香林
玄関の扉を開けると、やはり見ただけでは唯の一軒家の玄関と屋内とそう変わりはなく、靴を脱いでスリッパに履き替えた後、奥のリビングと思わしき場所に亜美と紗由美は立っていて既に様々なお香の種類が並んでいる光景をまじまじと眺めていた。
そこまで変わった匂いをしていないのは、混ざった匂いを室内に充満させないように対策をされているんだろうと少し感心しながらも様々な種類がある事には、やはり圧巻というか今まで見たことない光景ではあったので、同じようにその場で眺めていると、リビングの奥扉から白髪の生えて腰が曲がった老人がゆったりと出てきた。
老人は私達の方に顔を向けると4人をまじまじと見て、何か納得したように頭を縦に頷く動作を取り、扉の後ろを振り向いて誰かを呼び付けた後に、私達を「どうぞこちらへ…」ともう一つ奥にある扉の方に入るよう案内された。
その扉を開けると所謂、待合室の様な室内になっており時間を潰せるように様々な本や、なんとゲーム機、お茶等が用意されていて私達はそれを見て少し驚いたと思う。
老人は私達にこの店について軽く説明をしてくれた。
「ここはな、明治初期から受け継いでるお香専門店でな?本当はあまり大勢の人には知られたくない秘境の店…見たいな感じで営業していたんだが…最近のインターネットでの、どこぞの誰かの口利きのせいというのは失礼かもしれないが…それで客が酷く多くなってねえ。商売繁盛と言えば聞こえは良いが、この店は数より…言い方は悪いが古くからのお客様の磨かれた質を優先しているんだ。だけどそれでは今のご時世経営を続けるのもむずかしくなってきている。だから流れとはいえ人が増えた事には変わりないから複雑な心境だよ。」
私は流石に折角来たのに言いたいことは分かるが、流石に期待して来た人に言う話ではないんじゃない?と丁寧に店主の老人不満を露わにする。
しかし老人はその言葉に反応は薄くも申し訳無さそうな顔をしていたので時代の流れというものは、人の心を置いて行かせてしまうんだなあとちょっと淋しい気持ちになった。
そして、老人は少し咳払いをした後改めて私達に説明を始めた。
「さて…ここは、まぁちょっと他のお香屋とは違って、匂いを一人ずつ個別に決めてもらう様にしているんですよ。ここはその間他のお客様に待ってもらう為の待合室です。匂いというものは、人によっても異なりまして…嗅覚の違いというものがどうしても発生してしまいます。同じ室内で片方が自身にあったお香を試されている時、片方はもしかしたら苦手な匂いを嗅ぎながら選ばなければならない。そうなるとその匂いが鼻についてしまい、結果来た方が全員満足に帰る…ということができなくなってしまうのです。他の店もその辺りは徹底してるとは思いますが、私の所はよりお客様が満足し、また来てくれるような店として心がけているわけでございます。」
なんというか丁寧な接客を心掛けている節はあるものの、やはり人を選んでいる様に見受けられる部分もあるので説明を聞いても納得はあまり出来ていなかったような気がして、他3人はどういう気持ちでそれを聞いていたのかは分からないが、何がともあれ来た以上は自分に合ったお香を手にして帰りたいので、一先ず誰から先に行くかを決めることにした。
じゃあ…と先に行ったのは真矢だった。
30分以上は掛かるかもしれないと言われ、私達はその間適当にその辺りの本を読んだりゲームで遊んだりと暇つぶし自体はそこまで苦にはならなかったが、問題はこの2人が何を考えているかで頭がいっぱいだったと思う。
そもそもここを紹介したのは紗由美で、そもそも裏メニューがなんたらみたいなことを言ってたが、そもそもそういう裏メニューというのは常連さんや深く付き合いのある人物等に特別に出されるメニューであって、一見さんである私達に教えるはずが無い。
亜美は…まぁファミレス内と車中で話していた夢物語というか妄想というか…そんな頭お花畑状態になっている事は確かであるが、ここに来てからは空気を読んでいるのか…はたまたここの雰囲気がそうさせているのか…大人しく本を読んでいる。
30分後…真矢が帰ってきた。
