空が落た日 〜どうやら私は最強(?)の精霊と契約してしまったようです〜

平木明日香

プロローグ


https://kakuyomu.jp/users/makannkousappou19900317/news/822139836434988132




星の夢と火の契約



かつて、世界は光の海に抱かれていた。

星の潮流――無数の輝きが大地を巡り、海を照らし、空を舞い、森を育み、人々の歌を支えていた。


人はその光を マナ と呼んだ。

それは炎のように燃え、風のように流れ、水のように潤し、大地のように根を張る。

そして同時に、それは「記憶」であり「祈り」であり「声」でもあった。


星の下に生きるもの全ては、その潮流の中で夢を見ていた。

人も、獣も、草木も、大地さえも。


――その夢を、かつて人は「支配できる」と思った。


古代セレスティアの民は、世界を覆う流れを観測し、触れ、ついには制御した。

彼らはそれを 星核(アストラル・コア) と呼び、大地の鼓動を掌に収めた。


嵐を鎮め、川を逆に流し、冬を春に変え、砂漠に雨を降らせた。

夜を昼に変え、星々の運行さえも組み替えた。

人は、神と同じ座に立ったのだ。


だが――


「星は、夢を縛られることを望まなかった。」


やがて流れは滞り、逆流を始める。

大地は裂け、海は立ち上がり、空は反転し、世界は自らの姿を拒絶するかのように軋みを上げた。


その時に溢れ出したものは、灼熱の炎ではなかった。

冷たく青白い光の奔流であった。


それは凍らせることも、焼き尽くすこともなかった。

ただ、あらゆるものを「記憶の粒」へと還していった。


塔は名を残して崩れ、街は夢のかけらだけを地に沈め、人は声を失い、光の塵と化した。

歴史は途絶え、文明は沈黙へと堕ちた。


この惨劇を、人は後に 星核災害 と呼ぶ。


――しかし、それは完全なる終焉ではなかった。


星の鼓動を繋ぎ止めた存在があった。

それこそが、自然の人格にして世界の守護者―― 精霊 である。


彼らは戦い、滅ぼしたのではない。

ただ、二つに裂いた。


すなわち、物質世界と精神世界。

人と自然。

現実と夢。


その狭間に彼らは自らを楔として沈め、崩れゆく星を繋ぎ止めたのだ。


それは自己犠牲であり、同時に再生の始まりであった。


七柱の精霊――古代セプティム。

世界樹の精霊、海淵の精霊、嵐の精霊、大地の精霊、陽炎の精霊、氷雪の精霊。

そして――死を超えた再生の象徴たる不死鳥フェルメリア。


彼らの存在こそが、今日まで続く「星暦」の礎となった。



時は流れた。

沈黙の時代を経て、再び人々は王国を築き、畑を耕し、船を進め、火を灯した。

星暦――SE 2000年。

文明は再び輝きを取り戻し、だが同時に、再び欲望に燃え盛っていた。


中央のヴァルハラン大陸を支配するヘリオス帝国は、かつてのアルカナ工業を母体に軍国主義を極め、数万の兵と鋼鉄の巨艦を誇る。

西方のエルディア連邦は、連合の力で帝国に対抗し、冷戦の最前線に立つ。

そして東方のセレスティア大陸は――古代の森を守り、精霊との契約によって秩序を保つ。


人類は再び二つの陣営に分かれ、争いの渦へと突き進もうとしていた。


その時、再び囁かれた。


――「ガイア大陸に、マナの源泉が眠る」


帝国はその独占を目論み、連邦は対抗を叫び、セレスティアは精霊の沈黙の中に揺れている。

だが、その真実を誰も知らない。

精霊が楔となって支える世界に、再び亀裂が走ろうとしていることを。

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