愛したいって思いつづけても・・・【朗読OK】

月見里つづり

愛したいと思い続けても・・・


「もうさー、彼氏になるまでいかなくていいからさー! せめて仲良くなるだけでもいいじゃーん」


 私は本当に男運がない。

いいなと思っても、よくなりそうと胸を高鳴らせても、どうしても、縁が続かないのだ。

振られたり、連絡が途絶えたり、そろそろ、厄払いに行ったほうがいい気がしてきた。

そんなことを思ってしまうほどに今ブルーな気持ちを幼馴染の要(かなめ)に私はぶつけてた。


 要は私の中で唯一、十年以上も一緒にいてくれる男性だった。


「はいはい、そんなに荒れ狂って……前回からだいぶ久しぶりだよね、そんなに期待した感じ?」


「うんー……もうさぁ、大学卒業間近だからさぁ……いけるよねとなってた」


 私と要の所属している古文書解読サークルのOBで、会社勤めをしている穏やかそうなメガネ男子。

連絡先を交換したのに、急にぷっつり連絡がなくなった上に、ブロックまでされてしまった。


「あずさちゃん、必死なのもよくないよ。いい人は自然と現れるって言うし……ゆっくりでもいいんじゃない?」


 そう言いながら、要は私に日本酒を継ぎ足した。

ああ、今日、荒れ狂いすぎて、随分飲んでいるなと思う。でも、なんだろう……感情が止められないのだ。

自分の運命を呪うような、どろどろした感情と……純粋にお酒を飲みたくなる衝動。

 宅飲みでなかったらとんでもないことになってただろう。


「やだよぅ、運命の人に会いたいじゃん……その候補になれる人にすら会えないなんてやだよぉ」


 私は子どものようにやだやだしながらきゅうっと唇を噛んだ。

なんでこんなに、男だけに避けられるのだろう。私、なにか疫病神でもついてるのかな、となる。


「君に疫病神なんてついてるわけないじゃないか、むしろ守ってくれる神がいるかもしれないよ」


 自分の心のぼやきが自然とでてしまったらしい。

要はどこか遠くを見るような目をしながら私を覗き込んでみていた。

その目はどこか、超然とした空気感があり、あれ要だよねと、違和感になった。


「守ってくれる神なら、なんですが、近づく男は全部だめってことですか」


 呂律が怪しい口調で私が噛みつくと、要は首をかしげて。


「さぁ、わかんないけど……僕が神なら、あずさちゃんを誰にも渡さないけどね」


 そう、微笑んだ。


「え……」


 要から聞いたことのないほどの甘い言葉を囁かれて、私はびくりと固まった。

要は私とずっと一緒にいるが、物腰が柔らかくいつも私の話を聞いてくれた。

そしてそばにいてくれる優しい子。なのに、今の要はまるで


「なにか違う人みたい……変な要」


「うん、ちょっと酔っ払ったかも」


「そっか、そうだよね……私もかなり酔っ払ったかも」


 要の言葉に私はほっとして胸を撫で下ろした。


「そういえば梓ちゃんに言いたいことがあって」


 要はそうだ、追加の注文をしようと言わんばかりに軽く言った。


「え、何……」


 どさっと体を押し倒される。

床の感触を頭と、背中と肩に感じ、私は目を丸くした。

要の目が、爛々とした、異形のように輝いてる。


「ごめんね、もう、我慢できなくなっちゃった」


 そう言って、彼は私の首筋に深く吸い付いた。


 

 ……あたまがぐちゃぐちゃになっている。

彼に囚われて、たくさん、彼いわく愛されて……私の体も心も魂すらも溶かされようとしているのか。

何も動けない、縛られて、声も発せなくて、ただただ、彼に愛されている。


 呪いって知ってる?

 梓ちゃん

 僕にはね、呪いがかかっているの。


 お前は本当に一生愛されないって。

そばにいてくれるものがいないって。

その代わり、強い呪いの力で、人を壊せるんだって。


 僕ね、一人ぼっちだったんだ。

みんなのことを呪いでひれ伏せれるけど、誰もそばにいてくれない。

そんなときに驚いたよ、君はそばにいてくれて。


 君は祝福をもらってた。

愛される能力、本来は君は愛でられ大切され、誰からも……抱きしめてもらえる力があった。

だからこそ、その祝福が僕の呪いにほんの少し勝って、君は僕のそばにいられる。


 でも、君は祝福されてるから……君の知らないところでとても愛されてたし

とても近寄ってくる奴らが多かった。僕の運命の相手は君しかいないのに、君の運命の相手は……


 だから、呪ってやった、片っ端から。

運命がこの世界にあって、君を愛するための人がいたとしても……


「僕が運命を捻じ曲げるから」


「愛してるから、君のそばにずっといさせて」


 ……ほかなんて、見ないで。


 溺れる、彼の闇のように深い、哀に満ちた愛に、すべてを飲み込まれそうになる。

彼が私から、人を遠ざけた。信じていた相手は壊れてた……辛いより、やるせなかった。

なんでと思う自分がいた。私よりも辛い、蠱毒ような寂しさのただ中にいたのだ。


 でも、こんなにも脳が侵されそうな愛情の中で、私は自由がなかった。

彼が私の言葉を奪ってしまったから。涙しか流せない。

もう私は、呼吸をしていないから、伝えたい気持ちを一ミリも伝えられない。


「君が生きてる限り、君には祝福が降り積もる」


 要は私だったものを抱きしめた。唇を頬に這わせ、やがて私の唇に重ねる。


 私の死体なんて、彼は愛したくなかったはずなのに。

 私は彼の肩に寄り添った。


「好きだよ、梓……僕は、君を永遠に愛してる」


「こうでもしないと愛せなかった……僕を呪ってくれ」


 彼ももはや人を愛するために、呪いで人を本当に壊してしまったから。

もう、人間ではいられなかった。人間の形を失い、モヤと化す要。

そしてそれに取り込まれる、私と私の死体。


 愛と言うにはほろ苦い感情で

永遠と言うには短い間私は


 彼のことを抱きしめ続けた。

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