戻ってきたものの、私と話そうとせず真っ先に本棚に向かい大人しく本を読み始めたので、私は何か感想を言ってくるのかと思ったのでその態度に若干イラッとしたものの…まぁこの店の雰囲気は何処かあまり積極的には話してはならない様な空気が出ているせいか、それがこの店の雰囲気作りとマナーなのだと自然と納得して少し待った後、老人が次入ってくる様言ってきたので、私が行く事に。
てっきり真矢が選んでいたお香の匂いが残っているのかと思っていたので、どうやって消したかは知らないが部屋の中は無臭で私はその時とても驚いでたと思う。
私が周囲を立ち止まって見ていた為、老人は「此方にお掛けください…」と部屋の端に置かれているテーブルに案内されたので私が椅子に座ると、老人は私をマジマジの見始めて来たので私は緊張で硬直してしまった。
見られている行為は訝しんでしまうが、何か物事を言うような雰囲気ではなかったので私は何もせず唯黙ることしか出来ない。
5分以上は経ったと思う…老人は「成る程…」と一言呟いた
15分くらい経ち、漸く選んだ物を老婆に渡して、老人はまた別の準備をした後に、こちらに持ってきた。
老人がテーブルに置いたものは、白に若干黒と灰が混じった粉のはいった袋と何か綺麗な木の枝と黒色の小さいチップのような形をした物体と、小さく白い四角状の器を用意し、老人はこれについて説明を行う。
「先ずこの白い粉に黒と灰が少し混ざったものが『
鯨龍骨と呼ばれたこの白い粉は、ただの粉には見えず、本当にさらっとしていそうで木材を削っただけでこんな綺麗な粉が出てくるのかと少し艶の出ている木材と粉を交互に眺める。
老人は次に黒色のチップのような形をした物体を私に見せ、この香炭に火をつけてそれをこの白い粉…香炉灰に入れて温めてるというものらしい…。
少しすると老婆が薄い緑色の小さい塊を持ってきた。
老人曰く、これが匂いを発する練香というものであり、この温めた香炭の横に置くことでふんわりと練香が温められ、程よい気持ちの良い匂いを醸し出すというものであるとの事であるが、その匂いは家で帰宅してから試して欲しい…とのことで、それに対して私は驚きと同時に心配が襲ってきた。
それは当たり前で、匂いも分からないしそもそも成分等も分からない。
しかも…古く経営しているので顧客がいるんだろうなあとは思いつつ、やはり初めて来た場所で申し訳ないが得体の知れなない上に、何の成分かも分からない粉をお試しもせずに家で堪能してくれは流石に怖いと言うか、不安要素しかない訳で…。
しかしそれを察したのか、老人は優しい表情で「初めて経験なさる事で不安でしょうが、私としても昔から経営してる実績というものがございます。それに、匂いを室内で充満してしまうとどうしても想定外の効果が出てしまう匂いが現れてしまうんです。私としてもその混ざってしまった匂いがどういう効果を発揮してしまうのかは把握しておりません。もしかしたら媚薬の様な匂いをかもしだしてしまうかもしれないですし、暴力を助長させてしまう匂いに変わってしまうかもしれません。それ程匂いというものは脳に敏感な影響を与えてしまうのです。ですのでその人の身体にちゃんと合う効果を私はこの長年の五感…特に目と鼻は鍛えられていると自負しております。でなければここで瞬発的に人を見てお香の仕立ての準備なんか出来ておりませんよ。匂いは見えていないだけで目よりもこの世の中を見せているのです。だからこそ、脳に魅せてしまうんですよ。」
「脳に…魅せるですか。」
「そう、魅せられるんですよ匂いは…。
私はこの老人の語りに魅入られていた。
匂いは見えないものを魅せる…確かにそれはそうである。
匂いがあるから食事もより魅入るものとなるものもあるし、それこそ香水次第で人に魅力を与えてくれる。
元々綺麗な女優を実際に見たら、見た目以外にも何か周囲を取り囲む空気というか雰囲気がよりその女優の魅力を沸き立たせていた気がしたが、それも香水の効果が発揮されていたんだとこの話を聞いて改めて匂いの凄さ、素晴らしさと共に匂いの恐ろしさも伝わってきた気がして、部屋の様々な材料を見合渡しながら、何故か納得した感情で越に浸っていた。
「ですが、匂いには見えるものがあるんですけどね…。」
