7.牧とシズ
「あーあ、今日ひまだなあ…」
牧のつぶやきにバリバリ仕事中で全然暇そうじゃない瑠璃さんが答える。
「まあ日曜日で学校に誰もいないしね〜」
そう、今日は日曜日。いつも騒がしいはずの学校は、至って静かだった。
百合ちゃんは保育園の友達と遊んでいるらしい。とは言っても、この小学校の生徒だけど。その子の親が瑠璃さんの学生時代の時の友達だったから信用できるんだって。
ただ、そんな学校も、静かではあるけど、少し騒がしいところもある。寮だ。
「教師寮に行けば先生たちはいると思うけど……生徒寮もそうだし」
そう言うと、牧はため息をついて首を振る。
「きょーしりょーには行っちゃいけないんだってー。生徒の方も中学校からしか寮はないしねー。わざわざ中等部まで行くのもアレじゃん?お父さんが言ってた」
少し牧とおしゃべりをしていると、牧がピクッと動いた。
「お父さん、この机借りるね」
「どーぞ」
瑠璃さんがパソコンを見ながら言う。牧は客人用の机に頭を置いて寝始めた。……2分ぐらいして牧がぱちっと目を開ける。
「ふぁー。おはよ……」
牧は目をこすりながら目を開け、ポーチにくっついている赤い何かを外してポーチの中へ突っ込む。
「……あ、こいつが前に牧の言ってた仁?」
牧は、ぼくを指さして笑いながら瑠璃さんにたずねる。
「そう。仁くんだよ」
……?牧なのに牧じゃない?目の前の牧はいつも結んでいる髪をほどいて、おさげの位置を変える。ちなみに、牧の髪ゴムは百合ちゃんとおそろい。すごく似合ってると思う。
「へー!よろしくな、仁。オレの名前は雫!今は十歳。年齢は、あるテストに合格すれば上がるんだけど……まあ、説明するのめんどいから、とりあえずで伝えとく。オレは解離性同一性障害っつー障害を持ってる。要するに多重人格で、その人格の内の一人」
多重人格!要するに、一つの体に何人も人が入ってる、みたいな感じのあれか。
「主人格は自分のことをボクとか言ってるヤツ、牧。たまにオレが呼び出される。ちなみに、この体にいるのは牧とオレ、笑実。今誰なのかってのが分かるようにするために、人格が変わったら変わるたびにおさげの位置とか形とか色々変えてるからそれで判断しろ。
んで、解離性同一性障害ってのは主人格がとんでもないストレスを抱えたときにストレスを分散しようとして何個もの人格が産まれるらしいけど……まあ、詳しいことはあの牧とかいうクソヤローに聞け。説明すんのめんどいし。
あ、オレのことは雫じゃなくてシズって呼んでほしい」
「シズ……?」
「そ。そっちのほうが呼びやすいだろ?見た目は変わんねーけど、性格は変わるし、記憶も共有できねーから、いつもノートとかメモ帳とか持ち歩いてんだ。あ、書いとこ。今日は仁と会えた。意外と可愛いな by.雫っと」
「ぼくが……かわいい?」
「うん」
「……腕の良い眼科を知ってるから教えようか?」
「え、仁って超可愛いけど!?鏡見る?」
「いや、見たところで変わらないって……」
「無表情なところも含めて可愛いぜ!」
「……ありがと」
すると、瑠璃さんが口を開いた。
「そういえばシズ、ヘルプマークは?牧に怒られるよ?さっき外したでしょ。牧はつけてたのに」
ヘルプマーク……。あの赤いやつ。牧のポーチにくっついてたやつ。
「別にそんぐらい、いーじゃんか。父さん言っといてよ、牧に。怒んないでやれって。怒れる立場じゃねぇって。アイツにどーこー言われんの嫌なんだよ。うぜぇし」
「いや、シズのせいなんだからシズが何とかするべきでしょ」
あれま、シズ、牧のこと嫌いなのかなぁ。というか、牧もシズも瑠璃さんとは仲が良いんだ。いいなあ。ぼくも、そうだったら良かったのに……。やばい、マイナス思考に走ってるぞ!ぼくは頬をぱんっと一つ打ってソファーに寝っ転がった。
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