答えを聴くーEndー
仮面砕けて
孤高であるから振り返らない。
孤高とされるから前にしか進めない。
誰一人としてそれはわからない。
誰一人としてわかろうとしない。
苦痛、慟哭、無念、憤怒、混濁たる感情の行き場はなくただひたすら進むしかなかった。
終わって良かった、そんな時に、出会ってしまった。
ーー
真夜中の天幕の中でエルクリッドが目を覚まし、隣で眠るノヴァを見て微笑みながら自分にかけられていた掛布をかけてやってから上体を起こし、直後に走るような激痛に苦悶し声を出しかけるもぐっとこらえた。
(無理をするなエルク、今は休め)
(ヒレイ……うん、そう、だね。あ、バエルは?)
(タラゼドがついてるから心配はないだろう)
激闘を終えたヒレイが心の中から語りかけ、安堵しつつ再びエルクリッドは横たわって目を瞑る。
少しずつ実感する勝利に喜びに満たされていく、心のわだかまりのようなものが消えて充実感へと変わっていく。
ようやく願いを叶え自信は確かなものとなり、そしてバエルとは異なる強さを得るというのもひとまずはできたと思える。あとはノヴァの願いを叶えてやること、彼女の模範として次の目標へと向かおうと考える。
(次、か……師匠とかに、勝たないとね……)
星彩の儀において十二星召との戦いはバエルに挑む為のいわば予選会のようなものだ。それを果たした今まだ戦っていない者達へ挑むのは余程の物好きしかおらず、特にエルクリッドの師でもあるクロスへの挑戦条件はバエルとの戦いを経てからでなければ満たせない事もあり、より高みへと行こうとしなければ挑むという択はない。
とはいえ、巻かれた包帯の量や癒え切れてない傷があると認識し、今は休むのが先決だとエルクリッドは思い眠りにつく。もうしばらくは勝利の余韻に浸り、噛み締めたいと思ったから。
ーー
焚き火の前で座って目を瞑るタラゼドが静かに目を開け、上衣を羽織り出てきたバエルの方へと振り向く。
仮面が砕け素顔を晒すバエルは言われる前に起きただけだと言ってタラゼドの向かいに座り、そうですかと返すタラゼドが薪をくべる。
しばらく沈黙が続くもタラゼドもバエルも自分から話す事はせず、ただただゆっくりと時が流れる。だがそれが二人の脳裏に在りし日を思い起こさせ、やがてバエルが静かに口を開いた。
「お前の役目はまだ終わらなさそうだな」
「えぇ、エルクリッドさんは十二星召全員の撃破を望んでいますからね。そして恐らくはあの場所にも」
エルクリッドの傍らで彼女を支え見守ること、それがタラゼドの役割というのはバエルも把握していた。
そしてタラゼドが口にしたあの場所という言葉に、バエルは夜空の星を見上げ一際輝く赤い星を見つめながら何かを思う。
「俺は高みへ到達しきれず、友を失った、仲間も、師も……それでも残ったものを信じて歩んで来た。だがそれでも、己を信じ切れるほど俺は強くはなかった……お前達の、クロスの言葉を受け入れられる程の、強さが」
「皆まで言わずともわかっています。でもだからといってあなたが弱いとは思いません、わたくしも、クロスも」
「わかっている、だからこそ、余計に古傷が痛んだ」
かつて同じようにその場所を目指し切磋琢磨する中で明暗が分かれた。それはほんの些細な差であったのかもしれない、逆だったとしても今と同じになったのかもわからないとバエルは理解し、タラゼドもまたそう思っていた。
静かに焚き火が弾け沈黙が再び二人を包み込む。古くから知る者同士多く語る必要はない、しかし、タラゼドは仮面を失い素顔を晒したままのバエルの姿に穏やかさを感じ、静かに微笑む。
(バエル……あなたにとって強くなる事は苦楽を共にした仲間達への弔いもあったのでしょう、己に対する罰として……でも今は、かつてクロスの言った生きる者が先立った者達の思いを繋いでくという事をわかっている、いえ、受け入れる為に繋がった存在が必要だった……)
かつての戦いも見守ったタラゼドはその時の光景を思い返しつつ、その時もバエルが仮面を砕かれ傷ついた身体で何処かへと去ったのを止められなかったのを振り返る。
当時のバエルが一人で考える時間が必要であったのも、受け入れる余裕がなかったのも間違いない。そして自分なりの答えとして、待ち望んでいたというのも。
エルクリッドという存在がその可能性を示した事でバエルの中で変化もあったのかもしれない、期待と、不安と、様々な思いもまた。呪縛のようなものから解き放たれた事でバエルが次に何を目指すのか、タラゼドは気にはなったがこの場では聞かず共に夜明けまでの時間を過ごすのだった。
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