第7話
燃え盛る王宮の内部は、暗くなり始めた外と違って明るく爛々と輝いていた。
俺達は先に行くリリーナに追い付き、俺は肩を叩いた。
「おい、どこから探すんだ」
「・・・玉座の間には緊急脱出用の通路がある。地下に繋がっているが、脱出すれば何らかの合図がある」
「じゃあその合図があったから皆逃げていたのか?」
「いいや、合図はまだ出ていない。王はまだ、玉座の間にいる可能性がある」
「なら玉座の間に向かった方がいいな、先頭は任せろお前様」
サクラがリリーナの前に飛び出し、角で鉢合わせた騎士の首を軽く捻った。
「玉座の間はここからなら、中央階段を登ってすぐだ。中央階段はすぐそこ・・・」
「あ、あぁ・・・」
中央階段の惨状に、フランが膝を着く。そこには羊の獣人達がテーブルに並べられ、鎧を着た三人の狼の獣人に捕食されていた。
「お母様、お兄様、お姉様・・・ノルン、レミ、スーコス、ハイン、爺や、使用人の皆・・・あぁ・・・」
「殺してやる、外道共!」
「あぁ? 誰かと思えば
「同種食いは法で禁じられている! 何故そんな蛮行を働ける!」
「そりゃおめぇ、弱肉強食は基本だろうが」
「ッ! 言葉を介すだけの獣め!」
リリーナは剣を持ち、血を撒き散らしながら突進する。しかし鎧を着た獣人は剣も持たずに、足を引っ掛けリリーナを転ばせた。
その衝撃でリリーナの兜が外れる。
「あぁそうか、食えなくて当然か」
リリーナの素顔には大きな巻角が二本、頭に生えていた。
リリーナは
鎧を着た獣人達は武器を持ち、兜を装着し始める。
「羊の肉も飽きて来た所だ。
「分かった、隊長」
「俺が全員頂いちゃいますね〜」
「第一部隊、出るぞ!」
三人の近衛騎士は机を蹴り上げ、死体を撒き散らしながら視界を塞いでくる。
サクラが飛び出し机を蹴り上げようと足を出すが、その瞬間近衛騎士達は一瞬で机を切り崩した。
「ぐっ!?」
「サクラ!」
「まずは犬っころからぁ!」
足を切られたサクラは着地に失敗し、その隙を近衛騎士が飛び掛る。
俺は剣を持って飛び出し、サクラの顔面ギリギリでその剣を受け止めた。
「子羊、貰った」
「お前様!」
「ぐえ!」
サクラに蹴り飛ばされ、フランを襲おうとしていた近衛騎士にぶつかる。近衛騎士はふらつき、フランのすぐ側に剣が振り下ろされる。
だがフランはその剣に怯える事も出来ず、散らばった家族の死体の前に跪いていた。
「どうして、どうしてこんな酷い事が!」
「好きなものを好きな時に好きなだけ食う、それが俺達の追い求める自由。それが俺達の乞い願う原理主義だ」
俺は剣を持ち、近衛騎士の前に立つ。
「お前達の様に自分勝手な奴には覚えがある、俺を追い立て全てを奪った男だ」
「ジハード様・・・どうか、どうかこの男を」
「自らの私利私欲の為に他者を踏み躙る、そういう奴を見逃す訳にはいかない!」
「どうかこの男を倒して・・・!」
近衛騎士はゆるりとした動きで剣を構える。俺を敵として認めた様で、兜の隙間から鋭い眼光が俺を射抜く。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「遅い」
剣を振りかぶり、大きく踏み込む。近衛騎士はゆるりとした動きで俺の剣を避け、横凪に大剣を振るう。俺は咄嗟に飛び退き、その大剣を避ける。
「訓練を積んでいるようだが、弱い!」
近衛騎士は大剣を床に突き刺し、捲り上げる様に床材を散らす。剣で瓦礫を弾き飛ばすが、その瞬間目の前に素手の近衛騎士が現れる。
一瞬で地面に頭を押さえ付けられ、首に自分の剣を突き付けられる。
「死ね」
「うぁぁぁぁぁぁ! 【反転】ッ!」
外れた床に手を触れ、反転を発動させる。床が跳ね上がり、一瞬で俺と近衛騎士は打ち上げられる。
一緒に跳ね上げられた剣を掴み、空中で身を捩る近衛騎士の腹に突き立てる。
