第7話 世に問う者たち

【視点:太田原 千風】


大手町駅の改札を出て、地下のグルメ街を通り抜けた。雑踏を見下ろしながらガラス張りのエスカレーターでコンコースへ向かう。社員証をかざすとセキュリティが青い光を放ちながら開いた。エレベーターが自動でオフィスがある35階を認識して動き出す。


朝一番でパソコンの電源を付けて出勤打刻を打った。昨晩から今朝までに届いたメールの返信、営業部員の精算の処理、契約書の作成、稟議書の回覧、出入金の抜け漏れの確認。相変わらず義務教育までの国語と算数さえできれば誰にでもこなせる簡単なお仕事だ。


今日もランチには行かなかった。同じ事務職員らはどの社員が格好良いとか、どの上司がキモいとか、その場に居もしない他人の話で盛り上がる。私は彼女たちとの会話に意味を見出せず、進んで孤立を選んだ。昼休憩を利用して細かい確認作業を詰めたら、糖質補給にミルクジェラート。文句つけようのない業務を収めて夕方5時ぴったりに荷物をまとめた。今日は撮影、編集、投稿、配信ーー何をしようか想像を張り巡らせていた。


バッグのファスナーを閉めた時、隣の事務職員が甲高い声で鳴きだした。私にチラチラと視線を送っている。

「この書類どうしよう。でも今日新富町で大事な用事があって〜」

「おっ、デートかね」

デリカシーのない課長がすかさず合いの手を入れた。

「課長、今それ聞くのセクハラなんですよ〜」

女は体をクネクネしながら返す。私が目もくれずに立ち上がると、女が私だけに聞こえるドスのきいた声で「少しくらい同僚をフォローする精神も持とうね」と呟いた。私は膝位置にあるキャスター棚に書類を戻すふりをして囁く。


「1秒もやんないわよ。ペラペラの人間には」


地下鉄の駅構内は、スーツ姿の大軍が雪崩のように流れていた。室九郎さんの視界を想像してみる。ここ大手町駅では、ほんの100秒もあれば数百名とすれ違う。頭上に浮かぶ「終息時計」と呼ばれる赤いカウントダウンの数字。今この瞬間、私もそれを有する者と4、5人とすれ違ったのだろうか。数日後にはこの世にいない人たちと今この瞬間も私たちはすれ違っている。もしかしたら私の頭上にもーー。


さっき帰り際に先輩に言った台詞。言い過ぎたとは思わない。命はその1秒の積み重ねでしかないのだから。


荒川の土手で撮ったフジイ・ケイジロウの「素材」は不作だった。モニターに映るのは、冴えない爺さんが上の空で独り言を呟くだけの姿。本当はそこに室九郎さんが立っているのだけど、死神モードのアンロック中は液晶モニターにも人間の視界にも映らない。そんなフジイ・ケイジロウも、今は冥界で安らかに眠っている。


撮影は10メートル以上離れた場所で、背後から行うこと。業務中の室九郎さんと舞椰くんの姿はもちろん、亡骸の顔面や傷口、痛々しいコンディションも撮影はしないこと。客観的な記録として撮影した素材は、室九郎さんと審議の上、善良な心に則って撮影、編集、投稿を行うこと。持ち物に関しては、一眼レフだと目立つのでスマホでの撮影に変更。日傘も目立つからと言われたけれど紫外線が大の苦手なので容認してもらった。


数ヵ月前まで1日に数百件ペースで魂を刈り取るジェドサイド特化型の死神だったと舞椰くんが言っていた。あの室九郎さんが?まるで人が変わったみたいだと思う。決定的な瞬間が撮れるまでは、まだ時間がかかりそうだと思った。


***


家に着くと舞椰くんがベッドの上に正座してパソコンと睨めっこをしていた。その周辺には6、7枚、メモ付きのCD―Rが転がっている。部屋には舞椰くんの歌の音源がシャッフル再生で流れていた。