老人がひっそりと何か言葉を告げたような気がしたが老人がその後すぐにお香の注意点や、使用方法を語ったがその辺りは事前に調べた内容だったので安心しながら聞き終わると、老婆の方が調合したお香を持ってきてくれ、そのままお会計を済ませた後、次の人を呼び出してほしいと言われたのでそのまま待合室に戻り、次は誰が向かうか亜美と紗由美を顔を眺める素振りで確認すると、亜美が先に頷いて、そのまま待合室を出た。
紗由美の方を見ると笑顔で亜美を見送ってて、矢張り何処か紗由美に対しての違和感を感じ、ここに向かわせたのが実は意図的ではないか…という釈然としない違和感が紗由美の雰囲気から伝わってる気がしていた。
それから30分…も経たず約15分も掛からないであろう時間にこちらに戻り、私は少し驚愕しつい亜美に小声で話掛ける。
「あれ?早く終わったね?」
「私に合うのは今は無いみたいで後日1人でまたここに来るように言われたよ。」
「え?それ大丈夫?信頼はしてないってわけじゃないけど初めて来た場所だし、なんか雰囲気も怪しいというか…。」
そんな心配を他所に亜美が私に向けた顔は、明らかに不快感を顕にした表情で睨んでいたので私はそれ以上何も言わずそのまま椅子に座りこんだ。
紗由美は更に早く10経たない内に戻ってきたので、表情を見ると…それはもう私でさえ鳥肌の立つほどの貼り付いた笑顔で「お待たせ!じゃあ、帰ろうか!」と静まり返っていた室内に響く様に元気良く促してきたので、私は驚いて静かにするジェスチャー等をしたものの、部屋の向こうからは注意の声は聞かなかったのでそのまま待合室を出てそのまま玄関へ向かった。
玄関で靴を履いていると、老人が玄関まで出向いて私達に「貴方達はとても行儀の良い態度でこの
亜美は、元気良く返事をした後先に外に出て私達も感謝の一言と一礼した後、そのまま外に出た。
改めて店の外観を見る。
最初見た時は…唯の襤褸い一軒家と感じていたが、出た後の印象は『外観を騙し、匂いで惹き込む家型のミミック』であった。
何というか中の老人も人は良いと思いつつ、何処か胡散臭さが垣間見えていたようにも感じた。
これこそあの老人が述べていた、『匂いで魅せている』という表現がそのまま人の形をしていたというか…。
目で見ても違和感の無い唯の愛想の良い老人。
耳で聞いても唯、他人を安心させる程の心地の良い老人の声帯。
身なりも接待態度も素振りも何もかも普通の…いや、寧ろ人の扱いを熟知して相手を如何に精神を安定させながら接客し、物を売らせるかを身体が…特に匂いが覚えているんだと私は矢張りこの店に恐怖と不安を感じ取ってしまっていた。
車に乗り、遠ざかる童心堂に募らせる思いは感謝と不安と…嫌な予感に心の中は灰色の粉で段々と埋め尽くされていく。
車の中は皆、静かにしている。
他3人も私と同じ気持ちなのだろうか…。
いや…少なくとも真矢と紗由美は違う。
あの2人はここで何かを得ている。
私は未だに疑心暗鬼に陥っていた。
亜美はどうなのだろう。
どうしても表情が掴めない。
色々な感情がこの動く鉄の塊に渦巻いている。
感情というものは、そう簡単に変えられるわけがない。
喜怒哀楽のスイッチを簡単に変えられることが出来るなら…それはもう脳のシナプスを弄るしかないのだろう。
だが匂いなら…簡単に感情を歪めることが出来る。
その時どんな調子良いときでも悪臭を臭うだけで負の感情を抱いてしまう。
最悪身体にも異変が起きてしまうほどに…。
逆にいい匂いを嗅げば心身が温まり、更に落ち着くことだって出来てしまう位に匂いの影響というもの強さを童心堂の主人の話を聞いて改めて心に刻み込まれた様な気がした。
その後、元々の集合場所のファミレスの駐車場で全員「またね。」の一言のみで解散することとなった。
真矢に一言メールで『今日はどうだった?』と送ったら『結構楽しかったけど…まぁ後で話すよ。』と来たのでそのまま家に帰った後、真矢に電話をする。
電話に出た真矢とは少し今日のお香について話し、少しお互いの疑心暗鬼を薄めさせて私は本題に入った。
「今日のあの2人…私の気の所為かもしれないんだけどさ、なんかおかしくなかった?」