「まさか」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
床に叩き付けられると同時に、厚い鎧を貫き剣が深々と突き刺さる。
悶える近衛騎士の腹から剣を引き抜くと、フランが駆け寄ってくる。
「すぐに治療すれば命は助かるだろう」
「・・・ありがとう、ジハード様。私の愚かな願いを叶えてくれて」
「お前様、こっちも終わったぞ」
「リリーナは」
俺がそう零した瞬間、右角の折れたリリーナが吹き飛ばされてくる。
隊長と呼ばれていた近衛騎士の首には剣が突き刺さり、その目にはリリーナの折れた角が刺さっていた。
「クソ・・・こんな女に・・・」
最後にそう言い残し、近衛騎士の隊長は倒れた。リリーナはふらつきながらも立ち上がり、近衛騎士の隊長の首から剣を引き抜いた。
「フラン様、弔いは後で必ず」
「・・・えぇ、分かっています」
フランは覚悟の籠った目で、家族の死体に別れを告げる。
周囲の炎は強まり、中央階段にも微かに火の手が迫って来ていた。
「急ぐぞ!」
俺達は中央階段を駆け上がる。中央階段を登り切ってすぐに、巨大な扉が現れた。
「ここが玉座の間だ・・・」
リリーナは血塗れの腕で、寄り掛かるように扉を押し開ける。玉座の間には既に炎が広がり、その奥には見覚えのある姿があった。
「ずっと引っ掛かってたんだ。他の奴らは王を探すと言っていたのに、一人だけ捕まっている事前提で物を言っていた」
「お、お前は・・・!」
「事態の把握が早く正確、それに何よりクーデターがスムーズに進みすぎている」
「・・・姫様もついでに死んでくれると思ったんだがな」
炎の向こう側から、ゆっくりと剣を引き摺りやって来る。そこには、ガルムがいた。
「原理主義者の一人だったのか」
「肉食と草食の獣人の間には深い溝がある。どうやっても相容れないんだ」
「外道め」
「おい、よせよ。俺はあくまで真の王に忠誠を誓っているだけだ、その為なら手段を選ばないんだよ」
サクラが牙を剥き出しにし、一歩前に出る。その視線はガルムの後ろを睨んでいた。
「ガリュオーン!」
ガルムの後ろには二人の男がいた。一人は玉座の傍で倒れている羊の老人。もう一人は玉座に着き頬杖をついた犬の獣人。
「久しいな、フェンリル」
「今はサクラだ!」
「お父様!」
フランが倒れた老人に声を掛ける。しかし、欠片も反応が帰ってこない。
「まだ息はあるが・・・もう長くは無いだろう」
「お前は誰だ!」
「オレは
「偽の王だと・・・!」
リリーナが声を荒らげる。
「何百年も昔に圧政を敷き、国民に追放されたお前が王を騙るな!」
「うるさいな、ガルム始末しろ」
ガルムが剣を引き摺りながらゆっくりとリリーナに歩み寄る。リリーナは震える手で剣を構えるが、血を吐いてその場に倒れてしまう。
ガルムはガリュオーンの方を向いて、肩を竦めた。
「それで、お前達は何の用でここに来た。フェンリルよ」
「何の用? クーデターを潰しに来たんだよ」
「ではもう終わりだな。手遅れ。それが結果だ」
「・・・もう一つ、お前に用がある」
「オレにか? 面白い、言ってみろ」
「お前をぶっ倒しに来た」
「・・・ククク、良いだろう。面白い、ガルム! 相手をしてやれ! オレはフェンリルをやろう」
「はっ、かしこまりました」
ガルムはガリュオーンに向かって一礼をすると、俺に向かって剣を向けた。
首をコキコキと鳴らしながら、俺に向かって挑発するポーズを取る。
「ガリュオーン様の側近、ガルム。一応お前の名前も聞いておこう」
「俺の名前はジハード・アーサー! お前らのやり方は気に食わねぇ、ぶっ飛ばしてやる!」
「そうか、残念だ」
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