第2話 3カ月前のできごと
黒い森に隣接する北部辺境伯領には、魔物と戦う優秀な騎士団がある。
アイスヴァント騎士団。
領内を守る永久凍土の氷壁という意味を持つ。
千名近くいる騎士達は、黒い森からあらわれる魔物を討伐するのが主な役割だ。
危険な仕事の為、命を落とす者も少なくない。
俺は、その騎士団に所属する騎士だ。
隊長職を賜っているが、そういう器ではない。
俺は魔物を斬るだけしか能がないし、剣技を磨くことにしか興味もない。
そういう意味では、騎士としての腕は立つが、人の上に立つのは苦手でこれ以上の昇進はまったくもって臨んでいない。
もうすぐ二十代も終わろうとしている。
数年後には団長職にとも推されているが、絶対に受けるつもりはない。
俺は、戦場で生き、戦場で死ぬと覚悟しているし、その生き方以外に考えたこともないからだ。
そんな俺は3か月ほど前、魔獣討伐の際に大怪我を負い生死の境をさまよった。
いつも通りの定期的な魔獣狩りだったはずなのに突然、変種の狂暴な魔獣に襲われた。
双頭のマンティコアだった。
赤黒い獅子の体に鬼のような顔を持つその魔獣は、平民の家ほどの大きさがあるように見えた。
尾に毒針を持つやっかいな魔獣だ。
俺が率いる第一隊と行動も共にしていた第三隊は、横から襲われ負傷者が続出し、退却にひどく時間がかかることが目に見えていた。
(毒で動けない者もいるな……。誰かが犠牲になり
すぐにそう思ったが、俺は誰かを選ぶことはできなかった。
誰も信用していないということではない。
どう考えても、俺がその二隊を合わせても一番強い騎士だったからだ。
(残って、最後尾の戦線を維持して時間を稼ぐのは俺にしかできない。さすがに今回は死ぬかもしれないな……。まあいい。その覚悟は何年も前にしている)
俺は、副長に隊を預け撤退の指示を出す。
「ここは、俺にまかせて全員退避しろ! 死んだら許さないぞ!」
そこに俺は含まれてはいないが、それでいい。
元からそのつもりだ。
「グランツ隊長! 援軍を連れて必ず戻ります!」
副長のヨハンが目を潤ませて、そう告げたのを俺は背中で聞いた。
結局、俺は長い攻防の末マンティコアと相打ちになってて倒れていたところを、戻った援軍に助けられた。
ただ、出血が多く命を取り留めはしたもののしばらく意識不明で生死の境をさまよった。
特に足は複雑に折れ曲がり、その後遺症で三カ月たった今でも左足を引きずっていた。
(切断するかも知れないところ、なんとかつながっただけでもありがたく思わなければならないんだろうが……)
俺は以前のように走ることも飛ぶこともできない。
それどころか、歩くときすら足を引きずっている。
第一線どころか、それ以外の騎士団のどの場所でも足手まといになってしまった。
(こんな戦えない体になるくらいなら、あの場でみんなを守って死んだ方がましだった!)
そう叫びたいときが何度もあったが、俺は拳を握りしめ堪えた。
俺が死なないように必死で看病してくれた仲間や、生還を我がことのように喜んでくれた騎士団長の手前、そんなことを言うことはできなかった。
体が不自由になり、退団を余儀なくされたのは俺の責任だ。
十四歳から十五年近く過ごした、この家族のような騎士団から去るのは、すべて力不足だった俺自身の責任だ。
怒りも悔しさもあるが、誰にあたることもできずに、俺は絶対になりたくないと思っていた『秋の騎士』に選ばれ退団するこが決まった。
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