第9章:「静寂の中の微笑み」

ガシャン!




ドアノブの鋭い音が響いた。


ハヤカワ教授の声がぶった切られた。


教室が一瞬で凍りついた。




全員が、まるで命令されたように振り返った。




そして――マジかよ。


見ずにはいられない光景だった。




ドアの前に、六つの影。


その登場は、雷が落ちたみたいに目を焼いた。




先頭に三人。


黒いスーツに身を包んだ連中。


「委員会」。


公式には「基準の守護者」、裏じゃ「トラブルの製造者」。




彼らが現れるところ、必ず地獄が始まる。




その後ろに、教師たちが続いた。


サイトー。「ユートピア史」でナギを追い詰める白髪の悪魔。


ミヨリ。遅刻狩りに命をかける無慈悲なハンター。




そして… マジか?


ヒロムラ学部長!?


月食よりレアなあの男だ。




彼らは無言で踏み込んできた。


人間じゃない。


まるで戦場の小隊だ。




教室は完全に固まった。


ノートパソコンのキーの音さえ止まった。




居眠りしてた連中は、冷水をかぶったように飛び起きた。




いつも嵐みたいに吠えるハヤカワ教授。


その彼でさえ、一歩後ずさった。




そして、全員の頭に同じ疑問がバチッと走った。




「誰を連れに来たんだ?」




「座れ、諸君。」




ハヤカワ教授の声が響いた。


「実存の選択」の話をしていたところだ。




だが、委員会の連中は眉一つ動かさない。




銀縁のメガネのハゲ頭。


重い視線で教室を見回す。


まるで獲物を探す鷹だ。




ナギは――動かない。


そっとスマホをポケットにしまった。


冷たい仮面の顔が、一瞬揺れた。




(…近い。思ったより、ずっと近い。)




「臨時検査だ。」




ハゲ頭が乾いた声で言い放つ。


「5分。いくつか質問する。」




教室がザワッと騒がしくなる。


ため息。不満のつぶやき。




ミズキは――固まった。




ナギは目をそっと閉じた。




(またか… また同じ繰り返しだ。)




委員会が容赦なく切り込んでくる。


「タブが違う。」


「ノートが規格外だ。」


どんな言い訳も即有罪。




と、突然――バン!




両側のドアが勢いよく閉まった。


ガラスが震え、廊下にエコーが響く。




学生たちは凍りついた。


まるで獣が檻に閉じ込められたよう。




「開けてくれ!」




誰かの叫び声が響いた。




だが、ドアはビクともしない。


押しても、引いても。


2


誰かが叫んだ。


だが、ドアはピクリとも動かない。


まるで溶接で固められたみたいだ。




バン!


窓が次々と閉まった。


チョークの匂いが空気に張り付く。


息をするのも苦しくなる。




ランプがチラチラと揺れた。


一瞬の点滅。


教室が薄暗さに飲み込まれる。




床が――揺れた。


最初はほんの少し。


建物が息を吐いたみたいに。




だが、突然――ゴゴゴゴッ!




地面が割れそうな轟音!




「何だこれ!?」


「地震!?」


「いや、違う! 何かおかしい!」




誰かが椅子にしがみつき、


誰かは頭を抱えて叫び声を上げた。


ハヤカワ教授さえ、顔が真っ青だ。




スマホは――圏外。


パニックがウイルスみたいに広がる。




懐中電灯も点かない。


教室の半分が闇に沈んだ。




…だが、ナギだけは動かない。




まるで全部、知ってたみたいに。




膝の上の指が、ギュッと拳に握られる。


視線は床に釘付け。




ミズキは我慢できなかった。




(なんで… なんであいつ、こんな落ち着いてるの…?)


(何か知ってるの? 絶対、知ってる!)




心臓がドクドクと裏切られたように鳴る。




ミズキはナギに飛びついた。


両肩をガッとつかむ。




「ナギ、何が起きてるの…!?」




彼女の声が、騒音と叫び声を切り裂いた。




だが、ナギは答えない。


ただ、唇の端がわずかに上がった。


獰猛で、危険な笑み。




と、その瞬間――




ナギのポケットで、スマホがパッと光った。




一瞬の閃光。




まるで…


別の世界からのサインみたいに。

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