第13話 難関ブラウンベアー

 キースとライラは尾根にいる熊親子の向こう側に静かに着地し人間の姿に戻った。


 荷物を降ろすとプラズマソードを手に互いに顔を合わせ頷いた。ブラウンベアーの方へゆっくり近づく。


 一方のアレックスも尾根に入った。歩みを進めるとブラウンベアーが視界に入って来た。アレックスの耳には通信機が付いている。オーリアでは一般に普及している電波通信機である。キースとライラも装着している。


「ライラ、キース。現場に近づいた。そっちの準備は?」

『アレックス、準備はできたわ。見える?』


 熊の向こう側がキラリと光った。発光体をこちらに向けたのだろう。


「ああ、見えた。タイミングはどうする?」

『大体5分後、ラックベアーを誘ってこちらを向かせたら笛で合図する! 一回鳴らしたら準備、次に鳴らしたらGOよ! 犬の姿でダッシュできる状態にしておいて』


「わかった。気を付けてな!」


 通信を終えると、アレックスは気配を消してブラックベアーの至近距離までそっと静かに近づいていった。


 二匹の子熊は木の実でも探しているのか尾根道の周りの背の低い木の根元を漁っている。それをじっと見守る巨大な母熊。存在感が半端ない。


 ふとアレックスは母熊の目に違和感を感じた。普通の熊の瞳とは違う。アレックスはその違和感を探る為に犬の姿に静かに変身して改めて匂いを嗅いでみた。すると匂いも通常の獣臭に混ざって、何か特殊な香水のような清く優しい匂いがする。何なのだろう?


「フラフ、あれは普通の熊なのか?」


 アレックスの背後に隠れて浮かんでいるフラフが特殊な測定方法で熊を調べた。


「組成的には普通のブラウンベアーですが、やや高度な思考回路が伺えます。もしかしたら特殊な個体かもしれません」


 アレックスは見つからないように身をひそめながらじっと母熊を見つめて、ライラからの合図を待った。



 ✧ ✧ ✧



 反対側にいるライラとキース。


「いいか、ライラ。熊に静かに存在を知らせるんだ。母熊が気が付いたら刺激をせずに注意をこちらに向けさせるんだ。母熊は子熊がいるからその場でこちらを威嚇してくれればいいんだが、こちらに襲い掛かって来る可能性もある。その時はまずは逃げる。万一、逃げきれない時だけ仕方がないからソードで立ち向かうんだ」


「分かった。でも殺しちゃいけないのよね」

「殺しても殺されてもいけない。かなり強いから気をつけろ」

「襲ってこないことを祈るわ」

「よし、じゃあお前の好きなタイミングでやれ」

「了解」


 ライラは身をかがめてゆっくりと母熊の方へ近寄り、距離にして20メートルほどの茂みで母熊を観察した。一つだけ気が付いた。


(爪が特殊ね……少し光っている?)


 ライラの目には母熊の大きな爪が淡く光っているように見えた。大きさもそうだが、特殊なブラウンベアーであることを確信した。


(用心しないと……)


 ライラはとてもゆっくりとした動作で、茂みから立ち上がった。

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