「チカ、ちょうど良いところにきた!新曲の音源、焼き込めたと思ったら焼けてなくて、全然再生されないんだよ。助けて!まじラビリンス!」


職場のペラペラ女が頭を過った。舞椰くんのように真っ直ぐSOSを伝えてくれたら、助けてあげるのもやぶさかではないのにと思った。


「舞椰は良い子ね。そのまんまでいなさいよ」

「なんだよいきなり!オカンか!」


一緒に暮らしてもう半月になる。まだ多少のぎこちなさはあるけれど、二十年以上生きてきた者たちが秘密保持契約ひとつで繋がった仲だ。その割にはうまくやっている気もした。私は舞椰くんがビリビリに千切ったCD―Rのパッケージを手に取り、概要欄を読んだ。

「こりゃまたトリッキーな商品を買ったわね。これwav形式のみの対応よ」

舞椰くんがポカンと口を開けて私を見上げていた。

「舞椰、あんたさっきからmp3形式のデータを性懲りも無く何度も繰り返しぶち込んでいるんじゃない?」

「うん。めっちゃその通り。チカ凄いね!読心スキルでも持ってるの?」


開発者は商品をユーザーにスムーズに使ってもらいたいわけだから、その答えはここに書いてあるのが道理だ。「mp3形式のデータには対応しておりませんのでご注意ください」ーーご丁寧に注釈マーク付きの赤字で書いてあった。


「ねぇ、舞椰って歌を歌って…最終的にはどうなりたいの?」

「ん?それはどういう意味かい?」

無駄にしたCD―Rたちを整える舞椰くんの手が嘘みたいに止まった。メモ書きにある曲タイトルや、さっきから部屋で流れる音楽の雰囲気に全く一貫性を感じられなかった。私はしばらく硬直する舞椰くんの言葉をじっと待った。


「…今はむっくを思い浮かべながら歌うと…高音が良い感じに乗る…かな?」

「へぇ、素敵。その感情ごと歌えばいいのに」

「え!?そんなのうまくまとまらないよ。というか、烏滸がましい!」


歌い手特有のこだわりだろうか。私はその言葉の意味が分からないまま、舞椰くんの忙しなく変わる表情を眺めていた。


今、室九郎さんは冥界のアーカイブセンターで3月の納品実績を確認しているらしい。舞椰くんは、室九郎さんが帰ってくるまでご飯を食べない。シャワーも浴びない。なるべくトイレも行かない。いつ召喚がかかってもいいようにだそうだ。


「ねぇねぇ」

「ん?」

「むくちゃんのことが好きなの?」

「はひ!?」


舞椰くんはわちゃちゃとCD―Rたちをお手玉みたいに飛ばして慌てて拾い集めていた。どんな反応をするか見てみたくて少しいじわるな聞き方をした。


「男女だけが恋愛する時代でもないでしょう。LGBTQっていうし」

「だからってなんでそうなるの!」

思わず笑いがこぼれた。売上の為でも、タスクの為でも、業務の為でもない。何の足しにもならない話を延々とできる存在なんて私にいたんだっけ。あー、と息を整えて舞椰くんは言った。


「チカ、よろしくね」

「え?」

突然何かを託されたようで、少し面食らった。

「自分の良さを、自分の為に使ってあげられないんだよ。むっくは」


舞椰くんからは学を感じない。だけどたまに、途方に暮れるような思考の跡を感じることがある。自分にとって不都合な世界を歩んできた者だけが身に付けられる、すごく歪で忍耐強い思考回路のような。


「ーーよろしくって、むっくに手出して良いっめ意味じゃないからね!?」

「出すわけないでしょ、双方にメリットのあるビジネスパートナーなんだから!愛嬌ないしパッとしないしジメジメしてるし黒い服しか持ってないし!」


大きな咳払いが聞こえた。振り向くとそこには仕事を終えた室九郎さんが立っていた。


「愛嬌ないしパッとしないしジメジメしていて悪かったな…」

「すみません、今夜は美味しい春巻きを作らせていただきます」

「あーあ。チカちゃんがむっくを怒らせたー」

イシシと笑う化け狐はシャワーへ隠れた。案外やり手かもしれないと思った。


***


葛飾区のその交差点では、激安焼肉チェーンの看板がやけに存在感を放っている。自動車の排気ガスと生ごみの匂いが混じる場所によく出店したなと思った。室九郎さんの10メートル後ろを舞椰くんと尾行する日々もそろそろ3週間。目の前には一人で歩くロングヘアの若い女性。横から歩み寄り声をかける室九郎さんが下手っぴなナンパ師みたいで少し可愛かった。


「チカもナンパとかされることあるの?」

「私は声を掛けられる前に睨んで沈めるわよ」

「ーーですよね」


その女性はしばらく無視を続けた。室九郎さんは埒が開かないといった様子で「動いた」。私はズームリングに手をかけ、液晶を覗いた。車の通りが無くなるタイミングに合わせて室九郎さんはフェードして人間たちの視界から消えた。女性の体は一度ビクッと弾けるが立ち止まろうとする様子はない。


私たちは急いで片耳ずつイヤホンをつけた。首裾の裏に仕込んだピンマイクが、電波を経由して室九郎さんとターゲットの声を拾っていた。


「オクモト・ミホさん。肉体が動くうちに大きな心のこりが残らぬよう、大切な方とお話ししておくことを勧めます」

「はいはい。来月母が誕生日だから連絡くらいはしますよ。これで良い?」

「来月と言わずに、思い立ったが吉日だと思いますが」

「ちょっといろいろあってここ数年はほとんど話せていないんです」


その時だった。黄緑の軽自動車がオクモト・ミホの肩を小突いた。10メートル以上離れた場所からでは大きな衝撃ではなかったように見える。それでもオクモト・ミホの華奢な体は受け身を取れず、コンクリート塀に頭をゴツンと打ち付けた。


黄緑の軽自動車がそのまま走り去ろうとする。私はカメラのズームリングを目一杯回してその姿を一瞬捉えたが、すぐに見えなくなった。


「痛ったぁ。マジふざけんなよ…」

「大丈夫ですか。つかまって。せーのっ」

手を取られたオクモト・ミホは立ち上がり、ロングスカートについた砂埃を面倒臭そうに払いた。よほど遅れたくない待ち合わせがあるのか左腕の時計に視線を下げると早歩きでその場を去ってしまう。防犯カメラなどない下町の小さな交差点。本人はケロッとしているが、私が見たものは紛れもなく当て逃げの現行犯だった。


オクモト・ミホが都内の病院で看取られたのは、その三日後だった。気付かない脳内出血が突然悪化した。生前の本人に接触していた室九郎さんにはじょう『通知』が届いた。現役の死神たちの「死亡者リスト」に載るよりも早く、室九郎さんは魂のアテンドへ向かった。病室で遺族に囲まれている可能性が高いので私たちは留守番。数時間後に帰宅した室九郎さんは疲弊していて、帰るなりベッドに倒れ込んだ。舞椰くんが飛びついて背中をマッサージし始めた。


「むっく、冥界へはアテンドできたの?」

「当て逃げした運転手を探すって聞かなくて…宛もなくどこかへ暴走しちまった。しばらく周辺を探し回ったけど見つからなくて…」


舞椰くんがえぇ、と声を上げて驚いていた。室九郎くんが魂を取り逃がすのは珍しいことみたいだ。


「初歩的な質問だけど、魂を取りこぼすのはそんなにマズいことなの?」

私は室九郎さんに尋ねた。


「日本国内では四十九日以内に冥界にアテンドし損ねた魂はジバク化が進む。人間の理(ことわり)では説明できない祟りや心霊現象を発生させ、無関係な人々にまで干渉する存在になってしまうかもしれない。その二次災害を防ぐ為に、死神の仕事は機密で生まれたからね」

