着席戦争で負けるな!
百壁 一千翔(もへき いちか)
プロローグ
プロローグ
夢中になれるものが欲しかった。
自分には何もないから、余計にそう思ってしまう。
昔から俺は何事も続かなかった。幼少期からピアノ、英会話レッスン、水泳等の習い事を両親にさせてもらった。だが。どれも一年以内で止めてしまった。強いて言うならば、今は筋トレだけを日課にしている。
毎日、ブランジェ一〇〇回、立ちながらアブローラー一〇〇回、バックエクステンション位一〇〇回を毎日こなしている。お陰で、女子に裸を観られても恥ずかしいくらいには、鍛え上げられていると自負している。
俺は中学時代に喧嘩をして、相手がボロボロになるまで叩きのめして、病院送りにしてしまった。そして、やり過ぎた結果、少年院に出所する事になった。
先に向こうから言いがかりを付けてきて、暴力を駆使してきた為、正当防衛のつもりだった。
しかし、病院に搬送されるまで仕返しをしたのはマズかったらしく、俺は務める事になった。
そこでの生活環境も相まって、筋トレを日課にしていた。
それ以外、する事がなかったのだ。
後は、娯楽として本を読む事ができたので、読書も日課にしていた。
その少年院には、一般文芸が置いてあった。
何冊が読んで、何時の間にか、趣味になっていた。
数少ないが、ライトノベルも用意されていた。
そこから、更に読書が楽しめるようになった。
しかし、これらは――やる事がなくて、必然的に読書を趣味にしたのだ。
受動的であり、能動的ではなかった。
だから……心から熱中できるものとは違った。
だから、高校に進学できた際は、熱中できるものを探そうと決心した。
だが、少年院に入所していた事もあり、殆どの高校は門前払いされた。
加えて、少年院では勉強する機会がなかったので、とりわけ俺はバカだった。
偏差値で知能を表すと、三〇は下回っているかも知れない。
そんなバカな俺が、高校に進学する事ができるのか、無性に不安だった。
そんな時、両親は海外で留学しないかと提案してきた。
両親はスタントマンだったので、あちこち海外に飛び回っている。
その為、俺が幼少期の頃から、常に海外で活躍していた。
だから、夜は一人で過ごす事が多かった。
一人で食事をするのは、なかなか悲しかった。
実家暮らしだが、実質一人で生活する時間のほうが多かったので、そこそこ家事は出来る。
それなりに友達もいた方だったが、俺が少年院に入所してからは、全員と疎遠になった。
誰かに理解してほしかった。
つい、カッとなって、暴力に訴えてしまったが・・・・・・理由もなく相手を殴った訳ではない。
中学の同級生が虐められていて、その生徒を助ける為に、俺は拳を振るったのだ。
元々、俺は強者は弱者に対して、施しを与えるべきだと持論を唱える人物だ。
その為、弱い者虐め等は決して行ってはいけない。
――喧嘩というのは、対等の存在であるか、自分より格上に挑むから事に意味がある。
少なくとも、そう俺は思っている。
それを、少々やり過ぎてしまっただけの事だ。
そんな訳で、俺は強制的に孤立になってしまい、バカなので進学できるかも怪しかった。
しかし、スマホで大バカでも入れる高校を検索したら、一つだけヒットした。
私立、着郷学園(ちゃくきょうがくえん)。
何でも、日本の高校において最後の砦的な場所らしく、問題行動を起こした人や、偏差値が三〇以下でも入学できるとネットに記載されていた。
俺は生まれも育ちも東京で、田舎での暮らししか経験がなかった。
学園からしたら、寮は用意できるが、埼玉の奥地にあることを理解した上で利用すること。
俺は秋田県の田園村という場所に住んでいて、人口は三〇〇人もいない程の、超ド田舎だった。
交通の便は発達しておらず、基本的に一日に数本しか出ていないバスが移動手段だった。
