迷探偵、国会に参戦

その日、凡間凡はなぜか証人喚問に呼ばれていた。

テーマは「公共事業の不正入札疑惑」。

「それでは、証人・凡間凡君。発言を許します」

「つまり、私は発言を許されたのだ」

議場にどよめきと笑いが起きる。

「もう開幕から大混乱だよ!」

いつも通り傍聴席にいる留美からツッコミが入った。


「凡間探偵、不正入札はあったと思いますか?」

「入札が不正であったならば、不正入札である」

「……つまり、あったのですか?」

「つまり、あればあったし、なければなかったのだ」

議場が爆笑とざわめきで包まれる。

「国会で二択しか言わないってどういうこと!?」



「しかし、ある建設会社にだけ異常に偏った契約記録が残っている! これをどう見る?」

議員の一人が発言した。

「偏っているものは、偏っているのだ」

議員は絶句した。

「いやでも確かに、それは証拠として偏ってるって認めてることになるぞ……」

傍聴席の禿山がついに探偵の発言を理解し始めた。

「凡さんの発言を勝手に補完しないで!」


ここで議事堂に新証拠が提出された。

「入札表のコピー」。だが――そこに書かれた日付は「6月31日」。

「6月31日は存在しない。つまり、存在しない日付は存在しなかった」

「おおおおお!!」

「まさか……! これも改ざんされた帳簿だと!?」

「つまり、そういうことだ」

証人席に座っていた官僚の一人が顔を青ざめさせた。

「……ち、違う! これはただの書き間違いだ!」

「違うと言うのは、違わないかもしれないということだ」

「……っ!」

議場にどよめきが起こる。

「静粛に! ……しかし、これは重大な疑惑だ」


外に出た凡間と留美。

記者たちがマイクを突きつける。

「凡間探偵、今日の証言の感想は!?」

「答弁は答弁であった」

「おおお!!」

「いや、感想になってないからぁぁ!!」


こうして凡間凡は、なぜか日本の政治までも揺るがす存在になってしまった。

だが本人は何も分かっていない。

「つまり、国会とは国会だったのだ」

「やっぱり最後はそうなるよね!」

今日も凡間探偵事務所は平和である。

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