我々は死を知らない。

天乃 海呼鳥

序章▶︎知らない

「我々は死を知らない。」


 そう考える理由を説明する前に、ちょっとした予備知識を話そう。

 と言うのも、わたしの思考は東洋の古来の思想観が深く関わっているので、知っている前提で書こうものなら一部の限られた人にしか伝わらなくなってしまうからだ。


 今回この話をする上で鍵となるのは、「陰陽論(オンミョウ/インヨウ-ロン)」と呼ばれる理論。

「陰陽論」は古代中国で生まれた思想であり、森羅万象すべての物事は「イン」と「ヨウ」という対立するふたつの面を持ち、相互に影響しながら表裏一体に存在している…という概念である。

 これは陰陽が両方合さって「ひとつの事柄」が成り立つので、どれだけ突き詰めたところで片側しか見ていなければ、その物事の2分の1しか理解できていないことになる。


 ざっくりこんな理論なのだが、つまり「生きること」を考えるためには反対の意味である「死ぬこと」についても深く知る必要があるわけだ。

 しかし残念、わたしは死を知らない。

…と言うより、死をと表記した方が正しいかもしれない。


 今これを読んでいるあなたが、ならなぜ知り得ないのかよくわかることだろう。


「死を深く知る」ための、たったひとつの方法———

 それが、他の何でもない「死を経験すること」であるからだ…

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我々は死を知らない。 天乃 海呼鳥 @315_mikoto

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