9.笑顔に隠されたモノ
今日は転校初日。父さんには、なるべく笑えと言われた。ぼくは先生に指示された場所(廊下)で待機。
「今日は転校生がいます!どうぞ」
呼ばれて教室の中に入る。初めのうちはクラスメイトはざわざわしていたけど、自己紹介を始めると、とたんに静かになった。
というか、ここ、人数多いな……。いや、ぼくの通ってるところが少ないだけかもしれないけど。そんな事を考えながら、ぼくは右手で左腕をつねりながら無理やり笑って言う。
「はじめまして。ぼくは朝倉仁です。よく怪我をします。左頬もいつだったか、転んだときのものなのであんまり気にしなくて大丈夫です」
担任の先生は自己紹介を聞いて、にっこりと笑って言う。
「仁くん、私の名前は柚です。眼真柚。よろしくね」
「あ、はい、よろしくお願いします」
いつのまにか自己紹介は終わっていた。指定された席に着いた瞬間、周りに人が群がる。
「仁くんって呼べばいい?」
「仲良くしよーね!」
クラスメイトが愛想良く話かけてくる。
「よろしくね」
正直言って、人だかりの真ん中は嫌いだ。なんか気持ち悪くなる。胸がもやもやする。
……瑠璃さんや牧、百合ちゃんのところに帰りたい。はやく、帰りたい。……嫌だ。戻りたい。怖い……。
少しすると、担任の先生が言った。
「ちょっと仁くん、こっちに来てくれる?」
先生に呼ばれ、相談室まで連れて行かれる。
「仁くん、冥沙という名前に聞き覚えはある?」
「はい」
「その子のこと、どう思ってる?」
「まだ1回しか合ったこと無いですけど、優しい人だとは思います」
知らない
「優しそうな……ね。なら話が早い。あたしは冥沙の母親の眼真柚。あたしは元々はこういう喋り方なんだけど、生徒の前ではちゃんとした言い方しなきゃいけねぇから優しく接してっけど……。お前、冥沙の喋り方知ってんだろ?」
「はい。先生がその喋り方だと、知っている声なので、何もないところに放り出されたぼくにとっては少しぐらいは安心できます」
「そうか。で、その笑顔、やめない?」
ぼくは少し戸惑いながらも、笑顔をいつもの無表情に戻す。
「仁は父さんのこと怖いんだろ?父さんに笑えとでも言われたのかよ?」
ぼくは右手で左腕をつねりながら答える。
「いえ……そんなこと……」
「……はぁ。嘘つくんじゃねぇ。お前、笑顔の目が笑ってなかったぜ」
思わずうつむくと、柚先生がため息をついた。
「なんであたしがお前のこと知ってっか聞きてぇか?」
「はい」
「あのな、冥沙が言ってたんだよ。確か3日前……
冥沙が青い顔で叫ぶようにしてあたしを呼ぶ。
「どうした?」
「牧に聞いたんだけど、牧の兄ちゃんの仁ってやつが父親に虐待されてるらしくて、仁を瑠璃さんが引き取ったにも関わらずに散歩中、仁を連れてっちゃったらしいんだよ。で、もう引っ越してて!さがしてんのに見つかんねぇらしいんだ。学校にも来てねぇらしいし、牧も辛そうにしてた。どうしたらいい!?」
こんなに焦っている冥沙を見るのは、正直初めてだった。だからって、あたしまで焦っちゃいけない。そう、話している相手がパニックになった時は、自分はパニックにはなってはいけない。なってしまうと、いつまで経っても終わんねぇ。収拾つかなくなる。
「……落ち着け、冥沙。父さんは警察官だ。父さんに手伝ってもらう。あともう少しで転校生が来る。もしかしたらそいつが仁ってやつかもしんねぇ。だから少し待ってろ。なんとかすっから」
「……牧と陽眼に言ってくる!今すぐ!」
「いってら」
……なんてことがあったんだよ。超心配してるぞ?アイツら。一時的にあたしん家に住めば?そのあと牧たちのとこ行きゃあいいだろ」
「……なら、今日は考えさせてください」
「なんかあったら夜でもいい。あたしん家教えてやっから来いよ。地図渡しとく」
「はい……」
とは言っても家監禁されているような状態だし……夜のうちに逃げ出すことは不可能に限りなく近いけど。
「あ、地図はもし見つかったら大変なので覚えます」
「覚えられんのか?」
「はい」
「……世界で一番長い名前のものは?」
ぼくは思い切り息を吸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます