忍ーSHINOBIー転生戦士の起源篇
紫月 白
第壹章 天宮の出禁と婚約破棄
逆賊【
【今代】の【天帝】である【
【天宮】へ出仕している【各族長】、【諸侯】たちは最初はまた【炎帝(神農)】のワガママが始まったと呆れる。
【神農】は、【炎】のように苛烈で荒い気性から【炎帝】と呼ばれている。
いつもなら【炎帝】のワガママと諦観して、彼の気が変わるまでその思いつきに付き合う所だが今回は思いつきで済ませられる内容ではなかった。
【天宮】の【正殿】────────────【天帝】との謁見や政治を行う広間────────────に招喚された者たちは、【炎帝】の父親でニ代前の【天帝・昊天上帝】の治世から仕える古参の【官吏】と【炎帝】の姉で先代の【天帝・玉皇大帝(現・玉皇太子)】の治世から参入した【官吏】とが混じっているので、【炎帝】の発言を黙して聞いているだけの者たちや発言を聞くなり剣呑な雰囲気を醸し出している者たちと、反応が分かれていた。
そこへ、ちょっといいかな、と挙手する者がある。
一同の視線は、挙手した者に集中しその者が言葉を紡ぐのを待つ。
太上老君「あのさあ、急に呼び出して言うことがソレ?私………1日、24時間の睡眠取らないと調子が悪くなるんだけど」
1日は24時間なので、それは丸々1日寝てるだけと言っているようなものだが誰もツッコまない。更に【天帝】相手にタメ口をきいていることに対しても咎める者はない。【太上老君】と呼称される彼(彼女)は【先々代天帝】の【昊天上帝】から【道徳天尊】の【仙号】を賜った【三清道祖】の1人で、立場的に【炎帝】より格上の存在だ。故にタメ口は不敬にならない。
霊宝天尊「【老子】………君、相変わらず怠惰に過ごしてるね」
【太上老君】の発言で、少し場が和らいで同じく【三清道祖】の【霊宝天尊】が世間話をするように場を和ませた。
2人の会話がきっかけとなり、【炎帝】へ先の発言を考え直すよう諌める声がチラホラ出てきた。
最初に口火を切ったのは【
祥「【シン】よ、あまり軽はずみを言うな。【
【崑崙山】は【
しかし【崑崙山】の【頭領】は【三清道祖】の【元始天尊(玉皇太子)】で【蓬莱山】の【頭領】は【道徳天尊(太上老君)】だ。2人とも【仙派】の管理を勝手に代理人に任命した【西王母】、【東王夫君】へ丸投げしている。
【仙派】の【頭領】は【三清道祖】が務めるので、当然残る1人の【三清道祖・霊宝天尊】も【仙派】がある。彼は先の2人と違い、【昊天上帝】から賜った【
そして【神竜・祥】は、【先代竜王】で現在は嫡男の【東海青竜王
その態度の悪さに【神竜・祥】の【正妃】で【鳳凰族族長】の【
ここまで黙っていた【玉皇太子】が、おもむろに口を開いた。
玉皇太子「【シン】よ、お前は【楊戩】を逆賊と言うが、何をもってしてそう言うのだ?」
【玉皇太子】は【先代天帝】であり、【炎帝】の姉だ。【先々代天帝】の【昊天上帝】が『【神農(炎帝)】が成人後は【天帝】に即位させよ』と遺言したのでそれに従ったが、未だに【玉皇太子】に再度即位を求める声が多く【三清道祖】の1人【元始天尊】の【仙号】を【父・昊天上帝】から賜った実績があるので、彼女の【天界】での人望は厚い。
正直、【炎帝】の【楊戩】を断罪する発言が荒唐無稽過ぎて誰もついていけなかった。
【人間界】では【帝】は【国主】で【帝】が【黒】と断言すれば【白】を【黒】に塗りつぶして肯定するしかないが、【天界】は【人間界】とは勝手が違う。
【天界】は【神仙】や【霊獣】、【幻獣】のいる【不老長寿】や【不老不死】の【長命種】、【不死者】が住まう【世界】なので【世界】を【創世】した【三清道祖】や【生物】を【創造】した【創造神】など【天帝】より格上の存在がいる。【天帝】の【
