第16話 小太鼓みたいな
「春陽!大丈夫か?お前心拍数が閾値…を…超え…………」
慌てて扉を開けた夏目と、なんとな〜く後ろに追従している囲炉裏。
2人を待ち構えていたのは、なんか今までにないくらい紅葉に張り付いている春陽と、それから…いつも通りの紅葉。
「ん?」
「え?」
「あ」
気配に気付いた春陽が、ものすごい勢いで紅葉のもとを離れ、同時に後ろを振り返る。
「あ!!夏目。これはその………えっと………その勢いでちょっとね!!あっはは……」
「え、春陽、立てるのか?」
「うん」
「話せるのか!?」
「え?はい。」
「どういうことですか夏目さん!?」
食い気味に春陽の手首をつかみ脈を測る夏目。と、それを見て困惑する紅葉。にこにこ笑っている春陽。そして、それを淡々と見つめ続ける囲炉裏。
「そうか…春陽、父さんにはそう言っとく。次会う時に、また詳しく」
ガバッ。手を離し、スマホに、父親に向けたチャットを打ち込む夏目。
「りょーかい。紅葉」
満足気にうなずく春陽。
「え?これどういう…どういうこと?」
「ねえ紅葉、夏目。よければ、囲炉裏さんも。このあとご飯に行こう」
「会話の文脈が迷子だよ!?」
「おお。喜んでお付き合いしますよ、自分は」
「俺も。ああ、紅葉」
「ん…?何夏目」
「今、いいことが起きてる。それだけは確かだ」
「え?どういうこと?」
「とにかく、ここでたむろしていると迷惑だ。全員、とにかく服を着る。話はそれからだ」
「ま、まあ…たしかに…?」
ぞろぞろと、全員が各自のロッカーに向かう。夏目が、隣にいる春陽に耳打ちをする。
「お前、心拍数200超えてたぞ。それで平気だったのか?」
「う、うん。なんかね、心臓の音が、こう…重くなかったというか…。あのね、紅葉のこと舐めた」
「あっ、そうなんだ…よくぞ。いや言い出したのは俺だけどな?そっか。自分から?」
「そう」
「へぇ。もしかしたら、それがよかったのかもな」
「つまり受け身の姿勢になるな…ということ?そっかそっか。じゃあ、今後はちょっと楽かも」
全員、尻尾を穴から出す。結局パンツの事については春陽は明かす勇気がなくなったらしく、春陽はそそくさとズボンを履き、尻尾を穴から出す。結局のところ、尻尾の出し口が根っこから5センチくらいあるタイプのズボンを履いている春陽のパッと見は、いつも通り。
夏目は紺の半ズボンを履き、尻尾を穴から出す。尻尾の付け根から、3センチくらい覆われている、動きやすいやつ。動き方によっては、尻尾を覆っているトランクスがちょいちょい見えるくらいの代物。
鳥組は、二人とも広がっている大きな尻尾の根元を薄居生地のパンツの上から更にスパッツで覆い、余裕を持って大きめの穴があいているズボンを履く。囲炉裏は黒のスリムなシルエットのもので、紅葉は濃いめのオレンジ色で、パッと見でスカートに見えなくもないくらいの、緩めのシルエットのもの。
「まぁ、さっきのはあくまで推察だから、あんまり当てにしすぎんなよ?ちゃんと、とーちゃ…医者の意見を聞いていてくれな」
「もちろん。キミにはお世話になってるし、もう変な無理はしない。ありがとね」
「お…おぅ。俺こそ」
「あれ、ちょっと照れた?僕がお礼を言うことがあっても、キミが言う理由はないんじゃない」
「いや、あれから定期的にメシ奢ってくれるじゃん。お互い様だよ」
「ま、確かにそうか。じゃあ…もう少し甘えさせてもらおうかな」
夏目が、スポーティーな白シャツを。春陽は、5分丈の白パーカーを。
囲炉裏は、黒シャツの上に長袖の黒ジャージ。紅葉は黒シャツに、シルバーのネックレス。その上に、半袖の、オレンジ色の羽織をはおる。
「…何だがよくわかんないけど、付き合うよ。」
「ああ、すまない紅葉。その…やっぱりキミにはある程度、話を通しておかないといけないかな、と思う。いいな?春陽」
「そうだね。その方が良いと思う」
「え、自分は?」
「「おとなしくしててください」」
「え…宇佐美ちゃんのトークしようよ」
「それはそれ!後でしよう。二時間でも三時間でも。施設内のフードコートで集合する。いいね?」
服を着て、荷物をまとめ終わった全員の目線が交差する。
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