社会の痛点について

伽墨

社会にとっての弁慶の泣き所

ロシアは世界有数の産油国だ。にもかかわらず、最近ガソリンの価格がバカ高くなっているという。1リットルあたり約350円、日本の2倍だそうだ。理由はウクライナによる製油所攻撃。原油は地中からいくらでも汲み上げられるのに、それをガソリンや軽油に変える「翻訳機」が壊れると、途端に社会は立ち行かなくなる。


考えてみれば、社会はそうした「痛点」だらけである。


巨大なダムがあっても、見渡す限り太陽光パネルで埋め尽くされたメガソーラーがあっても、送電線の一部が焼き切れるだけで都市は暗闇に沈む。

国際空港が元気でも、燃料を積む給油車が止まれば飛行機は飛ばない。

スーパーに何万点の商品が並んでいても、物流センターの一つが詰まれば棚はあっという間に空っぽになる。

インターネットは無限の知識を抱えているようでいて、たった一本の海底ケーブルが切れるだけで国全体が孤立する。

そして職場だってそうだ。地味な部署のひとりが病欠しただけで、華やかなプロジェクトが一斉に足踏みすることもある。


人間の身体についても、面白い急所がある。それは「ふくらはぎ」だ。格闘技には「カーフキック」という技がある。これは相手のふくらはぎを思いきり蹴飛ばすという、至極単純な技だ。だが、これが2〜3発決まると、相手はもう立っていられなくなる。殴る、蹴る、取っ組み合う、なんでもアリなはずの総合格闘技でも、このカーフキックだけで試合が決まってしまうことがある。ふくらはぎの筋肉は小さいが、立つというアクションのために不可欠な存在なのである。


どうだろうか。この短編を読んでいるあなた。

あなたもまた、社会の痛点なのかもしれない。

けれど、それは同時に――あなたなくしては世界が崩れるということだ。

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社会の痛点について 伽墨 @omoitsukiwokakuyo

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