あの白、どこ行った?
じろ
前編「ホワイトヒーローを探して」
僕は幼い頃、正義の味方に命を救われたことがある。
あれは僕が9歳のころ。まだ怪人が世の中にちらほらといた時代。僕は学校の帰り道だった。
いきなり目の前に怪人(たしか名前はカニ星人だったと思う)が現れ、僕に襲い掛かってきたのだ。怪人はよく子どもが一人の時を狙うと言われていて、まさにその状況は典型的なパターンだった。
カニ星人は大きなハサミをジャキジャキ鳴らせて僕にじりじりと近寄ってきて、情けない事に僕は腰が抜けてその場から動けなくなっていた。
その時だった。空から(具体的には民家の屋根から)、白いヒーロースーツを現れた女の人が現れた。顔はマスクをかぶっていてわからない。 彼女は勢いよくジャンプをした。空中で華麗にくるくる回り、僕の前に着地すると、間髪入れずにカニ星人に飛び蹴りを食らわせた。
何か技名を叫んでいたがよく聞き取れなかった。 カニ星人はそのキックでよろめき、その後も息もつく暇ないほどのパンチキックの連打を浴びてあっけなく倒れた。
「危ないところだったわね」 闘っているときとは打って変わって、白いヒーロースーツを着た彼女は優しく、柔らかい声だった。そして私の手をとり優しく起こすと、また勢いよく跳躍し去っていった。
その時から僕はこのヒーローというものに憧れと、ほんの少しの恋心を持つようになっていた。
そしてそこからさらに8年。僕はあの時助けてくれた白いスーツの彼女を探す事にした。あの時言えなかったお礼と、あの日からずっと膨らみ続けている今の気持ちを伝えたくて、動かずにはいられなかったのだ。
僕は彼女が今どこにいるかを知るべく、都内にあるヒーロー事務局に出向いた。 僕が受付にいる事務員さんに白いヒーローをスーツを着た女性に会いたいと伝えると、その事務員からは意外な返事が返ってきた。
「ヒーローホワイトの事ですね。で、それは何色のホワイトですか?」
えっ、と僕は言葉に詰まった。
何色のホワイト?
「白と言っても200色ありますからねぇ。どのホワイトかわからないと探しようがないですから」
なんてこった。ホワイトヒーローってそんなにいるの?
僕が見た白はどんな色だったか……?
事務員さんが出してくれたヒーロー名鑑を凝視する。
【ホワイト】の欄は実に319ページにも及んでいた。 ただでさえ見分けがつきにくい白色なのに、引退、そして新しく入隊したヒーローなど世代交代の都合で同じホワイトでも中の人は違うらしい。
しかもその度に2代目パールホワイトとか、4代目アイボリーホワイトとかでページを使っているため、もはやわけがわからなくなっていた。
仮にこの中からある程度絞り出せたとしても、ヒーローが実際に会ってくれるか、また素顔を見せてくれるかは本人の判断になってしまうらしい。確かにページの備考欄には 「面談可」「マスク着脱NG」とか書かれている。ヒーローにもプライベートが尊重されている。
途方に暮れる僕。この中から全部を調べていくと一体何年かかるだろう?
いや、そもそも引退をしているヒーローには会うことも叶わない。なにせ8年以上も前の話だ。
僕は苦し紛れとはわかっていても、記憶にある微妙な白の色合いを思い出し、面談の予約手続きをした。
「ミルクホワイト」と「オフホワイト」と「ルーズホワイト」だ。
本当にこんなことで見つかるのか?
先は長そうだ。「ホワイト」の文字を見すぎたせいで、脳がゲシュタルト崩壊を起こしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます