春香からは不審者を見るかのような目で見られたけど今この時ばかりはそんなことが気にならないくらい、俺は歓喜に震えていた。

 ついに、ついにあのメンヘラDV彼女から解放されたのだと思うと涙が出そうになる。


「秋兄本当に大丈夫? 辛いなら話聞くよ。いったん一緒にリビングに行こ? ね」


 どうやら、春香には本気で心配されてるらしい。

 それはそうか。

 だって、俺が彼女からどんな扱いを受けているのか知らなかったわけだし。

 俺も家族に迷惑かけたくなくて話してなかったしな。


「そうだな。春香には聞いてもらいたい話が山ほどあるんだ! 久しぶりに兄妹仲良く炬燵にでも入りながら話そう!」


「う、うん」


 少し引き気味な春香と一緒に俺はリビングの炬燵に向かった。

 今年で一番嬉しい日だ。

 今日という日は誰が何と言おうと最高で幸せな日だ。

 個人的な記念日にしてもいいくらい。

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