「そう」


私はパソコンを開き、並列で作業していた複数の編集データの中からオクモト・ミホの映像を立ち上げた。【0502_katsushika_001.mov】。「素材」を切り刻んで、時系列を入れ替えて、気を惹く為の装飾を施す。ただそれだけで社会がある事象に対して抱く印象を自在に操ることができる。舞椰くんの言葉を借りるならあまりに烏滸がましいーー何ひとつ生み出さない魔法のような所業。切り取って削るだけの、どうしようもないジャーナリズムというお仕事を始めた。


オクモト・ミホ。家族と話ができなかった過去は変えられない。ならばせめて、室九郎さんのアテンドで冥界へ行き、安らかに眠りなさい。そんなメッセージが伝わるよう動画を繋いだ。あまりに短い素材だった。とことん凝って作ったけれど一晩とかからなかった。舞椰のいびきが煩いおかげで眠らずにやれた。明日に備えて休息をとる室九郎さんに一声かけて、仕上がりをチェックしてもらった。窓から差し込む朝方の鈍い光の中、私たちは一緒に「投稿ボタン」を押したんだ。


***


《なにこれ、生成AI?すげーリアル》

《たまたまカメラ回してたってこと?闇深》

《何気に車のナンバー特定されてて笑うんだが》

《被害者わざと吹き飛んでない?耐えられる衝撃でしょ…》


SNSは今日も有象無象のコメントの海だった。単なる興味で覗く人間。焚き付けたいだけの人間。ただ話題を探す人間。見せ物ビジネスはそういう「手っ取り早く気持ちよくなりたい人たち」の宙ぶらりんになった時間を吸い取ることで肥えていく。ニュースコンテンツだって例外じゃなかった。室九郎さんと舞椰くんが私の顔の両脇からパソコン画面を覗き込んだ。


【証拠映像】5月2日 葛飾区当て逃げ事件の被害者、病院に救急搬送。脳出血により死亡確【犯人自首せず】ーー。


動画は投稿して3日も経たないうちにバズった。アナリティクスのインサイトを見ると、通勤の時間帯にビジネスマン世代を中心に広がった動画だ分かる。オリジナル映像の衝撃に加え、オクモト・ミホのフェミニンな印象、車種に関するハッシュタグが追加要素となってバズを加速させた。そしてネット記事ランキング1位に「葛飾区当て逃げ」が載った。


《貴殿が投稿された映像は、非常に社会的意義の深い貴重なエビデンス資料となると確信しております。ぜひ無償にてご提供いただけますと幸いです》


ダイレクトメッセージでそう綴ったのは、テレビ局の情報番組のディレクターを名乗る人物だった。ロジックの破綻した恥ずかしい日本語の文章に既読を付けて無視をした。意義深い映像だと思うなら金を出して買うべきだと思った。


動画がバズった翌日、当て逃げをした人物が警察に自主をしたとニュース速報で知った。警察官に化けて警視庁内を調査した舞椰くんによると、自主したのは四児を持つ母親だった。夫は蒸発。シングルマザーとして昼夜働き、女手ひとつで子どもたちを育てていた。動画にはっきりと車のバックナンバーが映っていたことで時間の問題だと腹を括ったそうだ。その名はサカイ・ユキ。


事件は、サカイ・ユキがパート後に子どもを保育園にに迎えにいく道中で起きた。パート退勤時に不調だったタイムカードマシーン。切らしていた卵。急遽寄ったスーパー。研修中アルバイトの慣れないレジ打ち。保育園の職員からは最近続いた送迎時間の遅刻を指摘されていた。人に当たったのは分かっていた。賠償金を払える経済状況ではなく思わず走り去ってしまったという。


舞椰くんのフットワークの軽さと良い意味で適当なコミュニケーションスタイルは取材やリサーチに向いていると思った。変化とかいうチート能力は、どこにでも正面から入り込める新聞社時代の名刺みたいだと思った。


もしもタイムカードが通常通り動いていたら。冷蔵庫に卵を残っていたら。違う列のレジに並んでいたら。遅刻が続いていなければーーこの事件は起きなかった。当然、出頭すれば4人の子どもは路頭に迷う。しかしネットに車のバックナンバーは晒された。自首せずとも早かれ遅かれ同じ結末に辿り着くのだろうけど、これってなんだかまるでーー。室九郎さんが口を開いた。


「なんだか、どっちも被害者みたいに見えるのは俺だけか?」

「今、同じようなことを考えてた」

「ーーオクモト・ミホの魂はどう思うのかな」


室九郎さんは真っ黒な洋服を羽織りリープの支度をしていた。いつも同じ服だけど理由は聞いていない。


「行ってらっしゃい。やさしい死神さんと…チートな脇役俳優」

「何それ、ボクさんだけイけてな…」


足元からゆっくりフェードして二人が消えるのを見守るこの時間は、なんだか新しい家族を持てたみたいで嫌いじゃなかった。


「子どもを食わせようと必死に動いただけなのにね」

私は自分がアップした動画の背負うものに押しつぶされそうになった。このペースで伸びたら、再生回数は150万回を突破しそう。今の室九郎さんの月収の足しには十分なる金額だ。《ご遺族の無念を晴らす悪の鉄槌。有難うございます!コメント欄に、無関係の第三者からの言葉が寄せられ続けた。その晩、オクモト・ミホの魂は葛飾区の交差点付近で室九郎さんに見つかった。事件のあった場所で、怨恨に駆られたまま当て逃げ犯を探し続けていたそうだ。


犯人が自首した事実が伝わって、疎遠だったという母親へ伝え残した言葉は化けた舞椰くんがしっかり受け止めた。交差点近くのコンクリートの塀には誰かから弔いの花束が添えられていたという。大鎌を振れない死神に手をひかれ、オクモト・ミホの魂が冥界へ納品された。


***


「チカってさ、なんでこんなに料理がうまいの?趣味?」


少し煮詰まりすぎた筑前煮を二人は今日もバクバクと食べていた。好きで覚えたわけではない。それでも、いつもおかわりしてくれる二人の姿を見ると昔から料理を作ってきたことも悪くないと思えた。


「そういえばチカの家族について、ボクさん何も知らないなぁ」

「料理は栄養バランスが命。っていうか何なのよ、あのモロヘイヤをちぎっただけの変なラーメンは」

舞椰くんの言葉を交わした。室九郎さんは違和感に気付いて何も言わない。

「なんだとー!ボクさんのスペシャルイマジネーショントッピングを!」

「冗談冗談。料理はーーまぁ昔から私が担当だった、みたいな」


筑前煮はやっぱりしょっぱすぎた。今日のはちょっと失敗だった。その時だった。


「ありがとう。二人とも」


室九郎さんが言った。そういえば御礼の言葉を聞いたのは初めてかもしれない。


「突然どうした、むっく」

「確かに。何がありがとう?」


いや別に、と室九郎くんが俯いて、舞椰くんが笑った。私は狭いローテーブルに並ぶ3色のランチョンマットを見つめながら、柄にも無くちょっとした祈りを捧げた。


窓を開けて狭いバルコニーに出た。普段は洗濯物を干す時しか使わないこの場所で、夜空を見たくなった。


《東京で月がこんなにクッキリ見えるなんて珍しくない?》


私がSNSを開いて画像付きで呟いた。そんな投稿は誰ひとり拡散などしてくれない。当て逃げ犯のサカイ・ユキに関する追加情報と憶測ばかりが書き込まれ続けていく。私は部屋に戻り、パソコンにコンデンサーマイクを繋いだ。サムネイル画像は謎に包まれた三人のシルエット。音声配信プラットフォームの設定を手早く済ませて「配信開始」のボタンをタップした。


「それではおおたわラジオ、開始しま〜す」

「何それ、ダサいいね♪」

「ダサいし、何か説明くらいしてくれ…」


私は満月でも三日月でもない、ロマンチックさの欠片もない半端な月の輝きを、ずっと忘れないと誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る