戦星に挑むーDuelー

準備確認

 赤き星は輝き続ける。


 戦星の下で赤き血が流れる。


 慟哭を引き裂き絶望すらも焼き尽くし、戦いの星はより輝きを増す。


 彼は頂に佇みながら何を待つ。


 彼は頂に到達し何を思う。


 赤き戦星を背負いながら空を見上げ、先立った者達へ何を願う。


 全ては戦いの中でしか語れない、語る事ができない、それしか知らぬ愚かな己を嘲笑う。



ーー

 

 窓から射し込む光が高くなりながら部屋を明るく照らす中で、エルクリッドは淡々と服を着替え、手袋をし、靴を履き、ゴーグルをつけた。

 そして一枚一枚のカードを確認してカード入れへとしまっていき、最後にアセスのカードを手に取りそっと撫でるように触ってから収めて蓋をして左腰に装着し鏡の前に立つ。


「カードよし、着替えよし、心構えもよし、うん、準備確認終わり!」


 鏡を見ながら指差し確認をし終え額につけるゴーグルの位置だけ少し直してエルクリッドは深呼吸をする。


 十二星召カラード率いる傘召桜さんしょうおの集落から離れ地の国の国境沿いの町リンマにエルクリッド達は滞在をしていた。これから挑む戦いの為に、その最後の準備をする為に。


(……いよいよ、か)


 胸に手を当てながらエルクリッドはこれまでの道を振り返る。自分が生まれた理由、存在した事で起きた事、出会い、別れ、戦い、傷つき、涙して、笑って、多くのものを経た。


 力はある、技術も、それらを扱う心も今はある。あとはそれが通じるかどうか、存分に示せるかどうか、そして、自分が歩んで求めた道は目指す場所に立つ者と異なるものとなったのか、それがわかる。


 これから挑むのは星彩の儀にて七つ以上の星を集めた者が挑むもの、唯一にして最後の五曜のリスナーであるバエルとの戦い。その時をずっとこいねがいながらも、三度戦いはしたが圧倒的すぎる彼には歯が立つことはなく、それでも追い続け日々研鑽を繰り返して来た。

 今なら同じ場所に立ち立ち向かえる、それだけの自負を持てるだけのものがある。そう思って深呼吸をし自身の鞄を持って部屋を出るとそのまま外へ飛び出し、ノヴァが待っている所へ合流を果たす。


「お待たせー……って、みんなは?」


「タラゼドさんはすぐ戻ると行って外してます。リオさんは定期連絡で、シェダさんはもう来るかなって思います」


 そっか、とノヴァに答えてエルクリッドは隣に並んでから息を吐き、肩の力を抜いて楽にする。

 その姿をじっと見つめるノヴァの視線に気づいてエルクリッドは目を向けながら微笑み、大丈夫と言ってから青空を見上げ流れる風に言葉を紡ぐ。


「やれる準備はしたから後は戦うだけ……ようやくって感じもするし緊張もある、でも、一人じゃないから大丈夫」


 自分を励まし憧れたノヴァがいて、その保護者を兼ねつつ見守り導いてくれたタラゼドがいて、切磋琢磨するシェダとリオという仲間が自分にはいるとエルクリッドは思う。

 無論、師であるクロス、戦いや出会いの中で様々な事を教えてくれた十二星召の面々や、敵対者として相対したネビュラ一派との戦いもまた確かな経験として活きている。そして、バエルというリスナーの事を出会いを繰り返す旅の中で改めて知り、多くの側面を理解できた。


 一人ではない事の意味を、ノヴァの模範となるリスナーとして相応しいのかはエルクリッド自身もわからないが、自分なりに精一杯やってきて、こうして共にいる事が答えと思うと安心できる。ノヴァもまた応えるように寄り添い、共に空を見上げる。


「僕も、エルクさんの戦いを見届けます。いつか……」


 ノヴァが言いかけた時に宿からシェダが来るのを感じてエルクリッドはそちらに意識を向けてノヴァも口を閉じ、ほぼ同じ時に戻って来たリオとタラゼドを見つめ仲間達が集まった。


