第3話
「おい裕介、お前何考えてるんだよ」
昼休みになった途端、本郷は俺を空き教室に連れていき、そう問いただす。
「何のことだよ」
訳が分からない。俺が何をしたっていうんだ。
「いやいや、ラブレターのことに決まってるだろ!お前、クラスの女子全員にラブレター書いたらしいじゃねえか。普通じゃねえよ」
本郷は地球外生命体に出くわしたと言わんばかりの驚きようをしている。
ちなみに本郷の言っていることは間違っている。正確には──。
「クラスの女子だけじゃない、学年の女子全員に書いたぞ」
見てはいけないものを見るかのような目がこちらを向いている。「マジかよ・・・。」と呟いた後、本郷は沈黙してしまった。
「何でこんなことしたんだよ」
少しの沈黙の後に発せられたこの言葉に、俺はいつも通りの口調で回答する。
「もちろん彼女をつくるためだよ」
昨日、俺がひらめいたアイデアとはこうだ。
学年の女子全員に、付き合ってほしいという旨のラブレターを書くことによって、誰か一人くらいは了承してくれるのでは、という、極めて効率よく彼女を作ることができる、かの中国の有名な天才軍司、諸葛孔明に匹敵する策だ。
この策を実施するにあたり、昨日おれは文房具屋へ行った。
俺が文房具屋で購入したものはレターセットだ。便箋は周りが淡い緑色をしており、イラストはなく罫線のみのシンプルなもの。
このレターセットは用紙が20枚しか入っていなかったため、5つ購入した。
富北高校の一学年のクラス数は5つ。どのクラスも男女比率はほぼ半々なため、一学年の女子の人数は約100名だ。
5つも買うのは少し金がもったいないと思いつつも、ここで妥協して後で後悔したくないと思い、購入を決意した。
購入する際、レジを担当していた若い女性店員が、怪しげな目で見てきたような気がしたが、ただの気のせいだろう。
家に帰ってきてすぐにラブレターの作成に取りかかった。
生まれてこの方、ラブレターなどというものを書いたことがなかったため、どのような文面を書けばいいのだろう。購入した便箋を目の前に、頭を悩ます。
とはいえ現在は情報化社会である。たいていの情報はインターネットという広大な世界のあらゆる場所に落ちている。
「高校生 ラブレター 書き方」と検索をかける。
予想通り、大量の検索結果がヒットした。
いくつかのウェブサイトを適当に開き、シャープペンを便箋に走らせる。
──そして完成した文章がこれだ。
『こんにちは。私は1年1組の佐々木裕介です。突然の手紙で驚かせてしまったことを、まずはお詫びします。入学して2週間、少しは高校生活になれてきたのではないでしょうか。お互い、中学生の時よりも少し大人に近づきましたね。そんな子供と大人の狭間にいる私ですが、最近ひどく心が揺れ動くのです。この胸の鼓動は何なのだろう、深く考えを巡らせると、その謎が分かりました。私はあなたのことを好きになっていたのだと。あなたの艶らかな綺麗な髪、凛とした表情、全身から漂うフローラルないい匂い、非常に魅力的です。私はあなたのことを永遠に愛する自信があります。もし良かったら付き合ってください。』
この文章がどれ程出来のいいものかは分からない。
「ラブレターは文章の内容はもちろんですが、一番は書き手の気持ちです」という情報があったが、もちろん俺には気持ちなんてものはない。
同じ文章はひたすら書き続け、何とか100枚のラブレターが出来上がった。
完成したラブレターを一つ一つ丁寧に封筒に入れて完成。
そして今日の朝7時に学校へ来て、学年の女子たちが登校する前に、一人一人の下駄箱にラブレターを入れておいたということだ。
「お前、ただものじゃねえな・・・」
唖然とした顔で本郷はそう言った。
「本郷、よく考えてみろよ。いちいちLINEを交換し、そこから時間をかけて交際の関係に発展させるよりも、告白、という紙切れを100人同時に突きつける方がはるかに短時間で彼女をできると思わないか?」
一人一人丁寧に関係を築いていくという本郷の彼女の作り方はおそらくスタンダードなやり方なのだろう。
丁寧というのは、良い意味で使われることが多い言葉だが、丁寧というのは度が過ぎるとそれはただの非効率という言葉に変化する。
唖然としていた本郷だが、その表情に次第と笑みを浮かべてくる。
「やっぱりお前は変わってる。変わった人だ。最高だよ裕介」
すっかりにやにや顔になった本郷に俺は提案する。
「上手くいったら何人か紹介してやるよ」
「いやいやお前、調子に乗るなよ。絶対誰もOKしてくれないって」
「そうやって笑っていられるのは今のうちかもしれないぞ」
「言うね~まあ、期待せずに待たせてもらうよ」
しばらくして俺たちは空き教室を後にした。
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