「あ、やっぱ感づいてた?私もなんか亜美と紗由美の態度というか…なんか気持ち悪い雰囲気感じてて、怖くて話す事出来なかったんだよね…。あんたは私と同じ感情抱いてた様な表情してたから、安心はしてたけどもしかしたら…と思ったら声かけにくくて。けどそっちからメール来た時に漸く心から安堵したというか…ね?」
「私も同じ気持ちだよ…。でさ、なんか紗由美があの童心堂に亜美を誘導してた気がしててちょっと怖かったんだよね。だって昔の紗由美って大人しい性格だったじゃん?だけどここ最近の変貌には違和感あったし、亜美の話聞いてた時の態度とかも一生懸命聞いているというよりは…良いカモをゲットしたみたいなさ?」
「そうそう!そこ気になってた!私もおかしいと思ってたんだけど勢いで色々決めさせられたって感じはしてたんだよ!…亜美の片思いもあれ何言っても聞かなさそうだし、ちょっと2人の距離置いてみない?なんか後々問題起こしそうな気がしてさ。」
正直、2人を私達の感で遠ざけるのは気が引けはしたものの、真矢の言ってる事には同調する部分はとても大きい。
だから色々話した結果、2人で亜美と紗由美を徐々に疎遠にしていこうと決めた。
今日は精神的に疲労したので不安ながらもまぁまぁな金額もした以上は使わな損…ということで早速お香をつけることにする。
説明通りに炭を起こし、灰を温めその上にお香を乗せる。
少し経つとお香から煙と共に匂いが溢れ出る。
とても良い匂いだ。
今日の疲れや考え事…色々と心身に降り注がれた灰色の粉が匂いと共に消えてゆく。
スッキリする…頭が心地よい。
部屋は在り来りなアパートの間取りの筈なのに、目を瞑れば空気が美味しい草原の真ん中で大の字に寝転んでいる私の姿が脳内に漂っていく。
炭の苦味の匂いに甘くとろける匂いが混ざり、嗅ぎ心地の良い香りが鼻に染み渡り、そのまま身体全身を透き通って脳が『この匂いは貴方にとって癒す力がある匂いだから安心していいよ』とこの匂いを受け入れている。
凄い…これが匂い…童心堂の匂いの効果…確かにこの香りは、私に合っている。
あの老人の言葉は正しかったのだ。
完全には信用はしていないにしても、披露した知識や経験話に偽りは無さそうであったし、効果も我が身で結果を出している。
気持ちいい…。
頭がスッとしていく。
お香から出る煙…。
そういや、お香はちゃんと匂いを煙で可視化できている。
強くない微弱な煙。
そういや、あの老人は匂いは魅せるだけではなく見えるものがある…とあの時そう呟いていた。
見えるものというのはこの煙の事か。
対象物を燃やす事で現れる気体。
私としてはこの煙はその対象物の命が消えてゆく瞬間の産物だと思っている。
だからこの煙を見る度に『あぁ…また何かの命が消えてゆくんだ…。』と切ない気持ちになってしまう。
それが生命体だろうがそうでない物だろうが…。
お香から出ている煙は…きっとこの灰と炭の魂が出ていっているんだろうな…と。
それでもこんな良い匂いを私は楽しんでいる。
何かが消えてゆくこの煙を、私は心地が良いと安心している。
私はずっと不安を感じていた。
真矢は兎も角、亜美と紗由美…特に亜美に対しての関わり方にどうしても思い悩んでいた。
あんな不切実な思考を頭に支配されていたなんて…。
既婚者に想ってはならない感情を当たり前の様に私達に語るなんて思いもよらなかった。
だから私はどういう対応をすればわからなかった。
その悩みをもしかしたらあの老人に見透かされていたのだと思う。
だからこそこの匂いを勧めてくれたのだ。
私のこのモヤモヤした感情が、この煙と共に私の身体の通して消えてゆくのがはっきりと感じた。
よくよく考えれば得体の知れない炭とお香から出る匂いなんて不安で堪らないはずなのに一度鼻を通してしまうと…もうこのお香の虜になってしまう。
香りにうっとりし、ふと煙を眺める。
薄く柔らかく、少しの風のせせらぎで消える煙を見つめる。
煙の形は一本線の筈である。
しかし…少しづつ形が変化していく。
私はまだその変化に違和感を感じていない…脳がとろけて思考が纏まらない。
煙が…徐々に丸くなっていく。
煙がなぜ丸くなっていったのかまだ脳が捉えきれていないのか私はジッと見つめている。
丸くなった煙に段々と穴が空いていく。
穴は上に2つ、真ん中辺りに1つ、その下に横長い穴が1つ…。
何かに見えている。
なんだ…輪郭…誰かに…誰か?
