終香
目を開けると、私は誰かの布団に寝かされていた。
見覚えはあるが、誰の部屋か思い出せない。
身体がまだ重く、ゆっくりと上半身を立たせるとその物音に気付いたのか誰かが駆け寄ってくる。
私は何が会ったか分からないが恐ろしい出来事を体験したような気がして警戒する。
部屋の戸を開けたのは、紗由美だった。
紗由美の手には、濡れたタオル。
私は重い頭を手を当てながら何があったのか記憶を辿ろうとする。
だけどそれを紗由美が止める。
「もう、遊びに来たと思ったら突然熱出して倒れ込むんだもん。体調悪いなら無理して来なくて良かったのに。」
そう…か、私は紗由美の家に遊びに来てそのまま倒れ込んじゃったのか。
「だけど…なんかすっごいリアルな夢をみた気がする…それも気持ち悪い出来事にあった夢を…なんだったんだろう…。」
「具合悪いと悪夢見るなんてあるあるだって。私も偶に見るもん、なんかゾンビみたいな姿した人が襲ってくる夢。」
「それは…怖いね。ごめんね、遅いかも知れないけど移すと迷惑になると思うから帰らないと…。」
「大丈夫!親御さんには連絡したし、仕事場にも体調悪いからって連絡入れたから!親御さんも少しの間、お世話になってもらいなさいって言ってくれたし!」
「え、けど申し訳ないよ…。」
「いいから!あのね?一番の友達がいいからって言ってるんだからこういう時は言葉に甘えときなって!」
「御免…あ…なんか外から声が聞こえる。」
「ん?そう?この辺りは人通り少ないし、この時間帯は大声出すような人間は来ないよ!」
「え、けど…なんか私を呼んでる声が…。」
「いいって!私には聞こえないし、きっと幻聴だよ。それよりさ、ほら、リラックスする為にお香焚いとくよ!」
お香…お香…なんか引っ掛かる…。
この言葉を中心に大きな騒動が…。
だけど…思い出せない。
私は紗由美の焚いたお香を眺める。
お香からは煙が出てくる。
いい匂いだ。
私の嫌な思い出や悩み、この悪い体調も和らいでゆく。
また意識が遠のく。
この世界から離れそうな…命の灯火が煙になり、天に召されていくような…そんな心地良さを垣間見えてしまう程に…。
あぁ…心臓の鼓動も何故かゆっくりと動いている。
あぁ…意識が煙の様に遠のいてゆく。
あぁ…いい匂いだ…。
あぁ…また…眠い…。
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