「わりぃ待たせた」


「あたしもさっき出たばかりだから大丈夫、リオさんとタラゼドさんは用事終わったんですよね?」


「私の方は手間という程でもないので問題ありません、エルクリッドの……これからの戦いと比べれば尚の事」


 リオの言葉を受けエルクリッドの肩に再び力がこもる。だがすぐにまだ早いと思い直して力を抜き、そのやり取りを見ていたタラゼドもいつものように微笑みながらこれからについて話す。


「ではこれよりバエルの場所に向かいますが、準備はよろしいですか?」


「あたしは大丈夫です、ってタラゼドさんは何してたんです?」


「あなたの師匠でもあるクロスと軽くお話を、と言っても魔法での対話ですけどね。ありったけのもの全て出し尽くして来いと、伝言をもらいました」


 師からの言葉がエルクリッドの心を後押しする。より気が引き締まる思いとなり、自分の両頬を叩いて落ち着かせた。

 落ち着いた所で大きく深呼吸をし、ノヴァ、シェダ、リオ、タラゼドと順に目を合わせてから小さく頷く。


「みんな、ありがとう。あ、これで終わりじゃないってのはわかってるけど……みんなと旅して、色々感じたり思ったこと、一人じゃ絶対わからなかったものがあるから戦いの前にちゃんとお礼言いたくて」


 一人旅で得られるものもある、仲間と共に得られるものもまたある。バエルと対極の強さを求めたエルクリッドからすると、その構図となったのは間違いなく、そしていてくれた存在への思いは強くなる。


 礼を言われた事にノヴァは笑みで応え、シェダは少し顔を赤くしつつそっぽに向き、リオは頷きながら微笑む。

 四人のそのやり取りにタラゼドはかつての旅の仲間達と同じものを感じて目に込み上げるものをぐっと堪え、眉間を軽く摘んで気持ちを切り替え口を開く。


「お礼を言われる程ではありませんよ、わたくし達も気持ちは同じ……ですからね」


「そーっすね、俺も故郷の呪い解けたから後は次の目標見つけるキッカケ作りをやれてるし」


「私も任務を果たし終えて、一人のリスナーとしてどうありたいかを考え直す機会となりました、こちらこそお礼申し上げます」


 シェダとリオもそれぞれに思うものがありエルクリッドへの感謝がある、相互にそう思う事で生み出されるものが確かなものとなっているのは言うまでもなく、それは、これから先を目指すノヴァも同じだ。


「僕も、エルクさん達と一緒に色んな経験ができて良かったって思います! まだリスナーとしては至らぬ所ばかりですけどね」


「いいんだよ、これからゆっくり信頼できるアセスと会えればいいんだしね」


 エルクリッドに続いてシェダとリオも頷き、ノヴァも笑顔で応え話が一通り済んだと判断しタラゼドがではと一言口にし、エルクリッドもそれに合わせる形でカード入れから星彩の儀の参加証を引き抜く。


 十二星召の撃破、もしくは神獣の獲得を満たす事で一つずつ星が浮かび上がり七つ揃う事で形を成し星座を描き本来の姿となるという。

 ちかちかと光る参加証にエルクリッドが魔力を込めると絵柄が剥がれるように変化し、十の赤き星から成る火竜の星座のものへと変わった。


 そのカードにさらに魔力を込めるとバエルの存在感が伝わり、振り向く彼の姿が脳裏に浮かびエルクリッドは我に返って参加証を見つめ直す。


「あいつと戦う場所は、あそこしかない……そこで、今度こそ勝つ……!」


 火竜の星座の絵柄が再び七つの星に別の星が瞬くものとなり、エルクリッドは戦いの場を認識し顔を上げる。


 その場所の名を口にせずとも理解するタラゼドが転移魔法の魔法陣を展開し、すぐに一同と共にそこへ向かうのだった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る