私はその時点で漸く煙の違和感に気付いた。
何故、煙に誰か?という疑問が出てくるんだ?…と。
おかしい…おかしすぎる。
とろけた意識が何か危険を察知している。
これ以上、この煙を見てはならない…。
嗅いではならない…と。
煙の形が異様なものへと変貌していく様を目の当たりにして私はもう意識を完璧に取り戻した。
煙はまた焚く間にあるシルエットに成り代わっていく。
見たことのある、それは当たり前に私達がいつも見ているシルエット…。
それが何に形成されていくか理解した瞬間、私は、背筋が凍り私の意思より先に本能が即座に手で必死にお香の煙をかき消していた。
意思と本能が漸くリンクして、私はかき消したお香をそのまま袋に詰めてゴミ箱に捨て、そのまま急いで真矢に連絡を入れた。
信じてもらえないかもしれないが、この事を言わなければ真矢に何か起きてしまうのではないか…と。
携帯をかけると即座に真矢が出てくれ、私は信じられないかもしれないが…と先程の出来事を無我夢中で話した。
勿論この話を信じて欲しかったわけじゃない。
ただ自分を落ち着かせる為の捌け口が欲しかった。
しかし真矢は、最後まで馬鹿にもせずただ静かに聞いてくれた。
そして、話し終わり真矢の反応を聞くのが怖く、慌てて謝った後切ろうとしたら、真矢の「ちょっと待った!」と引き留めてくれた。
「話は分かった、私もちょっと訝しんでてお香を焚くか悩んでたとこだったんだよ。そんな事になるなら焚かなくて正解だった…。普段取り乱すなんて事無い性格のあんたがこんな切羽詰まった電話来るなんて信じるなって言う方が信じられないよ。だけど…それなら余計にあの2人が…いや、亜美が心配になるね…。」
「もしかして…連絡取れない?」
「うん、一応帰宅してすぐなんか嫌な予感があったから連絡入れたんだけど音信不通になっててさ…だけどほら、亜美の話聞いてるとちょっと関わりたくないって思ったらもう放って置いて向こうからの連絡待ってみようかなって。やっぱ疎遠しようとは思っててもせめて無事か確認してからでも遅くはないだろうし。」
私も真矢の意見に賛同し、その後もあの童心堂の愚痴や気味悪さを共有して自分の気持ちが落ち着いたが、それでもこの何とも言えない気持ち…本当に黒い気持ちでもなく、だからといって真っ白な爽快感も感じるわけでもなく…丁度中間、灰色の感情が私を煙の様に身体を取り込んでいる。
この感情を払拭するには寝るしかないと考え、そのまま就寝した。
夢を見た。
人の様々な部位の骨が
服装…シルエット…声…まるで私の身近にいる人物に似ている気がした。
映像が勝手にその人物の顔を映す。
その人物の顔は…煙で覆われていた。
ただ口元だけは薄っすらと見えていた。
その口元は…笑っていた。
その瞬間、私は目を覚ました。
夢の人物は明らかに…亜美だった。
私は不安が過ったが真矢と約束した通り、向こうから連絡が来るまでこちらからは連絡をしないと決めていた為、そのまま頭を振って真矢の心配した思考を無理矢理取り消し、何時もの生活に戻るようぎこちない日々を淡々と過ごしていたが…。
数日後…とんでもない情報が私に届き、私の日常が崩れる音が鳴り響く…。
その連絡は真矢から掛かってきた。
電話を出ると、真矢が少し声が狼狽していたので落ち着くまで待つと少しずつ内容を述べた。
それは、亜美の話していた想い人が行方不明になった事。
そして…亜美も行方不明になった…ということであった。
更に最悪な事に…その一ヶ月後、亜美の両親から連絡が来た。
2人の身体の一部が発見されてしまった…と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます