無名作家、カクヨム1位への軌跡 ――PV0から始める地獄と希望の日々

妙原奇天/KITEN Myohara

第1話「PV0の現実」

 投稿ボタンを押した瞬間、僕は世界が少し変わるような気がしていた。

 自分の小説が、今この瞬間、無数の読者に届く――そんな妄想に胸を膨らませながら。


 けれど現実は、冷酷だった。


 カクヨムのマイページに表示されるアクセス数。

 そこに映っていた数字は「0」。

 何時間経っても「0」のまま。

 まるで僕の文章が、誰にも存在を認識されていないことを、無慈悲に告げていた。


 画面を閉じ、深呼吸をしてみる。

 「まあ、最初はこんなものだろう」

 自分に言い聞かせる。だが、頭の中にはインタビュー記事で見た新人作家の言葉が蘇る。


 ――初投稿でいきなり★評価がつきました。

 ――翌日には100PVを超えていました。


 どうして僕はそうならない?

 同じように「書いた」はずなのに。


 心の奥で小さな声がつぶやく。

 「お前の文章なんか、誰も読みたくないんだよ」


 翌日、仕事を終えて帰宅すると、真っ先にPCを開いた。

 アクセス数は……やっぱり「0」。

 「そんなこと、ある?」と笑うしかなかった。


 試しに自分で作品ページを開いてみた。

 ――すると、ようやく「1」がついた。


 ……いや、それ自分じゃん。


 自分の足跡でしかカウントが増えない現実に、なんだか情けなくなった。

 SNSのアカウントを開き、「小説投稿しました!」とツイートしてみる。

 フォロワーは数十人、うち半分は身内かbotだ。

 いいねはゼロ。リツイートもゼロ。


 ……あれ? 僕って、インターネットの海で本当に無名なんだな。


 三日目。

 相変わらずアクセスは増えなかった。

 ランキングページを開いてみると、そこには「1万PV突破!」の輝かしい文字が並んでいた。

 嫉妬と羨望で胸が苦しくなる。


 「同じように書いてるのに、なぜ?」


 そんな問いがぐるぐる回る。

 けれど、同時に気づいたことがある。


 ――僕は「書いている」だけで、「読んでもらう努力」を何ひとつしていなかった。


 タグも適当。あらすじも数行。タイトルは「ファンタジー小説」なんて投げやりなもの。

 これで誰かに届くはずがない。


 夜中、布団に入っても眠れなかった。

 スマホを握りしめながら「PV0」という数字を思い返す。

 そのゼロは、無価値を示すゼロではない。

 僕がまだ「始まってすらいない」ことを示すゼロだ。


 そう考えたら、少しだけ前向きになれた。


 「だったら、ここから始めよう」


 眠る前に、次の話の構想をノートに書きつけた。

 ランキング1位なんて遠い夢かもしれない。

 けれど、まずは「1」を増やすことから始めればいい。


 ゼロを、壊す。

 そこからしか、僕の挑戦は始まらない。


(第1話・了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る