優しくて狂気に満ちた物語

――電車の車窓から、かみさまが見えた。

一行目から、心をつかまれた。
この物語は、著者による説明文には(寮生活×百合×ホラー)と記されている。
これを読んで「自分向きではない」と感じた人がいたら、もったいない。
もちろん寮生活で百合でホラーなのだけど、この作品の背骨には、エンタメの王道的ストーリーラインがある。一般人には不可視である異形『かみさま』を視認できる少女が、ヒロインを異形による(ある種の)呪いから解放しようとするのだ。

この『かみさま』たちは、偏在する。

――海にも、湖にも、川にも、山にも、森にも、花畑にも、かみさまはいた。

二人の少女の甘い百合展開を見守っていた読者は、急に現れる鮮烈なビジュアルに、平手打ちを食らわされることになる。

――真っ赤な鯨のような、かみさま。体表のあちこちに人間の目と鼻と口を模したような傷痕があって、そこから滴るのは墨汁のように真っ黒な液体。

こ、これは……!? 今まで読んでいた百合は? (某ネットミーム)
となること間違いなしなのだ。
そしてこの『かみさま』たち、ひらがなで記されていることからも分かるように、ただ恐ろしいだけでなく気持ち悪さとかわいらしさを合わせ持っており、強く生理的な不快感を催させる。フワフワした甘さとドロドロしたグロさを交互に見せていく表現の振れ幅が、作品の魅力のひとつだ。

この物語には、それ以外にも相反する要素が多く配置されている。
理性と狂気。
優しさと冷たさ。
きれいなもの、汚いもの。
嬉しいこと、悲しいこと。
与えられること、奪うこと。
罰と赦し。
執着と解放。
情緒が、ぐわんぐわん揺さぶられる。

物語は少女たちの強い意思の力で終幕へと向かう。
その方法については周到な伏線が張られている。
対峙する『かみさま』が超常的な存在であることで、
ホラー作品としての強度が最後まで崩れない。
終わり方には、作り手の優しい眼差しを感じた。

とても面白かったです!

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