03
【血ガ欲シイ】
枯れた少し高い声が、耳にまとわりつく。どうやら戦っていた人間を捕食したらしい。これ以上被害を拡大させてはいけない、と私はアレを睨み付けたが、その思いも一瞬で消えてしまう。悪いことは、次々と重なってしまうのだとよく言うが、それはあながち間違ってはいない。
「女子だったみたいですよ!得意分野じゃないですか。」
冗談交じりでヒラメ顔の若い男がにへらっと笑って言った。その男は、アレの目の前にいるのにもかかわらず、平気な顔をして指を差している。どちらかというと、状況を楽しんでいるようにさえ思えた。私はその男に目を移し、眉間にしわを寄せながらも深いため息をついた。一番会いたくない。彼らには、まだ会いたくなかった。ただ、それだけの感情だったが私には十分すぎるほど大きい障害だ。この集団に関わってしまうことは、私の今後を左右する。
「京にいるとは聞いてたけどまさかこのタイミングで会うとは・・・。」
『だよね、それはボクも思ったよ。運がいいのか悪いのか。だけどさ、
確かに。血鬼を見て気絶しないだけでもすごいが、余裕が見られるのは尚のことすごい。しかも人数増えてるし。
「俺の好みじゃないなぁ。・・・って総司!てめぇ!どう見たっておんっ、人じゃないだろう!」
目つきの鋭い端正な顔をした男が、ヒラメ顔の男に突っ込みを入れる。
【ヒジ・・・方・・】
「ご指名じゃないですか。」
頬をぷくっと膨らませながら呟いた男に、思わずクスリっと笑ってしまった。土方と呼ばれた男は、頬を引き攣らさせながら、総司と呼ばれた男を睨んでいた。
【血をもっと・・】
さっきよりも馴染んだような声色が響く。人に近づこうと進化しているのだろう。
『急がないと。今夜は、紅の月・・煌妃、時間がないよ。』
「分かってる!」
紅の月は、"陰"と呼ばれる存在の力を強める作用がある。それは、当然、血鬼も例外ではない。焦り出したのも束の間、なかなかその場を去らない彼らに、私はだんだんとイライラを募らせていた。未だに、血鬼との間合いを取りながらピンっと張り詰めた空気と攻防戦が続いていた。
「ったく、早く逃げろよ。つうかこの場からいなくなれ。」
さっきでのネガティブモードとは打って変わって、そこには別人がいた。
『あのさ、煌妃。乙女心はなんとやらというけど、切り替え早くない!?さっきまでのキミはどこいったの!』
何のこと?というおどけた表情をした私に呆れたように白空は目を細めた。どうやら、安心してくれたらしい。あんな”弱さ”がどんどん溜まって、一気に溢れてしまうことがある。それは、自分でも抑えることができなくて、迷惑をかけてしまう。ちょうどさっきみたいに。こんな自分でも白空は見捨てないで、ずっとそばにいてくれる。だから、いままでがんばってこれたのだと思う。と私が思っていたのに気付いたのか否か、顔をちらちら見て様子をうかがっていたいた白空は、がぅっと小さい鳴き声をあげた。
『そろそろ、限界だよね。キミもボクも。でもよくまぁ、もったよ。いってらっしゃい、幼き我が君。』
あきれたようなため息をつく白空に、背中を押された気がした。だからなのかもしれない。私のテンションは最高潮を迎えた。
『その想い刃に変えて、前に進むがいいさ。』
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