即死魔法の使い手
ぱんぱかぱーん。
ある日トラックに轢かれ死んでしまったオレは、異世界転生して最強の魔法——『デス』を習得してしまいましたー!
オレが手にした『デス』は文字通り、対象を即死させる魔法だ‼︎ 呪文を唱えるだけでオレの頭に浮かんだヤツはもれなく死ぬ! まさに最強! 無双チート物語の始まりだぜぇー!
——というわけでオレは始まりの村にいるスライムやらゴブリンやらを即死させまくって経験値を貯め、難なくここら一帯の最強の勇者となったわけだが、そんな最強のオレに一つのクエストが舞い降りてきた。
クエストの内容は——ゾンビとなったペットドラゴンの討伐——どうやら村で飼っていたドラゴンが、夜に襲撃に遭いゾンビとなってしまったらしい。
ドラゴンといえど、オレの即死魔法の対象外ではない。いつも通りの依頼と変わらず、呪文一つで経験値とお金をたんまり稼げるというわけだ。
オレは早速依頼者の案内を受け、ドラゴンゾンビのもとへと向かった。
村から少し外れた丘の上、竜が鎮座していた。
漆黒の夜空に広がる深緑の翼、万物を射殺す真紅の瞳。とてつもない凶暴性を披露するドラゴンゾンビ——だがオレの敵ではない。
「くらえ、『デス』ッ!」
死が、竜を包み込む。
防御は不能。レベルの格差、体力の総量を問わず相手を死に誘う。
ドラゴンゾンビは苦悶の声をあげて床に伏した。
ああ——今回も簡単だったな。
さあ、帰ろう。そろそろドラゴンの経験値がこっちに流れ込んでくるだろう。そして村に戻ったらお金も大量に貰えて——ほんと、異世界生活って最高だな。
————あれ?
経験値が流れてこないぞ? 呪文は確かに命中した。最強無敵の魔法である『デス』が通用しないわけがない。
なにが起こっているんだ? 恐る恐るドラゴンを注視する——ど、どういうことだこれは⁈
苦悶の声だと思っていたそれは実のところ極楽の喜びに満ちた声だった。
死の魔法をものともしないどころか、むしろ余裕そうな素振りを見せられるとは……。
これは何かの間違いだ。もう一度魔法を掛ければ……!
「『デス』ッ!」
黒い闇が再び竜に纏わりつく。
一切の活力を奪う死の抱擁は、命の息吹、その悉くを許さない。
……そのはずなのだがやはりあの竜には呪言が届かない。
「なんだ……どういうことだ? 嘘だろ……」
オレは動揺が隠しきれない。初めての出来事だった。
そうか、ゾンビ……すでに死んでいる存在を殺すことはできない……!
オレの魔法が通用しない相手がいるだなんて……信じられるはずがなかった。
「くそっ、こうなったら……」
勇者の証として貰った剣で対抗するしかない……っ!
腰に提げた剣を抜いてドラゴンゾンビに斬りかかる。
初期装備のボロい剣ではドラゴンゾンビの鋼のような皮膚を貫くことは難しい。
それに慣れない剣術では防戦すらも敵わないだろう。
「くっ……!」
こんな苦しい戦いは初めてだった。
ドラゴンゾンビの皮膚は硬いがその下は腐肉だ。集中して一箇所に攻撃すれば、柔らかい部位に辿りつく。
そこに勝ち筋がある……!
「せいやっ!」
表面の鱗が剥がれ、薄皮越しに腐肉が露わとなった。
そこにさらにもう一撃を叩き込む。血が吹き出てきた。よし、これならいける——。
「やめてっ!」
この声、後ろから人が来ている——?
少女の声だ。まさか、村から出てきたのか?
「あの子は私のお友達なの! これ以上傷付けないで!」
そうだった——この竜はもともとペットだったもの。あの少女は村での反対を押し切ってここに来てしまったのだ。
——でも、ここで攻撃をやめるわけにはいかない!
切断——吹き出た血が顔に掛かる。崩れた腐肉が溢れ出す。
「いやあ! やめて、『リカバー』ッ!」
その呪文は……回復魔法! 白魔術師の基礎中の基礎とも呼ばれる『リカバー』は、その聖なる力によって対象の傷を癒し、あらゆる苦しみから解放させる魔法……! あの少女はあろうことか回復の魔法をドラゴンゾンビに掛けたのだ……!
まずい、これではせっかく付けた傷が元通りになってしまう……!
「待てっ……」
呪文を制止しようと少女に視線を移したそのときだった。
——竜の咆哮が響き渡る。
慌てて視線を向き直すとそこには、こんどこそ苦悶の声をあげて倒れる竜の姿があった。
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