ゆとり喫茶 竜宮
ソウカシンジ
第1話 既知の苦み
大学の講義が午前中に集中し、午後から暇な時間が湧き出てきた。
「暇だなあ。」
色々な人間が色々な風に過ごすキャンパスで、今ここに暇人が誕生した。
「なに。
いくつ後ろかわからない席から、友人の
「それならさ、喫茶店いかない?気になってるところがあるの。」
喫茶店、か。カフェではなく。愛にそんな洒落た趣味があったとは。面白そうだ。
「いいよ。」
愛と向かった先は、大学の最寄り駅周辺。何本かそびえたつ駅近ビルの一つを目掛けて、愛はズンズンとその足を進める。
ビル内に入ると、愛は案内板の前で足を止めた。
「ほら、ここの三階。」
案内板に目をやると、「ゆとり喫茶
「すいません、二人なんですけど。」
「二名様ですね、カウンターと四人席がございますが。」
「じゃあ四人席にしようか、ね。」
愛が私のほうに目を向け、確認してくれた。
「うん、四人席で。」
「かしこまりました。ご案内いたします。」
内装は黒と茶色を基調としており、天井には小さなシャンデリアが四角く四つに垂れている。ワンフロア丸ごとこの店になっているらしく、中は広々としている。四人席はソファーと椅子を組み合わせたものになっていて、荷物も置きやすい。
「結構広いね。この音楽、レコードかな。」
愛の好奇心を店の雰囲気がくすぐっているのがわかる。
「いいね。落ち着いてレポートが書けそう。」
「もう、綾ったら。レポートはいったん置いといて、喫茶店楽しもうよ。」
「そうだね。何頼む?結構メニュー表分厚いね。」
「本当だ、迷っちゃうなぁ。私、朝ごはん抜いてきちゃったからなぁ。がっつり行きたいし、玉子サンドイッチとカフェラテにしようかな。綾は?」
「私もがっつり行きたいから、オムライスとコーヒー頼もうかな。」
「よし、すいません。注文お願いします。」
「はい、ご注文お伺いします。」
「オムライスと玉子サンドイッチ、ドリンクはえっと、ブラックだよね?」
「うん。」
「ブラックコーヒーとカフェラテください。」
「オムライスはケチャップソース&チキンライスとデミグラス&バターライスの二種類がございますが。」
「どうする?」
「ケチャップで。」
「かしこまりました。ドリンクはアイスとホットからお選びいただけます。」
「アイスでいい?」
「うん。」
「アイス二つで。」
「かしこまりました。ご注文復唱させていただきます。オムライスのケチャップ&チキンライスがお一つ、玉子サンドイッチがお一つ。ドリンクは、ブラックとカフェラテをそれぞれアイスでよろしいでしょうか?」
「はい、間違いないです。」
「ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ。」
店員さんが去っていくのを見届けながら愛が言った。
「声も顔もめっちゃかっこよくない?」
「確かに。
「あんなに魅力的な人、久しぶりに見たかも。」
「それ、この前聞いたよ。」
「今度は本当だから。」
「失礼いたします。お先にドリンクでございます。」
「ありがとうございます。」
早速一口飲もうとコーヒーを口に運ぶ。舌先が心地よい苦みに包まれ、香りがやがて鼻腔へと届く。とても懐かしい。この味、確かに覚えがある。
「私、ここに来たことがあるかもしれない。」
ゆとり喫茶 竜宮 ソウカシンジ @soukashinji
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