【終】第5話 四季の騎士
ウルス騎士団長が、春の騎士、夏の騎士、冬の騎士に褒賞を渡すと、最後に『秋の騎士』の俺を呼んだ。
「グランツ前へ!」
「はっ!」
俺は、千人近い仲間の騎士たちが見守る中、なんとか壇に上がり騎士団長の前で深く
すると、俺の目の前に騎士団長とは別の人影が現れた。
騎士が履く丈夫な
(まさか、主君、辺境伯様が直々に来てくださったのか!?)
はやる気持ちを抑えながら、俺は言葉を待つ。
「そなたを今年の『秋の騎士』として、栄誉を称える。長きにわたり誰よりも魔獣を倒し、多くの仲間の命を救い、私の民を守ってくれたことに感謝する」
頭にイチョウを模した金色の冠を与えられたのを感じ、俺は顔を上げる。
「主君……」
そこには、主君であるアイスヴェルク辺境伯様がいた。
「何を驚く? 私もそなたに命を救われたものの一人だ。そなたの退団を惜しんでいるのは何も騎士ばかりではあるまい」
「ありがたきお言葉にございます」
「うむ。そなたの再就職先も私がいくつか考えているから安心するといい」
主君の言葉に、報奨金を渡され厄介払いされるものだと思っていた俺は、一介の騎士の自分を目にかけてくれていたことに、驚くと同時に胸が熱くなった。
目を潤ませる俺に、ウルス騎士団長が父親のように優しく声をかける。
「グランツ、主君の言葉は騎士団の総意だ。皆お前に感謝をしている。なぜ、お前が秋の騎士を嫌がっているのを知っていたのに、私たちがお前に『秋の騎士』を受け取ってもらいたかったか分かるか?」
「……いいえ。退団するからだけではないのですか?」
「ああ、春、夏、冬の三つの騎士を授与された者の中に、定年や退団で秋の騎士を受け取ったものはいない。なぜだか分かるか?」
「それは、前線で亡くなることが多いから……」
そう、殉職した者は退団ではないから『秋の騎士』にはなれない。
今まで四季の騎士をすべて授与されたものはいないと聞く。
「そうだ。お前のように強い騎士は、前線で死ぬことが多い。だから秋の騎士を受け取れない。しかし、グランツ。お前は助かった。それは素晴らしいことなんだ」
騎士団長は、今まで失われた騎士を思い出したのか少し言葉に詰まりながら続けた。
俺に、どうしてもこれだけは伝えたいという意思を感じた。
「真の『秋の騎士』は、命を多く守った騎士に与えられる賞だ。長く勤めたものに贈られていたのはそういう意味からだったが、いつの間にか退団するものに与えられるものと勘違いされてしまっていたな。
だが、命を多く守ったものに贈られる賞ならば、お前が受け取るのが一番ふさわしい」
その言葉を聞いて、俺は涙をこらえきれなかった。
誰かにずっと、そう言って欲しかった。
(俺の努力も怪我も無駄ではない。誰かの命のために役にたったんだ……。それだけですべてが報われた気がする)
春夏秋冬のすべての四季の騎士を受け取り、俺は今日、退団する。
俺は、今日まで『秋の騎士』の称号は自分には不要だと思っていた。
むしろ、最前線で戦う最強の騎士が受け取ってはいけない不名誉なものだとすら思っていた。
しかし、それは違っていた。
――― 生きて帰ること。
それが、どんな騎士にも期待される大切なことだと知った。
仲間を生かして帰ることばかり考え、自分自身が生きて帰ることなど省みたことはなかった。
(そうか、俺にも生きて帰ることを期待してくれていた、こんなにも多くの
もう、生き延びたことを恥じる気持ちは微塵もない。
俺は、自分の命を懸けて仲間や民を守った。
それは、俺が去っても秋の実りのように引き継がれ、誰かを守る糧になってくれるだろう。
「生きて『四季の騎士』になってくれてありがとう。銀閃のグランツ。お前は、俺たちの希望で誇りだ」
「騎士団長……。ウルスさん、俺を拾ってくれてありがとうございました!」
俺は涙を手でぬぐう。
そして、頭に秋の冠を戴き黄金色のマントを翻し、仲間が掲げる長い長い剣の
それは、日の光に照らされキラキラとまぶしいほどに輝いている。
「グランツ先輩の剣術を俺も受け継ぎます!」
「銀閃、おつかれさん。今度はゆっくり飲もうや」
「グランツに助けられた命だ。俺もお前のように命を救い続けるよ」
仲間たちの熱い声援に、俺はまた不覚にも涙腺が緩むが絶対にそんな姿は見せたくない。
俺は胸を張り、仲間たち一人一人の顔を見ながら誇らしい気持ちでゆっくりゆっくりと歩みを進める。
今日、俺はアイスヴェルク騎士団を去る。
『秋の騎士』として。
🍁 お わ り 🍁
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【短編】秋の騎士として去る 天城らん @amagi_ran
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