第2話 小休止
小休止がいつ終わるか分からず、喉が乾いたので身に付けているものを探ってみると、水筒の形をした容器があり、蓋を開け手のひらに少し垂らしてみる。
「水だ」
嬉しいことにそれは水だった。ぬるいが飲めるに越したことはない。半分ほど飲んでいた時、甲冑姿の男が近付いてきた。
「矢が飛んで来る中、呆然と突っ立ていたのはお前の事か?」
男は顔まで甲冑で固められており素性が分からない。
(ヤバい……正直にいったら罰が来るかも。かといって嘘でもついたら最悪……)
「はい、僕の事だと思います」
「ほう」
正直に言って良かった!これで死ぬことはない筈だ。……は!?
男は何も言わずガララと鞘から剣を抜いた。その剣は陽光に照らされ、甲冑よりも眩しく鏡面を光らせている。
「見ろ!副長殿が剣を抜いた」
「まじ!?」
気づいた兵士たちが続々と周りを囲んでいく。男は両手剣を右肩の前に据えた。間違いない俺を殺る気だ!!
「貴様!!」
右足を後ろに擦ろうとした瞬間、男は怒号を飛ばした。
「逃げてみろ!!処刑は確定だ!」
今から殺そうとしている人が何を言っているんだ!!副長殿と呼ばれる男は一歩ずつ踏み締めて近づいてくる。
「動くなよ」
「は?」
一閃、副長は剣を振るった。次に血しぶきを上げる——
「あれ?切れていない…?」
斬撃によって服は裂かれ、中に着込んでいた鎖帷子※が露わになった。どうりで身体が重いわけだ。
「おい」
顔当てのバイザーを開け、碧眼がこちらを覗いている。
「水をくれ。少しは残ってるだろ」
副長の要望通りに水筒を差し出すと、副長は少し待てと自身の兜を取り外した。少し色褪せた金髪で均整の優れた青年だった。
「それなりにあるじゃないか」
受け取った水筒を飲み、蓋を閉めると俺の方へ投げた。革手袋をしていたので慣れず水筒はするりと落ちてしまった。
「はは下手くそ」
「急に投げるからですよ副長殿」
「俺の名前は副長殿じゃないぞ。間者か?名乗れ」
落ちた水筒を拾う最中、思わず固まった。一難去ってまた一難か。こいつの名なんか知らないし、まして俺の名前も知らない。
♢♢♢♢♢
なんだ今のは!?でも言える俺の名前が!
「さぁ言え!!」
副長は疑心の眼差しを向けている。下手すればまた抜刀騒ぎになりかねない。例え違っても言ってやる。
「ユウタ、俺の名前はミカミ・ユウタです」
さぁどうなる?
「ユータ?」
副長殿は首をかしげた。ここの世界では見ない名前かもしれない。まぁ言ったものは仕方ない。それは良いが、周りがやけに忙しくなっている気がする。おや誰かが近づいてくる。
「隊長より伝令!!小休止終わり!行軍を開始せよ!との事」
「了解、我々も前進する。お前ら休憩は終いだ」
辺りの兵士たちは地面に倒している槍を持ち上げ、行列を再び組み始める。さて俺もこっそり列に入ろう。
「待て!!ユータ」
呼び止められた俺は急停止し、副長の元へ振り向いた。幸い怒ってはいない。
「配置換えだ。最前列から最後列に行け」
「え?」
「聞こえなかったのか?移動だ、後ろの馬車列の護衛だ。隊長には俺が言っておく。事由を訊かれたら副長が命じたと言え」
こうしている間に列は次々と出来上がっていった。すると前方より槍を両手に持った兵士が現れた。
「誰だ!道端に槍を置きっぱなしにした奴は!!」
その怒声は戦闘中俺を蹴っ飛ばした兵士の声と同じだった。
「貰っとけ、丸腰のお前に何が出来る」
背中を押された俺はその兵士の元へ駆け寄る。
そして数秒後また彼の怒声が上がった。
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※鉄製のリングを繋ぎ合わせて装備として着用する。
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