第26話 メルとミイ
「ミイ、ただいま~」
メルはウイッチハットを壁に掛けると、黒猫を探した。もう一週間近く留守番させていた。
「ミャー、メルお帰り」
家の奥から、小さい雌の黒猫が尻尾をピンとたてて歩いてきた。
メルの魔法でミイは話ができる。
この家にはしばらくメルとミイしか住んでいない。元々メルの家族も住んでいたのだが、ウィザード一家の父と母は自由奔放に遠征していて滅多にこの家には帰ってこない。年の離れた姉はご存知ブラウンベアーとして自然の中で生きている。
メルはまだ十五歳だが家事を含めて一人暮らしは苦も無くできる。そもそも子供ながらウィザードとしては超一流の技術を持ち、ルミナセルやパンゲリア区域のウィザード達の中では史上まれにみる天才、神童と言われていた。
しかしいかんせん、オーリアではウィザード自体の存在がマイナーであるため、全国的に有名と言うわけでは決してない。
「ほっといてくれる? なぜ人をそんなに下げるのよ?」
「メル、誰に言ってるの?」とミイ。
「こんなに可愛い魔女をつかまえて、よくそこまで言えるものね?」
「メル、女子は独り言が増えるとヤバイよ。それよりオーライトは手に入れたの?」
「もちろんよ。私に不可能はないわ。詳しく話そうか?」
「それより先に餌をください」
「はいはい。ミイ、太るわよ」
「ミャー」
メルはミイに餌をあげると、まだ15年しかない自分の人生を思い出してみた。
✧ ✧ ✧
メルの母は美人で優秀な芸術家の魔法使いとして有名な人だった。20年前当時は彼女のようなアーチストが全国各地でイリュージョンショーを行い、人々を魅了していた。
一方メルの父親は自然が大好きで、旅をしながら人々を自然の驚異から守る実用的な魔術(超能力)を使って仕事をしていた。
ひょんなことで二人は出会い恋に落ちた。
結婚して最初の娘が生れると二人はその娘を溺愛し、母親は魔女としての英才教育を施した。
優秀な魔術を持つ両親の元で娘はめきめきと魔法使いとしての腕を上げた。
そして次に妹のメルが生れた。
幼い時のメルは姉が大人顔負けの魔術を駆使して人々を驚かせたりもてはやされるのを見ていた。
時代の変化のあおりを受けて仕事を失った母親は自分の夢を託すように、姉にさらに高度の魔術を獲得するように厳しく接した。幼いメルも姉の修行につきあい、姉と同じようにその腕前を伸ばしていった。
姉はウイザードとしての能力は超一流だったが、実際は父の血を強く継いだようで自然の方が好きな女の子だった。
二十歳を迎えてこれから世界的な名声をあげようと言うときに、姉は母に反抗し魔法使いになることを拒否した。そして自らをブラウンベアーに変身させ、固定した。
突如始まった家庭の崩壊に、父は妹のメルに生活に必要な事を教えると、長い旅に出る様になった。結婚前の様に。
母は長女の反抗に心を痛め、家事育児を放棄して家を留守にするようになった。
メルは姉の事件に端を発した家族の崩壊に巻き込まれたのだった。まだ十歳だった。
彼女は孤独を紛らわせるように姉と同様に魔女の修行に励んだ。十一歳でウイザードマスターの称号を得た。やがて姉を超える魔法使いに成長したが、それを祝福する家族はもはやいなかった。
パンゲリアで彼女を見つけ、驚いたのはエリーゼだった。自らの冒険の最中に偶然会った彼女のウィザードとしての才能に感嘆し、ずっと記憶にとどめていた。
その時メルはまだ十二歳だった。独力でこのレベルまで高めた魔法使いをエリーゼはこれまで見た事が無かった。
エリーゼはライラ達の冒険の数日前に、チームに加わるようにメルに伝えていた。
「ミイ、一ヶ月後、今度はもう少し長い間旅にでなきゃいけないんだけど、あなたはどうする?」
「ミャー。そうだな、退屈だから私も行こうかな?」
「そうね。一緒に行こうね。なんかそろそろパンゲリアでの生活も終わりかもしれない」
「ミャー。さてどんな出来事が待ってるか、楽しみだね!」
「そうね!」
メルはミイを抱きしめてにっこりと笑った。
それから一ヶ月。
メルはミイと一緒にパンゲリアの最後の優しい日々を過ごした。
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