迷探偵VS怪盗

ある夜、有名美術館に、怪盗・印塚虎之介いんづかとらのすけから予告状が届いた。

「今宵、貴館の至宝『蒼き女神像』をいただきに参上する。怪盗印塚虎之介」

「またあの怪盗か! 完全犯罪を繰り返して、これまで一度も捕まっていない……」

禿山がゆで卵のような頭を抱えた。

「でも今回は凡さんがいるから……いや、不安しかない!」

「つまり、盗まれるものは盗まれるのだな」

「縁起でもないこと言わないで!」


厳重な警備の中、凡間・留美・禿山が待ち受ける。

展示室には『蒼き女神像』が鎮座していた。

「ふむ……これは像だな」

「説明力ゼロ!」

「静かに! 来るぞ……」

その瞬間、天井から黒マントの男が舞い降りた。

シルクハット、片眼鏡、そして華麗な笑み――怪盗・印塚虎之介!

「ふははっ! お見事、名探偵と警察のお出ましか。しかし私を止められるかな?」

印塚は一瞬で展示ケースを開け、女神像を掴み取る。

警報が鳴り響く――だが、すぐに消えた。

「え!? 警報が止まった!?」

「仕掛けをハッキングしてやがったのか!」

禿山が印塚を追うが、もう遅い。

「さらばだ!」

彼は煙幕を放ち、視界が真っ白になる。


煙が晴れたとき、女神像は――まだ台座の上にあった。

「……え!? 持って行ってない!?」

「いや、待て。よく見ろ!」

禿山は目と頭を光らせた。

よく見ると、それは精巧なレプリカ。

本物は消えていた。

「真実は常に一つ……だが私の手の中にある!」

怪盗は、高笑いしながら消えていった。


「つまり――盗まれたものは、盗まれたものだった」

「うん! その通りだけども!!」

「どうすんだよ、もう逃げられたぞ!」

禿山は半ばパニック状態である。照明の光が彼の頭で乱反射した。

凡間は、展示ケースの下を覗き込み、何気なく指差した。

「この床に付いているのは……靴跡だな」

「当たり前すぎるよ!!」

「……待て。この靴跡、展示室に入る前の警備員の靴とは違う。怪盗が使った靴跡だ!」

禿山が探偵よりも鋭い分析を見せた。

「え、つまり――怪盗はすでに館内に潜んでる!?」

「つまり――まだ逃げていないのだな」

その瞬間、天井裏から物音が。

禿山が叫んだ。

「そこだ!!」


慌てて天井裏から飛び出してきた印塚は、あっけなく取り押さえられた。

懐からは本物の『蒼き女神像』が。

「……馬鹿な! どうして私の完璧なトリックが……!」

「つまり――完璧ではなかったのだ」

「凡さん、最後だけ決め台詞っぽい!!」


こうして、史上初めて怪盗印塚虎之介が現行犯逮捕された。

しかし本人は笑みを浮かべていた。

「ふふ……凡間凡、君こそ私の最大のライバルだ」

「ライバルとは、ライバルである」

「いや、なんかかっこよく聞こえるのが腹立つ!!」

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