死線を乗り越えて
幾度となく二体の火竜がぶつかり合い、その都度エルクリッドとバエルの身体にも傷がついて血が飛ぶ。
「スペル発動ドラゴンハート!」
両者共に同じスペルを発動し、同種族のヒレイとマーズが組み合いながら錐揉み回転で落下し地上激突寸前で離れすかさず炎を吐いてぶつけ合う。
巻き起こる爆風と熱量とがさらに戦場を燃やし、空の色も赤く染まる。
奇しくもそれはかつての初戦を思い起こさせる色合いであり、エルクリッドはそう思いながらも目の前の戦いに意識を集中させ己の全てを尽くす。
「天へ鳴り交わす祈りを捧げ、我望むは楼閣を穿つ衝撃……! スペル発動、ブレイクスルー!」
詠唱したエルクリッドがカードをマーズへと向け発動するのは衝撃波そのものを放つ攻撃スペル。向かってくるそれをマーズは手をかざし黒の炎の渦で防ぎ止めるが、直後に至近距離からヒレイが火炎弾を渦へ放ち爆裂させてマーズをのけぞらせた。
(さすがにあの威力を防ぐのは難しいか)
攻撃スペルの中でも無属性かつ、攻撃力が特に高いものを詠唱札解術を用いた上でヒレイが攻撃を加える事でマーズの防御を上回るのをバエルは冷静に分析しつつ、怒りを宿す眼と共に纏う黒炎の衣をより色濃くするマーズの思いに呼応しカードを切る。
「天焦がす憤怒が呼び起こすは災禍也、汝に為す術はなく破滅的破壊の前にひれ伏せろ……! スペルブレイク、ミーティオ!」
その名に戦慄が走った。刹那に天が裂けるように漆黒に染まり星が煌めき、やがて降り注ぐは燃え盛る流星群である。
避けようがない程に降り注ぐ星の雨に対してヒレイは避けるのをやめて薙ぎ払うように白き炎を吐いて破壊するも、すぐに次々と燃える星は降り注ぎエルクリッドもカードを切った。
「
赤い多角体の結界がヒレイを包み込み流星が命中して炸裂しても身を守れる状態になるも、勢いまでは防げずに地上へと追い落とされやがて一際大きな星が落ちて全てを飲み込み破壊し尽くす。
最大最強攻撃魔法ミーティオ、製造数はもちろん扱える魔法使い自体が史上稀に見るという伝説のカードをバエルは使い、爆風と熱の中でも微動だにせず前を見つめたままでいた。
「……ファイアブラインドか、なるほど」
風に流され晴れていく視界の中で見えた炎の膜を見てバエルはそう呟きふっと笑う。息を切らし汗と血を流しながらエルクリッドはファイアブラインドのカードを発動し、エルク・トゥ・ガードを破られ外骨格とミスリックアーマが砕かれたヒレイを何とか守り切っていた。
無論、致命傷を避けたというだけで深手には変わらず、片膝をついた状態から立ち上がろうとするもエルクリッドは倒れてしまう。だがすぐに手を強く握り締めながら起き上がり、ヒレイもまた翼を広げ高らかに咆哮し闘志を燃やす。
「あなたも、ミーティオをスペルブレイクで発動して余裕かましていられないんじゃないの? ま、
呼吸を調えながら不敵な笑みを浮かべ言い返すエルクリッドはカードを引き抜き、対するバエルはさぁなと返して同じようにカードを抜くがポロッと落としかけ、すぐに取り直すも疲労が見えていた。
無論、エルクリッドもそれは同じ、だがそれでも、初戦の時と比べ遥かに強くなった事やそこから今に至るまでに培ったものが実を結ぼうとしてる事を感じ、ヒレイと共にさらに闘志を燃やす。
ミーティオによって穴だらけとなった戦場の土煙が完全に晴れ、やがてヒレイとマーズの熱気で再び炎が静かに燃え広がる。やがて両リスナーがカードへ魔力を込めてその目を強く開くと共に二体の火竜が飛翔し、真っ向からぶつけ合って衝撃で落下し合う。
「スペル発動アースグレイブ!」
「スペル発動サンダーフォール!」
エルクリッドが発動するアースグレイブのスペルによりマーズの周囲から鋭い岩がいくつも生えてマーズを突き砕き、バエルのサンダーフォールにより雷電がヒレイを貫き身体を焼き尽くす。
その反射はエルクリッドとバエルにも襲いかかり互いによろけがくんと姿勢が崩れるが、すぐに足に力を入れて前へ一歩出ながら相手を捉えその瞳に闘志を灯した。
生半可な防御や拘束は力づくで解かれる、故に攻撃一択となるのは必然だった。そして相応に魔力を消耗し満身創痍となるのも、死線を超えた感覚が勝利への渇望を強めるのも。
「あの時のように勝利を望んだのは久方ぶりだ……! エルクリッド・アリスター、一人のリスナーとして全ての力をぶつけ打ち倒す、それが
「あたしも、あなたに勝つ……あたし達の全力をぶつけて、先に行くんだ!」
残る魔力を極限まで滾らせ二人が風を呼ぶ。決着の時は近い、双方のリスナーがカード入れに手をかけると同時に互いの火竜もまた炎を吐き、ぶつかり合って爆発させたのを皮切りに最後の戦いに挑む。
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