東京は、数十分に一回は電車が通っているので、逆に新鮮に感じた。
東京の街でしか暮らした事がなかった俺は、ド田舎の学園に入学するのも悪くないと思った。そもそも、着郷学園くらいしか、自分を受け入れてくれる所がなかったので――選択肢がないに等しい。
面接の時はドキドキしながら受けて、あまり上手く回答する事が出来なかった。
特に一番悩んだ質問は「何故背、普通科を選んだのですか?」だった。
俺は頭が真っ白になった状態で、大声で「忘れました!」と言った。
これだけ聞くと、墜ちるだろうなと不安視していたが、不思議と合格を勝ち取る事ができた。
これで晴れて、無事に入学する事ができた訳だ。
しかし、俺が進学するのと同時に、両親が数年――アメリカに移住する事が決まった。
海外に行くには抵抗があったので、俺は着郷学園に入学したいと強く願った。
両親は特に否定する事なく、あっさりと納得してくれた。
そして、学校には全寮制の寮がある事も事前に知っていた。
元々、旧校舎が埼玉の奥地にあったが、東京に新校舎を設けたらしい。
そして、寮は旧校舎の近くにある。
寮は利用出来るが、バスで通学する事になる。
そこで三年間、暮らして・・・・・・無事に卒業するのを目標として掲げた。
その間に、何か熱中できる事柄を見つけたい。
そんな期待と希望をもって、俺は着郷学に編入する事になった。
着郷学園と学生寮の距離は、約六〇キロも離れているらしい。
その為、約二時間はバスの中で過ごす事になる。
都会で住む社会人も、電車で一時間くらい通勤に要すると聞くが、さすがに二時間は長い。
俺は中学生の頃は、自宅から徒歩一五分圏内だったので、歩いて登校していた。
その為、通学に二時間も掛かるとなると、何か良い暇潰しを探さなくていけない。
定期的にjungleという通販サイトで書籍を買って、読書するのも悪くない。それか、適当にMytubeの動画を漁るか。もしくは学園に到着するまで寝るのもアリだと思う。最近流行りの曲を――ヘッドホンを装着して視聴するのも手だ。
俺は、その二時間を、どう有効活用するべきか必死に悩んだ。
バスの中なので、立った状態で読書をするのは危ないかも知れない。だから、スマホで面白そうなゲームを発掘して、それを片手でプレイするのも悪くない。
とにかく、編入する前に、以下に通学時間を充実させる事ができるか考えた。
しかし――現実はそんなに甘くなかった。
東京の都心部にある着郷学園と、埼玉の奥地にある旧校舎の近くにある寮。
そこに、純粋に楽しめる娯楽が少なかった。
何かを買うにしろ、寮に娯楽室が設けられているが――あまり頻繁に利用しようとは思わなかった。高学年の先輩達による独占状態が多かったからだ。
なんと、着郷学園には、〝とあるエンターテインメント〟が存在した〟。
その名前は――『着席戦争』
着郷学園の風物詩と言って良い程、異端な娯楽だった。
それに魅了された俺は、自ら戦場に身を投じる事になる。
そして、『着席戦争』を語る上で、最も大事な重要人物がいる。
その人の名前は、須和流佳(すわるか)。
高校三年生で、先輩の関係に値する。
とにかく美人で、フランクで気さくに話しか掛けてくる、良き先輩といったイメージだ。
着郷学園では有名人らしく、その名を知らない生徒はいないと耳にした。
俺は――彼女と関わった事で、学園生活がカラフルに染まった。
少年院にいた頃は灰色だったが、今は色鮮やかな人生を送れている。
そう・・・・・・俺は、須和流佳に魅了されたのだ。
お陰様で、学園生活が退屈だとは思わなくなった。
あの人のおかげで、俺は・・・・・・生き甲斐〟を見つけた。
これは――俺と彼女の、壮絶な戦いの物語である。
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