②ゲームの強制イベントを異世界でやると……解決編
前回の文句を踏まえて、今日はいよいよ、お待ちかねの解決策を提示する回となります。これを書いている本人も、ボロカスに言うパートは必要悪だからと、我慢して書いているんですよ。好きなジャンルなんです。一人のファンとして、溜った物をぶちまけているだけなのです。ですので、「こうするだけで解決じゃん」の方が書いていて楽しいのです。
それでは、本題に参りましょう。具体的には「冒険者パーティーからの追放」に見られる、ゲーム感覚由来の問題点の改善策です。おさらいとして、一番の、根本的な問題を皆さんは覚えていらっしゃいますか?そうです、「追放の意味が分からない問題」です。冗談抜きに、ここさえクリアできれば、その後の多少の違和感は気にならなくなります。
冒頭で「追放」の意味を読者に教えてあげれば良い。
はい、解決。本当にこれだけ。これだけなのですが、出来る限り重い意味を持たせましょう。追放された者は二度とりんご飴を食べられなくなるとかだと、デメリットがしょぼすぎて、笑いを誘う事はあっても感情移入はできません。
追放=死
これが一番良いと思います。実際、現実の中世でしたら、どこにも所属しない者は恰好の餌食になっていました。何故なら、どこにも所属していないと言う事は、守ってくれる人も居なければ、仇討ちにやってくる者も出てこない事を意味する。そんな奴には何したって良いんです。治安が維持されている都市なら一般市民に殺されたりは流石にしないでしょうけど、それ未満なら何をされても驚きはしないですね。だって、手を出す側のデメリットが無いんですもの。過酷な暮らしで人の命が安い時代。どこにも所属していないのは大きなハンデなのです。
それを見せてあげればよい。何か適当に手を加えて。
例えば、リーダーか何かに呼び出された主人公が待ち合わせ場所へ急ぐ途中、道の傍らで死にかけている乞食を見て「この男も、数か月前までは同じ冒険者だった。仲間ともめて追放されたと聞いていたが、本当らしいな。追放されたらここでは生きていけない、彼ももうここまでだな。怖いなぁ、追放だけはされたくないなぁ」と心の中でつぶやくとか。
乞食じゃなくて、吊るされた死体とかでも良いです。追放されて食うに困り、盗みに失敗して裁判もなしで処刑されたとか。
目の前で追放されたと分かっている奴がリンチされていて、だれも止めないとか。
とにかく、「追放=人生の終焉」みたいに見せればよい。そうすることで主人公が追放を言い渡された瞬間に感情移入出来ます。「え?死の宣告じゃん、やばっ。主人公まだ何も悪いことしてないのに、流石に酷くないか」てな具合に。
非常に重い意味を持つ追放にしてあげる事には更なるメリットがあります。追放理由とヘイトのたまり具合です。どんな正論で来られても、「言ってる事は分からんでもないが、それで人間一人殺すとか、やりすぎだ」ってなるんです。主人公を応援させることで、同時に「正論問題」もクリア。
更に、更にですよ?特売キャンペーン並にメリットが続きますぞ。次のメリットはズバリ「ヘイトを集めさせる悪役がパワーアップ」する事です。正直、口から泡を吹きながら怒鳴る奴とか、下卑た笑みと喋り方で何となく悪者感を漂わせる奴らって、滑稽すぎてヘイトを貯めにくいんですよ。だが、追放の結果が主人公の遠くない死を意味するなら、話は一気に変わります。ド正論ですら受け付けにくくなるのですから、そこで本当に理不尽な理由を悪役に喋らせると効果倍増です。
整った顔立ちの男が、主人公の肩に手を置き、ニコニコしながら「君とはもう2年近い付き合いだよね?うん。ごめんね。君の顔を見飽きたんだ。だから追放するね」と、優しい声でそう言ってきたら?
読者「はぁ!?ふざけんなよ!命に係わる事だぞ!顔を見飽きた、じゃねぇんだよぉ!!」
ってなりません?そこまで行くかはともかく、そんなサイコ野郎なヘイト役が相手なら、主人公が見返す時の爽快感は底上げされますよ。後は、主人公自身がサイコ野郎でない限り、これでもう掴みはばっちりです。多少の違和感も許せちゃいますよ。主人公に感情移入さえしていれば。
その感情移入を許さないのが説明の無い、意味不明な追放です。意味が分からないから、読者は冷静なまま読み続けてしまいます。客観的に目の前のシーンを見てしまいます。結果、前回述べたような「正論問題」も「異様に知能低い問題」も際立ってしまう。違和感は深まり、より冷静に、より多くの違和感に目が行ってしまう。一度その悪循環にはまるともう、挽回は至難の業。何故なら、挽回される所まで読んでもらえないからです。
ゲームなら説明不要だからと、同じ感覚で説明を怠る。たったそれだけで、どんな面白い展開が待っていようとも、そこまでお話も読んでもらえなくなる。寂しすぎですよ。読む側としても辛いんです。読みたいんですよ、異世界のお話を。それを全力で阻止してくるのが「異世界をゲームのノリで」やってしまってる作品群です。
ここまで読んで、もしも貴方が「いや、追放は十分に悪い事である。その共通認識を持っている読者を対象にしているだけで、何も問題はない」と思ったなら、それは間違いです。
第一に「共通認識を持ってる人が読むから」と言うのは、読者への甘えです。言わなくても分かってくれると言う書く側の思い込み。口には出さないし、行動でも示すつもりはないが、察しろ。これはもう普通の対人コミュニケーションでもアウトです。書かれている文字しか意思を伝えてくれるものが無い書物の場合には、さらに酷い亀裂を生みだしてしまいます。
第二に、仮に何の説明も動機づけもない物でさえ受け入れられる、そんな読者が居るとします。彼らが作品の面白さ底上げを拒否すると、本気でそう思うのですか?この「追放モノ」に至っては、一行や一言。たったそれだけで感情移入しやすくなり、面白さに寄与できる要素がある。追放に意味を持たせる。たったこれだけ。これを全力で拒む読者とは、いったい何者なのか?私には正直、分からない。
「破綻や矛盾だらけでも楽しめる」
と
「破綻していなければ楽しめない」
上記の二つは一緒じゃないんです。あらゆることが滅茶苦茶になっていて、それでも許されているだけに過ぎない。破綻を失くし、しっかりと「異世界」らしい現実味を待たせる。これだけで面白さは増すんです。面白くない物を時間使ってまで読みたいと、そう思う人間はいない。ならば、書く側も読み手の時間と労力に敬意を示し、可能な限り面白いものを提供してあげる。これが大事では無いでしょうか。
最後に今一度まとめます。
・追放モノ最大の問題は「追放」の意味不明さ
・先に「追放」に意味を持たせればよい
・意味不明さで強化される違和感にも対処でき、面白さも増す
これだけ。簡単でしょ?
それでは、これはこれでいったん締めましょう。次回のお話は、ゲーム臭しかしない「主人公の目的問題」。これを見ていきたいと思います。
「異世界」と「ゲームの世界」は別物です~混ぜるな、危険~ 石川覚 @IshikawaSatoru
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