第9話 loudy

 会社を作ると決めた俺たちは、まず名前を考えることになった。

 カフェのテーブルに紙ナプキンを広げ、それぞれが思いついた単語を書き殴る。


 「映像研究所、とか?」

 「いや、固すぎる」

 「SNSに強そうな響きがいいな」

 「英語っぽいのが覚えやすいよ」


 くだらない案も飛び交い、笑い声が絶えなかった。



名前の意味


 俺はふと、ノートに一文字を書いた。

 “LOUD”


 「……どうだろう。声とか、音とか。

  俺たちが発信して、もっと大きく広がっていく感じがする」


 全員が頷いた。

 谷口が笑って言った。

 「最後に“y”をつけて、“loudy”ってどう? 柔らかくなるし、ブランドっぽい」


 その瞬間、全員の目が輝いた。

 「株式会社 loudy」

 声に出すと、未来が現実に近づいた気がした。



初めてのチーム制作


 最初の企画は、日常の小さな“あるある”を短いコント動画にすることだった。

 佐伯がカメラを回し、山下がイラストを挿入し、谷口が投稿時間を分析。

 俺は編集に没頭し、くだらない効果音を差し込んだ。


 気づけば、夜明け前まで全員で作業していた。

 机の上にはコーヒーカップとポテチの袋。

 「徹夜なんて学生の文化祭以来だな」

 「でも、楽しいな」

 笑い声が絶えなかった。



アップロード


 完成した動画を投稿した瞬間、全員でスマホを握りしめた。

 「……来たぞ、一再生」

 「お、もうコメントついた!」

 《爆笑した》《こういうの待ってた》


 数分ごとに再生数は伸び、千、二千、三千……。

 歓声を上げ、店員に注意されるほどだった。


 「これが……俺たちの“会社”の第一歩だ」

 誰が言ったのかは分からない。

 けれど、その言葉に全員が頷いた。



未来への鼓動


 帰り道、スマホの画面には「フォロワー+1000」の通知。

 胸の奥で鼓動が高鳴っていた。


 かつて社会から逃げた俺が、今は仲間と共に未来を作ろうとしている。

 株式会社 loudy。

 その名前を何度も心の中で繰り返しながら、俺は笑った。

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