第3話 うずく左足


 身寄りのない平民の子供だった俺を『将来大きくなりそうだ。騎士にはぴったりだな』と拾って従騎士エクスワイヤにしてくれたのは、当時まだ大隊長だった今のウルス騎士団長だ。


 その期待に応えるべく努力を重ねた。

 俺は学がなく、頭を使うことは苦手だったがウルス団長が見込んだ通り恵まれた体躯に成長した。

 騎士団の中でも大柄で、剣術も鍛錬すればするほど上達し面白かったこともあり、剣術にのめり込んだ。

 魔物討伐も始めは怖かったが、人に頼られ功績が認められることが誇らしく、何より誰かの役に立っているということがうれしかった。

 捨てられたのか死別したのか、俺は親の顔など覚えてはいなかったが騎士団長を親のように思っていたし、騎士団の仲間たちは兄弟のように感じていた。


(家族のように思っている騎士団のみんなの役に立つためならば、俺は命を捨てる覚悟はできている)


 騎士団長に預けた形式的な遺書とは別に、自室の引き出しには何年も前から仲間家族に宛てた遺書が入っていた。

 だから、いつだって先陣を切る一番槍も、最終防衛の殿しんがりも怖くはなかった。

 


 実際、そうして最前線で戦い続けた俺は騎士団の中でも一番の腕前だといえる。

 数少ない、剣に剣気オーラまとわすことができるソードマスターにもなった。

 

 論功行賞では、俺は過去に春夏冬しゅんかとうの三季節の騎士には選ばれている。

 

『春の騎士』は、頭角を表した入団三年以内の騎士に贈られる賞だ。

 俺は、従騎士から晴れて騎士に昇格した年に入団三年以内の騎士の中で魔獣を一番仕留めたという功績でもらっている。


『夏の騎士』は、新人だけでなく騎士団内で魔獣の討伐数が一番多い者に贈られる。

 俺は、過去にこれを3回受賞している。

 現役の騎士の中では、俺だけだ。


『冬の騎士』は、剣技が冴えている者が選ばれる。

 騎士団内の武術大会の優勝者や剣気オーラが使えるソードマスターになった者だ。


 分かる通り、夏と冬が騎士団の中でも花形であり、俺は自身が従騎士だった幼い頃から憧れだった『冬の騎士』にも選ばれ、騎士団生活は充実していた。

 

 四季の騎士に合計で5度も選ばれた者は、現役では俺を置いて他にはいない。


 それらの季節の騎士と、別格として扱われるのが『秋の騎士』だ。

 秋の騎士は、あまり人気がない。

 それもそのはずで、年配の騎士の勇退記念のための賞のようなものだからだ。

 正直、第一線で戦う騎士の寿命は短い。

 体力的なこともあるが、魔獣討伐中に命を落とす者も少なくないからだ。

 だから、優秀な騎士ほど、秋の騎士には選ばれない。

 殉職者は、勇退できないから当たり前だ。

 秋の騎士は、後方支援の騎士が定年退職するときや、まれに騎士団長が退職するときに与えられる。


「なのに、なんだって寄りにもよって俺に『秋の騎士』になれっていうんだ……!」 


 俺は、壁を拳で叩き大きなため息を吐いた。


 自分で言うのもなんだが夏の騎士を3回受賞という名誉を得て、騎士団の中では最強の騎士と慕われている。


銀閃ぎんせん』のという二つ名もある。


 俺の銀髪と剣筋の速さを讃えてのことらしい。

 それが俺には誇らしかった。

 名前はどんな親かもわからない親がつけたものだったが、二つ名は騎士団のみんながつけてくれたものだからだ。


 身寄りのない俺は、騎士団の団員を家族だと思い、騎士団宿舎を家だと思いながら十五年近く生活し、もうすぐ三十路に近い。

 魔獣と対峙していつか、その戦いの中で命を落とすのは覚悟の上だ。


 だから、ここがつい棲家すみかだと決めていた。


 なのに、大怪我をして生き延び、年寄りが勇退するときにもらう『秋の騎士』を受賞する。


(不名誉で情けない。秋の騎士になんて、なりたくない……)


「くそっ、やってられるか!」


 俺は、拳だけでなく足でも壁を蹴りたくなったが、そう思っただけで怪我をした左足がずくんと痛み。

 情けない気持ちでさするしかなかった。


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