14.やっと会えた
一度場が落ち着いてから、瑠璃さんは、この場の雰囲気を変えるために喋り出す。
「とりあえず帰ろうか」
柚先生も、空気を変えるためか、瑠璃さんに話を合わせる。
「じゃ、あたしもついてくー。あ、瑠璃。仁、律んとこで手当してもらってから帰るのがいいんじゃね?」
律?
誰かは知らないけれど、その人のところに行くらしい。
瑠璃さんには伝わったようで、軽く頷いて言った。
「確かに。よし!じゃあみんな、僕の車乗ってー」
瑠璃さんは車を持ってきていたらしい。
一階に降りて外に出て、車庫へ向かう。
瑠璃さんの車に案内されて、みんなで乗り込む。
みんなが乗り次第、車が発進する。
発信すると、車のスピーカーから明るい音楽が聞こえてきた。
明るい音楽が流れているというのに、柚先生と牧は、少し、いや、とても(?)顔をこわばらせる。
柚先生がポツリと言った。
「やっっっべ……」
そういった次の瞬間、車がものすごいスピードを上げ始めた。
瑠璃さんはニッコニコの笑顔で車を飛ばしている。
怪我人がいるのをわかっててやっているんだろうか。
少しして、車が急停車する。
うん、シートベルトの大切さを思い知った。
シートベルトがなかった場合のことを考えるとゾッとする。
全員苦しそうな顔をしている中、瑠璃さんだけは笑顔だった。
柚先生がぼくに言う。
「あの音楽を聴いたら覚悟しろ。アイツ、車ぶっ飛ばし始めるから」
ぼくはこくこくと頷く。
なるほど、瑠璃さんは車に乗ると性格が変わるらしい。
でも、あの音楽、と言ってたから違う音楽の時もあのかもだけど。
音楽が違ったら運転の仕方も違うとか、あるのかなぁ……。
「仁くん、顔色悪いけど大丈夫?」
瑠璃さん、心配してくれるのは嬉しいけど多分瑠璃さんのせい……。
「とりあえず着いたからさ、中入ろっか」
車が止まったのは、何かの建物の前だった。
看板を見る限り、何かの病院だと思われる。
西里整形外科。
これで病院じゃなかったら逆になんなんだろ。
瑠璃さんを先頭に、みんなが病院の中に入っていく。
病院のドアが開くと、ちりんと風鈴の透き通った音が聞こえた。
奥の方から、明るい、幼い男の子の声が聞こえてくる。
あの、聞き覚えのある、ホッとするような声。
久しぶりに聞いた、すごく欲しかった声。
この声の主には、何日ぶりに会っただろうか。
また、泣きそうになってきた。
「患者様です!」
―――ぼくが、ずっと待ち望んでいた声。
一寸先は闇だったかもしれない まな板の上のうさぎ @manaitanoue
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