第3話 ナミとナキ

廊下の奥、古い柱の影に隠れて、女の子、ナミはそわそわしていた。


「ねえナキ、あの子、また呼んでるよ」


男の子、ナキは眉尻を下げて答えた。


「……毎日だね。飽きないのかな」


「さあ」


「なんか、ちょっと……気になるよね」


「でも人間って、急に怖がったりするじゃん。前にもあったでしょ」


ナミは思い出した。

昔、姿を見られた途端に叫ばれて、逃げられたこと。


「でも小梅ちゃんは、笑ってたよ。『かわいい』って言った」


ナキは少しだけ目を細めた。


「……あの言葉、嘘じゃなかった気がする」


その頃、屋根裏では幽霊のサノがふわっと浮かびながらぐるぐる回っていた。


「ねえねえ!あの子、また折り紙置いてるよ!今度はウサギだって!」


百々目鬼のネネは静かに目を閉じたまま答える。


「……私たちのこと、怖くないのかな」


「怖くないんじゃなくて、嬉しいんだと思うよ!」


サノはふわっと浮かびながら笑った。


「おれ、今度ちょっとだけ近くに行ってみようかな」


その夜、ナミはそっと廊下に出た。

折り紙のウサギの隣に、小さな紙切れが置いてある。


「おとこのこたちへ。いっしょにあそびたいな。小梅より」


ナミは、紙をじっと見つめた。そして、次の日、ほんの少しだけ声を出しれみた。


「……あそぶの?」


その声は、妖怪たちの世界に小さな風穴を開けた。

ナキはそっと顔を出し、ネネは目を開け、サノは天井から小さくひょこっと顔を出した。

誰もが、少しだけ——心を動かされた。

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