6.妹ちゃんは元気っ子

「今日は小学二年生のところに行こうか」


理事長……新しい父さんが、声をかけてくれる。新しい父さんの名前は遠野瑠璃。ぼくは昨日から遠野仁。昨日はあの後ひとまず寮へ案内された。今日からは弟、牧たちと一緒に暮らす。


「まあ、とは言っても2年生にもうあってるんだけどね」


「え、いつ……?」


「陽眼と冥沙だよ!あの2人、牧の入学式を見に来てたんだよね、昨日」


牧はぼくと二人だけで喋っているのを見て自分も入りたいと思ったのか、明るい、大きな声を上げた。


「じゃ、仁くん、二年生のところいこーよ!ボクといっしょに!おとうさんも校内見まわりとして、いっしょに行こうよ!」


牧がぼくの手をつかんで走る。嬉しかった。大切にしてくれる家族がいて。楽しいんだ。こうやって、ルール違反して、廊下を走ってるのに。家族。……大好きだ、ぼくのことを大切にしてくれる、家族。母さん、これならぼくのこと、心配しなくても大丈夫でしょ?安心できるよね……きっと……。


……………………何かちがう。


これって、家族の存在が嬉しくて笑ってるけど、半分以上は、母さんを心配させたくないからっていう笑いだったんだ。……ごめんなさい。


「ほら、あそこ、2年生のきょーしつ!」


牧が楽しそうな声を上げて説明する。2ーAから2ーCまでが並ぶ。中を覗くと、2年生が授業を受けていた。


「ボクたち一年生はらいしゅーからじゅぎょーがあるよ。今週は一年生はじゅんびの時間!」


「そうなんだ……」


すると、牧が校庭を見て高い声を上げる。


「……あ!2年生がマリつきしてる!そうだ、仁くん。あそこいこー!」


「え……?」


手をひっぱられて走り出す。あっという間に校庭の2年生のところについた。でも、2年生じゃない子もいた。女の子だ。


「百合ー!」


「あ、おにーちゃん!」


おにいちゃん?百合とよばれた女の子が手を振って走ってくる。


「あれ?この子は?」


「ボクとおない年の仁くんだよ。仁くん、この子はいもうとの百合。普段は三歳違いだけど、百合、誕生日もう来たから2歳違いかな」


「こんにちは、牧のいもうとの、遠野百合です!」


「こんにちは。えっと……今日から家族になった、仁です」


「え……?どういうこと、おにいちゃん!」


牧が百合ちゃんを宥めて説明する。


「そっか……。ま、おとーさんが言ったんだからしょうがないね」


「え、いいの?百合」


「うん、だって、友達が毎日家にいるって思えば別に嫌じゃないもんね。よろしくね、仁おにーちゃん!」


「う、うん……よろしくね、百合ちゃん」


そう答えると、百合ちゃんはにこっと笑って言った。


「ね、仁おにーちゃん!今からマリつき対決を2年生とするの。みててね!」


え……牧と百合ちゃんは二才違うって言ってたから、四才?四才と七才が戦って勝てるのかな……?でも、試合いが始まって、謝りたくなった。だって、ニ年生対百合ちゃんで圧倒的に百合ちゃんのほうが強いから。


「あの……ぼくも、ニ年生と戦ってみたいです」


みんながばっとこちらを見る。


「それならはじめてだから手かげん……」


「……あの、しないでください!手加減なし、全力勝負、お願いします!」


この対決は、どちらが長くマリをついていられるか、という至って簡単な、シンプルなルールのものとなっている。

皆は、とまどいながらもしっかりと対決してくれた。


「勝者、仁くん!」


牧がそういった瞬間、拍手が沸き起こる。……そんなすごいものでもないけどな。


「仁おにーちゃん!すごい!次はわたしと戦って!」


「うん、わかった」


百合ちゃんもマリつきは得意だから、ルールを一つ追加する。審査員は、ついていた長さと芸のすごさを総合して勝ち負けを決めること。

早速ゲーム開始。みんながカウントする。


「1、2、3、4、5、……」


最初は普通に手で打つだけ。


「……21、22、23、24、25、……」


足で少し蹴ってみたり、くるくる回りながらついてみたり。


「……43、44、45、46……」


ついて、蹴って、後ろに運んで、頭に乗せて、またついて。


「……87、88、89、90、91……113、114……」


だんだん百合ちゃんが疲れてきている。スピードが落ちている。少し心配しながらついて、結局118かいで終わってしまった。牧は少しの間頭を捻って、おっきな声で告げる。


「仁くんのかちー!」


少し百合ちゃんが可哀想だから、フォローを入れておく。


「百合ちゃん、強いね!ぼくと同じぐらい体力があれば、ぼく、負けてたかも」


「あ……ありがとう」


「すごかったからね」


「また今度、いっしょにしょうぶしよーね!」


「うん」


ひとまず百合ちゃんと仲良くなれてよかった。ぼくはほっとしてため息をついた。

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