炎帝「【
今の言葉を聞いて予想すると、【炎帝】が【楊戩】に献上品を要求してそれを拒まれたという話のようだ。
太上老君「【神農(炎帝)】、誕生日?」
献上と聞いたら、だいたい何かの記念日だと考えるので【太上老君】は生誕記念日と考えた。
【炎帝】は全然違う、と苛立ちながら否定する。彼は【天帝】である自分より上の立場の【太上老君】が気に食わないようで、その口調にはトゲがある。
南海紅竜王「【老子】、【
もっともらしい意見を【紅竜王】は口にしたが、全くの見当違いである。彼女はわかっていて
【天帝】の【妃】は【竜王一族】から嫁がせるのは、しきたりなので【天帝】側にも【竜王一族】側にも拒否権がない。
そもそも【炎帝】は【竜吉公主】に懸想していないので、この話自体が【紅竜王】のでっち上げた虚言だ。彼女は、【炎帝】のワガママで自己中心的で唯我独尊な性格を周囲に周知させて【炎帝】への評価を貶したいだけなのだ。
通常なら誰もが【紅竜王】の虚言を半信半疑で聞き流すが、今回は【炎帝】が【楊戩】の断罪を口にしたタイミングなので実しやかな話に受け取られた。
太上老君「『他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる』って言うよ。仮に【竜吉】が結婚していなくても彼女は【東王夫君】を父君に【西王母】を母君とする【神仙純血種】。【側妃】になど侮辱に値する」
【太上老君】は、【紅竜王】のガセネタをガチで信用して【竜吉公主】は娶るなら【正妃】でなければならない【女仙】であることを説明する。
炎帝「ええい、やかましい!貴様は口を開けば説教ばかり言いおって!これだから
ブチ切れた【炎帝】は普段から押し込めている本音をまくし立てた。
『年寄り』呼ばわりされた【太上老君】は特に気に障った様子もなく平然としている。確かに彼(彼女)は1万年前後は生きている。これは年の功ゆえの余裕なのか事実を否定する気がないのかはわからないが、逆鱗に触れるワードではないようだ。
しかし、年齢の話は本人より周りのほうが気を遣っていた。【太上老君】は性別のない【
白竜王「姉上、【
【四海竜王】の1人で【紅竜王】の弟である【白竜王】は、俺は一部始終を見聞きしていたと発言した。
白竜王「【炎帝】は、【
前半部分で【楊戩】を断罪しようとしている動機が判明した。後半部分は【白竜王】の私情だが、賛同する者は多い。
【紅雀】というのは名付け済の名前で、【神獣】の名前は【
そして、その【紅雀】と【楊戩】の【
太上老君「【炎帝】………キミは『他人のものが欲しくなる病』に罹っているのかい?【紅雀】は、【楊戩】が【人間界】で修行をしていた頃の
これに関しては【太上老君】が関わっているので、彼(彼女)の道徳的で他者を思いやった善行だと満足している行為だった。
【太上老君】は弟子の1人の【
【伏羲】は【霊獣】や【幻獣】を【創造】する【創造神】なので、【人間】の【
生まれたての【雛】だった【鸞鳥】は【鳳凰族】で育てられた。【雛】の【鸞鳥】の育成を見ていた【鳳凰族族長】の【迦楼羅】は歌声が美しい【鸞鳥】をすっかり気に入ったので、【楊戩】へ贈呈する予定の【鸞鳥(名付け前の紅雀)】とは別に【鳳凰族】で【鸞鳥】が産まれるように【伏羲】は【鸞鳥の卵】を創造した。以後、【鳳凰族】では【鸞鳥】が産まれるようになる。小ぶりな【鸞鳥】は美しい歌声と愛らしい姿で【鳳凰族】では大人気の【
白竜王「『他人のものが欲しくなる病』………コイツは傑作だ。さすが【老子】!【炎帝】は【
