偽りの黄金少女

遠野紫

1章 転生 01

 この俺、佐藤巧さとうたくみは所謂ゲーマーと言うやつだろう。

 それこそ数多くのゲームを遊んできたと自負している。


 そんな俺の人生の中でも、群を抜いて記憶に残る作品があった。

 その名は「黄金英雄記」。これはもう別格。


 ゲームシステムからBGM、キャラデザにストーリー。

 何から何まで最高と言うほかない代物だ。

 

 そしてなにより、この作品には俺の生涯の推しであるメリアちゃんがいる。

 

 美しい金髪の長髪。透き通るような碧眼。もちもちとした柔らかそうなほっぺたもたまらない。

 まさに美少女中の美少女と言った彼女にはこれでもかってくらいに目を奪われてしまって仕方がない。


 まあ、性格に若干の難はあるけどもね……いやしかし、それもまた彼女の持つ味。

 むしろどこか高慢かつ傲慢でありながらも弱者救済の精神を持つ高貴な性格に惹かれたまである。


 ……ふぅ、やっと落ち着いてきたか。ひとまず、自分語りとメリアちゃんへの愛の叫びはそれくらいにしておこう。

 なんせ今は決してそんなことをしている場合などではないんだから。


 何故かって?

 そんなもん、見ればわかる。


 前述の通り、彼女は特徴的な姿をしている。言わば金髪碧眼のロリと言うわけだ。

 そんな彼女の姿が何故か今、目の前にあった。


 いや、厳密には湖の水面に映っている。

 つまるところ、俺自身が彼女の姿をしていると言うことなのだ。



「何だこれはァァッ!?」



 途端に飛び出る絶叫。

 その声は紛れもなくメリアちゃんのそれであった。


 うーんやっぱり良い声だ。可愛いながらも威厳のある良い声。



「オ、オレがメリアになっているではないかぁ!?」



 そして同時に、口調まで彼女のそれになっていた。

 容姿、声、おまけに口調までって……流石にスリーアウトでトリプル役満ってところだな。


 正直、何が何だかわからない。

 どうして俺がメリアになっているのかも、こんな自然豊かな場所にいるのかも。


 最後の記憶は都会の真ん中でコンビニに行った帰りに横断歩道を渡っていて……突然現れたワイバーンに轢かれたところまで。

 なんか吹っ飛んで行く俺の手足や内臓が見えた気がするけど、何もおかしな点はない。


 ……んな訳あるか。

 絶対そのワイバーンのせいだろうが。


 えっ、じゃあ俺……死んだのか?

 そんなギャグみたいなトンチキ展開でアホみたいな即死をしたってのか?

 


「フッ、フハハハ……! 中々に面白いではないか」



 うわびっくりした。つい漏れ出てしまったのか、メリア語に翻訳された言葉が聞こえてきた。

 ふざけるなよ。メリアにとっては面白いかもしれないが俺にとっては一大事だ。


 ……いや、そもそもなんで勝手にしゃべっているんだよ。俺の意思はどうした意思は。


 くそっ、何から何まで分からんことだらけだ。

 ここがどこなのかも分からないし、そもそも仮にあの時死んだのだとすればここが日本……いや地球なのかすら怪しい。


 おいおい、俺は一体どうしたらいいって言うんだ……?


 ……とにかく、ずっとここにいても埒が明かない。

 こんな森の中じゃ水はともかく安全な食べ物の確保も難しいだろうし、ひとまずここから出た方が良さそうだ。


 まあ、素直に出させてくれればの話だけど。



――ガサッ



 噂をすればなんとやら。

 前方の茂みがガサガサと揺れている。


 膝くらいまでの高さだからあまり大きな生物ではないだろうけど、きっと森の中には危険な猛獣もたくさんいるはず。

 今の俺みたいなちっこい少女なんてただの餌でしかないぞ。


 ならば!

 逃げるが勝ち!!


 しかし足が動かない。

 まさか恐怖で動けないとでも言うのか?

 くそっ、そんな場合じゃないのに。



「グルルゥ……」



 おっと、前方から獣のうめき声的なものが聞こえてきた。

 俺がもちゃもちゃしている内に茂みから出てきてしまったわけだ。


 しかしどうする。

 今から逃げたところでどうにかなるものなのか?


 今の俺はただのか弱い少女。

 野生の獣を相手に走力で勝てるとは思えない。


 と言うか……そもそもあれ、野生の獣とか言うレベルなのか?


 見たところ小型の狼っぽい見た目だけど、何かオーラ的なものを纏っている。

 かなり現実離れしている光景だ。


 何と言うか、動物と言うにはあまりにもこう……ファンタジー過ぎないか?



「グォゥァ!!」



 しまった。目を合わせたせいか明らかに警戒された気がする。



「グルゥ……ガゥ!!」



 ヤバイ、常にこっちを睨みながらゆっくりと距離を詰めてきている。

 逃げるにしても後ろを向いた瞬間に飛び掛かられてあっという間に嚙み殺されそうだ。

 とは言えこのまま後ずさりをしようにも、向こうの方がどう考えても速い。


 万事休す……なのか?

 何もわからないまま、ここで狼の餌になって終わりなのか?



「つまらん、雑魚ではないか」



 ……ん?



「ギャゥッ!?」



 ゴっという鈍い音と共に、気付けば狼は吹き飛んでいた。


 やったのは恐らく地面から飛び出している金属の柱。

 見覚えがあるぞこれ。いやもう見覚えしかない。


 間違いなく、メリアちゃんの得意とする錬金術を使った攻撃だ。

 

 と言う事は、今のは俺がやった……って、ことなのか?

 無意識の内に俺はメリアちゃんの力を使ってあの狼を吹き飛ばしたってことなのか?

 なら今の俺は錬金術が使えて、メリアちゃんと同様に戦う力があるってことだよな。

 

 ……いけるかもしれない。


 メリアちゃんは錬金術の天才だ。その力が今の俺にあると言うのなら、例えここが現実離れした何かが蔓延る魔境だとしても生き延びていける。

 なんせメリアちゃんは可愛くて天才で最強なんだから。


 それによく考えれば、せっかくメリアちゃんになれたって言うのにこんなところで死んだら勿体ない。

 可愛いもちもちほっぺも、可愛いお声も、今はぜーんぶ俺のものなんだ。


 うへへ、自分の体なんだから何したっていいよなグヘヘ。


 けどまあ、そのためにもまずはこの森を出ないとな。

 状況も状況だし、安心して色々と整理できる場所を確保する必要がある。

  

 となると、まず目指すべきは人のいる所か。

 村でも町でもいい。さっきみたいな危険な獣が出ることのない安全な場所を目指そう。


 今後どうするかを考えるのも、まずは身の安全を確保してからだ。

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