第2話 私の大切な人?

◇◆◇◇◇◇◇


 新緑がみずみずしく生い茂るころ。

 私たちは一緒にテスト勉強をするくらいには仲良くなっていた。

 図書室で勉強中。前の席には遥人はるひとくん。


「ふわあ……だいぶ集中できた」


 私は大きく伸びをして息を抜く。


「互いに苦手科目を補えるのはいいね」

「ほんと、それ!」

「つぼみさん、ほんと文系科目得意だよね」

「まあ、文芸部ですし? 文系が得意じゃなかったらうそでしょって感じ」


 へへん、と胸を張る私。


「教えてもらえるのマジ助かってる。ありがとう」

「う、うん」


 まっすぐに感謝を伝えられ、思わず顔が熱くなる。


「そういう遥人はるひとくんこそ、理系得意じゃん?」

「まあ、エンジニア目指してるからね」

「へえ……」


 エンジニア。

 どんな仕事かさえ分からなくて、つい黙る。


「私には想像すらできない仕事って感じ」

「そう?」

「うん。そんな感じで理系科目苦手だから、教えてもらって助かってるよ」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 遥人はるひとくんが視線をそらし、少しだけ頬を赤らめている。

 仕返しを決めた私は内心でほくそ笑んだ。

 

「話は変わるけど、つぼみさんは大学どこ目指してるの?」

「K大の文学部目指してるよ」

「K大? 一緒だ。僕は工学部だけど」

「マジでっ!?」


 思わず声のトーンが一段と上がってしまった。

 しまった、と思いつつ周囲を見回す。


「えへへ。つい嬉しくなっちゃった」

「はは。文学部なのって何か理由がある?」

「うん。実は私、作家になりたいの」

 

 周りに聞こえないように声をひそめる。


「K大文学部出身の作家さんって多いし、出版社とのパイプもあるって評判なんだ」

「へえ。それは知らなかった。……で、どうしてそんなに小さな声で話してるの?」

「それはね。大切な話だから、だよ」

「う、うん?」


 小首をかしげる遥人はるひとくんが可愛い。

 満足した私は椅子に座り直して姿勢を整える。


「さて、休憩おわりっ。文系科目の分からないところはどんどん聞いてね?」

「今まさに解けない問題に直面してるんだけど」

「それは自分で考えてみて」


 困り顔の遥人はるひとくんを見てくすくすと笑う。


 ——大切な話は大切な人とだけ共有したい、なんてね


 小さなつぼみの中にひそんだ、まだ言葉にできない想い。

 私は少しのもどかしさを覚えながら、花開く未来への期待を膨らませていた。

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