いい機会なのでここぞとばかりに【白竜王】は【炎帝】の悪事を暴露する。
太上老君「えっ!【黒曜】って、【伏羲】が特別注文されて創造した【
【太上老君】は、友人の【神竜・祥】が息子の成人祝いにと彼の双子の子【白竜王】と【黒竜王】の為に【伏羲】に特別注文で【霊獣】の創造を依頼したことを知っている。
【霊獣】の中でも突出した【異能力】を持つ者は【瑞獣】と呼ばれる。実は【創造神・伏羲】が使役する者に合わせて特別仕様で創造する【霊獣】が【瑞獣】なのであった。
【神竜・祥】の依頼で【伏羲】が創造した【瑞獣】は【
【太上老君】は、見た目の特徴で【角瑞】が【黒曜】と名付けられたと予想して訊いただけだったが的中していたようだ。【白竜王】は無言だったが頷いて肯定した。
【白竜王】は【人間】の言葉を理解するが故に気難しい気性で知られる【角瑞】が、【黒竜王】には懐いていて【黒竜王】の兄弟である【白竜王】とも少しずつ打ち解けて友好を温めつつあった所に【炎帝】の横槍が入ったと激オコなのだ。
太上老君「重症だね。【太元(玉皇太子)】、弟くんは【典医】に診せて少し休暇をあげてはどうかな」
霊宝天尊「【炎帝】に休暇を取ってもらうのは賛成だ。即位してから忙しくて休む間もなかっただろうからね」
【太上老君】はガチで『他人のものを欲しがる病』と考えていたが、【霊宝天尊】は遠回しに【炎帝】は『仕事を増やして忙しくさせる』と言っていたのだ。一見、社交性のある好青年風の【霊宝天尊】だが【三清道祖】の1人だけあって中々のクセモノだった。
【炎帝】は、【太上老君】と【霊宝天尊】の言葉を『無能は引っ込め』と言われたと彼には珍しく頭が冴えていた。そして頭の冴えに比例して頭に血を上らせて、公式の場であることを忘れて決定的な決別の言葉を口にしてしまった。
炎帝「【道徳】、【霊宝】、貴様ら2人は出禁だ!二度とこの【天宮】へ足を踏み入れることを許さん!今すぐ出て行け!」
愚弟の短絡的で愚かな言動に【玉皇太子】は片手で顔を覆って天を仰いだ。【道徳天尊(太上老君)】と【霊宝天尊】との決別は最も悪手であった。
◆ ◆ ◆
【三清道祖】の【道徳天尊(太上老君)】と【霊宝天尊】の【天宮】への出入り禁止騒動があった【天宮】は、もう一騒動起こった。
【炎帝】の【
【陛下】発言してよろしいでしょうか、と挙手したのは【
【天宮】の【正殿】は政治の場なので、【公女】が出席することは珍しい。禁止されていないが【公女】は嫁いで行く娘なので公務を覚えさせても【家】を去るので合理的ではないのだ。
炎帝「【汎梨】………そなた居たのか」
【炎帝】は、婚約者の【汎梨】の存在に今頃気づいたようだ。
【紅竜王】と【白竜王】が剣呑な雰囲気を滲み出している。【青竜王】が【紅竜王】を【黒竜王】が【白竜王】をなだめて押し止めていることで暴力沙汰になっていないが、【紅竜王】と【白竜王】はいつでも殴りかかれる態勢だ。【側妃】の異母妹だが、【汎梨】は【四海竜王兄弟】にとって宝のような大事な存在なのである。
汎梨「お父様にお願いして、同席させてもらったのです」
【汎梨】は、最低限の言葉でこの場にいる経緯を述べる。
それに対して【炎帝】は登城、苦労だったと一言だけで先の【汎梨】の発言と併せて非常に冷めきった会話だった。
【炎帝】は【人間】の年齢で18〜20才、【汎梨】は【人間】の年齢で16〜17才くらいで、【汎梨】の成人を待って祝言を控えた婚約期間中のラブラブカップルなはずのお年頃だが、両者の空気は白けた空気に溝のある距離感だった。
汎梨「【陛下】、話を終わらせないでください。私から【陛下】へお願いがあるのです」
