探偵の推理ショー。その落とし穴について。

万和彁了

めでたしめでたし

 古めかしい館に老若男女が集まっていた。ここで少し前にすごく評判が悪くてぶっちゃけみんな死んでくれって思ってた資産家が殺された殺人事件が起きていた。犯人はこの中にいる。そして探偵が言う。


「だからアリバイの時間は完璧じゃない!この巧妙なトリックによって我々は錯覚させられたんです!」


「なんてことだ!つまり犯人は?!この中にいるっていうのか!!」


 警察のベテラン警部が叫ぶ。彼は探偵がいつも彼に事件を解決してきたことを知っている。この事件もまた彼が鮮やかに解いた。その推理ショーに戦慄を覚える。


「ええ。犯人は半任田太郎さん。あなただ!」


 探偵が自信満々に犯人を指さした。と思ったら、そこには誰もいなかった。


「あれ?半任田太郎さんは?どこ行った?」


「おい!お前たち!奴は何処に行った!探せ!」


 警部が指示をだす。だが一人の若い刑事がいう。


「あの。彼なら探偵さんの推理ショーがはじまってすぐにブラジルのコーヒー農園の水道の元栓が気になるからって出ていきましたよ」


「何をやっているんだ!犯人かもしれないんだぞ!」


「でも令状ないじゃないですか。ここに止めておける権限ないですよね?」


 皆が愕然とする。令状がない!?つまり……。


「刑事さん。令状がないってどういうことなんですか?!すぐに逮捕すればいいじゃないですか!」


 被害者の遺族である女性が叫ぶ。だが警部は渋い顔をしている。


「憲法33条、34条、35条。それと刑事訴訟法199条、218条、219条、220条、それと222条。それからいろんな法律。それらによって犯人の逮捕は裁判所の発行する令状が必要なんだ……」


「そんなぁ?!」


 犯人まさかの逃亡……。関係者は一様に顔を青ざめさせる。


「今さっきブラジルって言ったよな!!」


 探偵が叫ぶ。そして刑事に問い詰める。


「ブラジルに行って逮捕すれば」


「日本の警察が他国で犯人逮捕なんてできませんよ。主権侵害です」


 またも一同が愕然とする。このままでは犯人は野放しである。


「引き渡し条約とかあるんじゃないんですか?」


 集まった老若男女の一人で眼鏡をかけたいかにもインテリで頭が良さそうに見える人が言った。


「ブラジルと日本の間には犯罪者引き渡し条約がありません」


 若い刑事はそう言った。またも一同は顔を青ざめさせる。


「じゃあブラジル政府に交渉すれば?!」


 探偵が食い下がるが、若い刑事が言う。


「ブラジルは憲法で自国民を引き渡しません。半任田太郎さんは数年前にブラジル人女性と結婚し帰化しています。可愛い奥さんと子作りハッスルして何人も子供もいますからなおのこと引き渡しませんよ」


「なんでそんな重要なことあとから言うの?!」


 探偵が悲鳴を上げる。ここにいる一同皆同じ気持ちだった。

















 半任田太郎はそのころブラジルの農場で至福のコーヒーを一杯飲んでいた。


「ぱぱー!」


「おお。かわいいねぇ」


 子供たちを半任田はあやす。妻である可愛いブラジル人女性はそれを笑顔で見ていた。半任田は資産家の息子であった。だがブラジル人女性との結婚に反対され、さらに資産家に様々な嫌がらせをされた。資産家は殺し屋を雇って彼女を殺そうとさえした。本人的にはやむなく自分たちの幸せを守るために資産家を殺したのだった。そして彼は平穏な生活を手に入れた。今彼は人生のもっとも幸せなひと時を味わっていたのだった。


E viveram felizes para sempre.FIM







あとがき



推理ショーのあと犯人が逮捕されるけど、令状なしでは逮捕できません!

犯人の皆さんは推理ショーが始まったらすぐに逃げることをおすすめします!


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探偵の推理ショー。その落とし穴について。 万和彁了 @muteki_succubus

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