第2話 ヒロインを溺愛したら世界がざわついた件

 朝。

 目覚めの鐘が鳴り、私は王城の広大な寝室で伸びをした。

 昨夜は暗殺者に襲われたが、無事に退けた。だが安堵はできない。むしろ、世界そのものが「シナリオを修正しよう」としてきた事実が、私の頭に深く刻み込まれていた。


 ――つまり。

 私は原作を改変するたびに、強烈な“揺り戻し”を受けることになる。


 「推しを救うって、想像以上にハードモード……」


 だが、引き返すつもりはない。

 何があっても、推しを救い、ハッピーエンドへ導く。それがこの転生の意味だと信じている。


ヒロインとの朝のひととき


 朝食の席にて。

 私の婚約者――ゲームのヒロイン、リリアナが同席していた。


 本来なら、この時期は彼女を冷たくあしらい、周囲に見せつけるように軽蔑の言葉を浴びせるシーンだ。

 だが私は、昨日の舞踏会に引き続き「溺愛ルート」を推し進めると決めていた。


 「リリアナ、眠れたか?」

 「え……は、はい。殿下が……ご心配くださるなんて」


 彼女は目を瞬かせ、信じられないといった表情で私を見た。

 そりゃそうだろう。原作では彼女を公衆の面前で辱め、冷笑するのが私の役割だった。


 「君の体調が第一だ。無理はするな」

 「……っ!」


 リリアナは頬を赤く染め、視線を逸らす。

 その反応に、周囲の侍女たちがざわついた。


 ――いいぞ、これで“悪役ラスボス”のイメージを軟化させられる。


 だが同時に、胸の奥で警告の鐘が鳴る。

 物語の強制力が、どこかで再び牙を剥く気配がした。


推し=主人公との再会


 昼下がり、城の訓練場。

 そこには、木剣を振るう青年――私の推し、アレンの姿があった。


 太陽を浴びながら真剣に鍛錬を続ける彼の姿は、やはり美しい。

 原作で彼に惚れ込んだ瞬間を思い出す。庶民出の騎士見習いで、泥にまみれながらも光を放ち続ける存在。


 「おや、王子殿下……!」

 「訓練熱心だな、アレン」


 彼は驚いたように手を止め、汗を拭った。

 本来ならこの場で私は彼を侮辱し、士気を削ぐのがシナリオ。だがもちろん、そんなことはしない。


 「腕前を見せてもらえるか?」

 「……よろしいのですか?」

 「ああ。全力で来い」


 アレンが突きかかってくる。

 私は受け止め、軽やかにいなす。何合も打ち合った末に、私は彼の木剣を弾き飛ばした。


 「見事だ、アレン」

 「っ……殿下にそう言っていただけるとは……」


 彼の目がきらきらと輝いている。

 本来は「憎悪フラグ」を立てる場面を、完全に「尊敬フラグ」へ書き換えた。


 ――これで、推しとの関係も敵対ではなく共闘へ進める。


世界の反発、再び


 その夜。

 またも寝室に違和感を覚えた。冷たい風。窓から差し込む影。


 「……来たか」


 今回は二人。しかも昼間の騎士団に紛れ込んでいた刺客だ。

 彼らは同時に刃を向けてくる。


 「くっ……!」


 魔力を解放し、炎の壁を展開。襲撃者を弾き飛ばす。

 だが、私は息を呑んだ。


 本来なら“この暗殺イベント”は三章で発生するはず。

 私が改変を進めたせいで、シナリオが強引に前倒しされている……!?


 「世界そのものが、私を悪役に戻そうとしているのか」


 ゾッとする。

 だが同時に燃え上がるものもあった。


 ――それなら、私も徹底的に抗うだけだ。


 推しを救うために、世界とだって戦ってやる。


崩れ始める歯車


 暗殺者を捕らえ、裏を探らせると、思わぬ情報が出てきた。

 背後にいたのは、王国内の大貴族。

 ゲームでは後に「ヒロインを陥れる陰謀の黒幕」となる人物だ。


 つまり私はもう、三章以降のフラグまで前倒しで踏み抜いてしまっている。


 「……どこまで歯車を狂わせたんだ、私は」


 けれど、後悔はない。

 推しが死ぬ未来を防げるなら、いくらでも改変してやる。


 ただし。

 この世界が“バグ”を起こす危険性も、確実に高まっていた。


決意


 夜明け前、私はベッドの上で拳を握った。


 「いいさ。全部壊れても構わない。推しを救えるなら、それが私の正義だ」


 ゲームのプレイヤーとしてではなく――この世界で生きる者として。

 悪役ラスボス王子としての力を、推しの未来のために使う。


 それが、私の“推し活”だ。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

この物語は「推しを救いたい!」というただ一つの想いから始まりました。

悪役転生×推し活の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

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