第10話 初めての壁

 loudyの動画は、少しずつだが確実に広がっていた。

 フォロワーは数万人を突破し、コメント欄も活気づいてきた。


 そんなある日、谷口が興奮した声で言った。

 「みんな! 企業から案件の相談が来た!」



初めての依頼


 依頼主は、新しく立ち上げたアパレルブランドだった。

 「若者に届くプロモーション動画を作ってほしい」


 全員で顔を見合わせる。

 「ついに俺たちも“プロ”か」

 「これで収益も出せるぞ」


 胸の奥が熱くなった。

 ようやく、社会に胸を張れる日が来た気がした。



苦しい制作


 だが、現実は甘くなかった。

 依頼主の要望は細かく、何度も修正が求められた。

 「もっと爽やかに」

 「ブランドイメージに合わない」


 徹夜で編集しても、翌日には赤字だらけのフィードバックが返ってくる。

 机の上には空き缶とため息が積もった。


 「こんなの、俺たちの動画じゃない」

 思わず漏れた俺の声に、空気が重くなる。



苦い現実


 最終的に、納品した動画は想定より再生されず、企業からの反応も冷たかった。

 「期待外れでした」

 短いメールが胸を刺した。


 「プロって、こんなに難しいのか」

 佐伯がぼそりと呟いた。

 俺も同じ気持ちだった。



それでも


 落ち込んだ空気の中で、谷口が笑った。

 「でもさ、俺たちのオリジナル動画は伸びてるよな。

  だったら、また作ろうぜ。案件はそのうちついてくる」


 山下が頷いた。

 「最初から完璧な会社なんてない。大事なのは、続けることだ」


 その言葉に胸が震えた。

 「……そうだな。俺たちは、まだ始まったばかりだ」


 失敗は苦かった。

 けれど、仲間がいる限り、立ち止まる理由にはならなかった。

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