労いの言葉で【汎梨】との会話を完結した【炎帝】に食い下がる【汎梨】に【炎帝】は心底面倒くさいと言いたげな億劫な表情を隠そうともしない。
異母妹に対する態度の悪さに【紅竜王】がガツンと一言と口を開く前に【汎梨】の口からガツンと一言が出た。
汎梨「【陛下】、私との婚約を破棄してください。お願いします」
【天界】では婚約の破棄はあり得ない。婚約は【種族】と【種族】の結びつきなので、これを解消したり破棄したりすると【戦】になる。
ましてや【竜王一族】と【天帝一族】の婚姻は【天界】のしきたりなので、前代未聞の一大事だった。
『婚約破棄』でさえ【天界】では斬新なことなのに、【竜王一族】の【公女】のほうから【天帝一族】の【天帝陛下】を拒絶するのは更に斬新さの最先端を行く。
一同は【神竜・祥】を見ると、彼はこのことを知っていたようで平然どころかオモシロいことが始まったと言いたげなワクワクした表情をしている。
青竜王「父上、ご存知だったのですか」
生真面目な性格の長男は、咎めるような口調で言及する。
祥「知っていたとも!しかし、予定とは違うな。後で【シン】を尋ねて『三行半突きつける』と聞いていた」
【竜王・祥】は、【汎梨】に予定変更かとマイペースを崩さない聞き方をする。
汎梨「先ほど【陛下】は、公式に【道徳天尊様】と【霊宝天尊様】を
黒竜王「なるほど!これだけの人数、口封じするのは難しい。それに、政治を動かす者たちばかりだ。始末するなんて短絡的なことは
【黒竜王】は否定形で言葉を紡いでいるが、要するに『返り討ちされるぞ。そんなことをすれば【天帝】更迭だ』と暗に告げている。
紅竜王「ハッハッハッ!よく言った【汎梨】!婚約者がいながら浮気するような不誠実な男など捨ててしまえ!」
ドサクサに紛れて【紅竜王】は知る人ぞ知る【炎帝】の恋愛事情を暴露した。
白竜王「姉上、一族の恥まで暴露してるよ」
【白竜王】の口ぶりから【竜王一族】は知っていることのようだ。しかも浮気相手は【汎梨】ではない【竜王一族】の者のようだ。
【汎梨】の婚約破棄宣言で、【竜王一族】と【天帝一族】が決別してしまうかに思えたが浮気相手が【竜王一族】ならば、決別の心配はないと一同は安堵した。しかし愉快そうに笑っている【神竜・祥】から圧が醸し出されているので、浮気相手について怖くて誰も追求できない。
汎梨「【陛下】、これだけの
【汎梨】は、否は認めない今すぐ応の返答をしろと言わんばかりに急かす。
白竜王「【シン】、腹決めろよ。浮気するが【汎梨】も娶る………なんて都合よすぎるだろ」
ここぞとばかりに【白竜王】が追い詰める言葉を吐くのに【炎帝】は忌々しげに、奥歯を噛み締める。
これが【人間界】なら、男性の婚約破談より女性の婚約破談のほうが痛手だが、【天界】は性別より【種族】のチカラ関係に影響が出る。【竜王一族】は公的に傷物公女がいる一族と知られてしまった。そして【天帝一族】は婚約者に三行半された【天帝】を輩出した。しかし【竜王・祥】はオモシロがって余裕の態度だったので【竜王一族】には、あまり痛手ではないようだ。
【汎梨公女】の生い立ちは、普通の公女とは違う。彼女は【天帝妃】にする為に【神竜・祥】が
産まれた時から『未来の天帝妃』と洗脳されるような育ち方をした歴代の【竜公女】は従順で、自らの意思を持たない人形のようだったが【汎梨】は良い意味で【竜王一族】を裏切る成長をした。
汎梨「婚約破棄が成れば、私は【人間界】へ
【汎梨】は婚約破棄後は、【天界】の【種族】には嫁がず【人間界】へ嫁に行くと宣言した。
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