示される道

 静かに風が吹き抜ける。エルクリッドは深呼吸をして改めてバエルが話した事を整理し、少しずつ受け入れ記憶に刻み込む。


 これでメティオ機関の事はおおよそわかった、あの日起きた事やそうせざるを得ない理由も、また。

 そしてバエルというリスナーの苦悩と希望を信じた事も、こうして彼を撃破し話を聞く事で彼が背負っていたものを軽くしてやれたと。


「ありがとう、話してくれて。あたしも、これでスッキリした」


 そう言ってエルクリッドは前へ進みバエルの隣に立って慰霊碑に目を向ける。悲願達成まで鎮魂の祈りをするのをせずにいた、いや、無力すぎた自分や自分のせいで招いた災禍と負い目があって避けていた。


 だが今は生きる事を強く慰霊碑へと誓う。託されたものがある、繋げられた生命がある、それが自分ができる事と。

 静かに風が吹き抜けた時、バエルがエルクリッドの方に身体を向けそれに合わせて二人は向かい合う。


「あなたは、これからどうするの? 一応シェダが戦う資格を持ってるけど……その……」


熒惑けいこくのリスナーでいるのに代わりはない、星彩の儀が終われば辞めるつもりだったが……お前を倒す理由ができたからにはまだ辞めるわけにはいかない」


 ふっと笑いながら語るバエルは爽やかでありながら先の戦いを望み、追われる者から追う者へなった事で何処か肩の荷が降りたようにも見えた。

 もちろん、彼なりのエルクリッドへの返答、ひいては背負うべきものに対する答えという側面もあるのだろう。十二星召らと同じようにこの世界において己の役目を果たすのだと。


「シェダ・レンベルトとの戦いは万全な状態に戻ってから行う、だがアセス全てを戦闘不能とされた以上少々時間はかかるが、な」


 アセス十体との契約とそれを維持するだけの魔力を有するとはいえ、それらを一度崩されれば立て直す時間もかかるのは必然だ。

 ひとまずシェダの心配が消えた事でエルクリッドも改めて次の道へ、星彩の儀式の第二段階について問う。


「それで、あたしはあなたと戦い終えたわけだけど……次はどうすればいいの?」


 十二星召に勝利することや神獣を得てバエルへ挑むまではいわば第一段階、そこまでは事前の説明はあれどその後は情報がない。試練を達成したエルクリッドもそれに触れると、バエルも素直に次の道を示す。


「五曜のリスナーとして認められるかどうかは、まだ戦っていない残りの十二星召と相対し力を示した上で決まる。俺との戦いを含め勝利は絶対条件ではなく、相応の実力があるかを見定めるもの……今の所その段階にいけたのはお前で二人目か」


 ふと、エルクリッドは自分が二人目という言葉に眉をひそめる。自分より前に既に誰かバエルに挑んだ者がいたのかと思うと、まだ見ぬ実力者がいるかと。

 だがすぐに心当たりに行き着き、その名をエルクリッドは口に出す。


「ユピア・トゥルー……」


 静かにバエルが頷く。真白のドラゴン・クーレニアのみをアセスとし、出自不明ながらも確かな実力を持つリスナー・ユピア。

 彼ならば確かに自分より先に挑んでいても不思議ではないと思いつつも、エルクリッドは戦いの結果が気になりバエルに訊ねようとするとその前に彼から詳細が語られる。


「勝負そのものは数的な優位もあって俺が勝った。だがあの実力は確かなものというのも間違いなく、五曜のリスナーに名を連ねても不思議ではないが……」


「何か問題があるの?」


 ふとバエルが言葉を止めてそっぽを向き沈黙し、エルクリッドがすぐに訊ねるも彼は答えなかった。

 しばらく黙っていたが我慢しきれずエルクリッドが前に出ながら口を開きかけると、問題というほどではないとバエルが口にし、改めてエルクリッドの方に目を向け静かに言葉を続ける。


「あの男については俺もはっきりとはしない、何が目的で何を目指してるのか……少なくともそれを明らかにするのは俺の役目ではないのは確かだ」


 以前ユピアと相対した事をエルクリッドは話を聞きながら思い返す。彼はエルクリッドと戦う為に来たと言い、それが何者からか与えられた使命と言っていた。


 バエルは心当たりがある様子ではあったが確証がないのか、あるいは別の理由があって明言を避けてるように見え、それは自分で確かめるより他はないとエルクリッドは確信する。


(もしあたしが目的なら、いずれまた会う事になる……その時に、わかるのかもしれない)


 少し俯いてエルクリッドが考えをまとめ顔を上げたその時、不意にバエルがカード入れからカードを抜いて投げ渡し、慌ててエルクリッドは受け取りカードを確認し目を見開く。


「これってウラナ……!? ちょっと、あたしまだ……」


「お前は俺に勝った、それだけで俺が制したウラナを持つに値する。それにそのカードは俺が持っていても仕方のないものだ、好きにしろ」


 驚くエルクリッドを尻目にバエルは自分の意見を伝えて背を向け上衣に袖を通し、火竜の星座を画く背を見せて歩いていく。

 それを呼び止めようとすると何かを思い出したようにバエルが振り返り、エルクリッドへさらに道を示す。


「残る十二星召は四人だったな、それもリデルに至った二人と、国崩しの大罪人、それに匹敵する者……誰から挑むにしろ、仲間と共に挑むにしろ、覚悟していけ」


「言われなくたって、そのつもり! 今度あなたとやる時までに、あたし達はもっと強くなるから!」


 去り行くバエルへ拳を突き出しながら快活にエルクリッドは言い放ち、それに対しバエルも口元に小さく笑みを浮かべつつ軽く手を上げ返す。


 残りの十二星召が屈指の実力者揃いというのはエルクリッドもよくわかっている、同時に何かを目的としているユピアの存在も無視できない。

 そして、今回は勝てはしたがバエルも力をつけ再び相対するのだろうと。


(あたし、強くなる。その先に行ってまた……!)


(エルクリッド・アリスター、極限まで強くなるがいい。このバエルも相応の力を身に着け相手をするその日まで……!)


 言葉は交わさずとも心で再戦を誓い二人は別れた。一つの終わり、新たな旅路、相対するいつかを願いながら。

 

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